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二連の宝珠  作者: れんじょう
冬柊の終焉
19/38

道程 【5】

 それとも。

 

 身体は大人でも、心が子供とかわらないこう(・・)に、この世を支配できうる闇の支配者と戦えというのは無理な話か……。

 それでも今現在唯一の存在の主人(ぬしびと)であるこうを戦いに巻き込まなければ、闇の支配者には勝てる見込みが全くない。

 今このときに主人が見つかったということは、何かの啓示なのか? 光の主人なしで、闇の支配者に戦いを仕掛けることができるということなのか?

 

 「どないした? えらい考え込んでるけど。 それとも、首、痛いんか?」


 今さらながら自分の腕の力がどれだけ強いかわかったらしいが、そんなことはおまけにすぎない。

 その力より、主人であるということのほうが、どれだけ大きな助けになるかわかっているのか?


 「こう。 頼みがある」


 そういって、旅の同行を切り出したら、あっさりと即答された。


 「いいで? そのひめさんと日向の幼馴染の彼女さんと日向と一緒に旅して、光の主人さがすんやろ? まあ護人は護人同士わかるもんがあるかもしれへんしなー。 火焔、いったいどうなん?」


 『近くにいれば別だが、単に力をつかったからといって護人を感じることはない』


 裏返せば近くにいればわかる、ということだな。

 やはり護人がいれば、同族を見つけることが容易で、その護人は主人がいないと動かない。 こうが動かないと火焔も動かないということだ。

 だとすれば、こうに動いてもらうほかない。


 ―――――すまない


 「支度にどのくらいの日数がいる? 俺はひめのもとまで一度帰らないといけないが、どこか場所を決めてそこで落ちあおう」


 「かまへんで? どうせ気楽な生活してきたから、今からでも一緒にいけるわ。 仕事もちょうどあらへんかったから、試しに作ってみたいもん、造ってたくらいやしな」


 「! そうなのか? 誰かに店番を頼むとか、そういったことはしなくても大丈夫なのか?」


 「あ~、店番ね……。それやったら火焔に結界はらしとくから、誰来てもはいれんようしとくわ。 【火焔】」


 主人であるこうが火の護人の名前を少し力を込めて呼んだとたん、ぴしっと空気が張り詰めた。 火焔が結界をはったようだ。


 「これでもう大丈夫やろ」


 驚いた。

 術者たちが結界をはるのを何度か見てきたが、こんなに簡単に結界を作るのは初めて見た。 術者は護人と同等の能力を手に入れるために様々な小道具を使って力を駆使するが、……これは全く違うものだ。 何の札も何の詠唱も唱えることなく、思っただけで結界をはるとは。 護人の能力とは、恐ろしいものだな。

 その恐ろしい能力を使わなければ倒せない相手と今から戦うのかと思うと、背筋になにかぞわぞわしたものが走った。




 *********


 

 「どうでしょうか? 足の痛みは治まりました?」


 ひめさまの晴れた足をずっとさすっていたら、硬かった筋肉がだんだんとほぐれていくのがわかって、ちょっとほっとした。 けれど足の親指と人差し指の間にできたズレは、一日二日ではどうしようもないほど赤く爛れていて、見ているこっちが痛くなってくるほどで。

 ころあいよく野生馬が現れてくれたおかげで、これからの道のりを歩かなくて済むだろうから、ひめさまの足もこれ以上は酷くはならないと思うと、ほっとした。


 「ひめさま? どうですか?」 


 幾度か声をかけても、ひめさまは窓の外を遠くを見るような眼で見つめるばかりで、足をさすっていることもわかっていないかも……。


 「……うん? ああ、ありがとう。 随分と良くなっているわよ? もう大丈夫だから、なゆたも少し休んだほうがいいわよ? これからの道のりは長いんだし」


 そういってまた窓の外を見だしたひめさまは、今度は何か面白いことを見つけたかのように笑い始めた。


 「もうすぐ日向がもどってくるわよ? これで日が暮れるまでに次の宿場にいけるわね?」


 どうして日向の帰還がわかるのか、わたしにはさっぱり分からないし、知ろうとも思わないけれど(さっきの失態があるし)、ひめさまがそういうのならそうなのだろう。

 では私にできることを先にしておこう。 日向が戻ってきたら、すぐに発てるように取り計らっておこう。

 茶屋の主人が気を利かせてお結びを葉にくるんで持ってきてくれたから、あとは竹筒に水を汲み、用意は万端。 あとは日向を待つばかり。

 そう思って街道の、日向が向かったほうを見ていたら、馬の蹄の音とともに影が見えた。……日向だ!

 あれ? だけど、日向がの後ろにも影が見える。 誰だろう。


 「只今もどりました」


 ひめさまに報告をする日向の後ろには、日向よりも頭一つ分は大きくて、鍛え上げられた身体を持った男の人が立っていた。 

 その人は深紅の瞳を持っていた。

 ……まさか、火の主人?

 

 「ひめさま。 この者は火の主人のこうと申すものです。 私が尋ねた鍛冶屋の主人でもあります。 旅の同行を許可ください」


 「こう、といいます。 そして俺の護人、火の火焔です」


 こうが懐に入れていた巾着袋から深緋(こきひ)に輝く珠を取り出し「【火焔】」というと、珠から揺らぐ何かが出てきて、それは人の形を取り始め、最後には赤い、まるで炎の塊のような人間になった。


 ぽう


 その瞬間、ひめさまの胸のあたりからやさしい光が放たれ、その光が火焔に届くと火焔の炎が威力を増したように、ごう、と揺らめいた。




 「これは……。 ひめさん、あんた、主人やろ?」




  

 


 



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