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二連の宝珠  作者: れんじょう
冬柊の終焉
18/38

道程 【4】

 蹄鉄を馬につけている間、仕事の邪魔になってはと、日向は鍛冶屋の中を何の気なしに見ていた。


 『鍛冶道具がめずらしいか?』


 振り向くと、燃える炎を形にしたような髪をもち、眼はまるで紅玉のようで白眼は全くなく、肌の色も限りなく薄い、一目で人間とは違う者だとわかる男が立っていた。


 「……、なぜ俺に見える?」


 護人は、主人以外には決して見ることができないといわれている。

 そもそも護人は、生を受けたばかりの主人の握られている左手の中に存在して、運命の右手が開いたら、左手も開いて護人としての生を受ける。 そして、主人が育っていくと同時に護人も大きくなり、力も増してくる。 その姿は主人以外見ることがかなわず、主人以外の使役をゆるさない。

 昔からそう言われてきたし、古事記にもそう記されている。


 それなのに今、こうの護人である火焔の姿が日向に見えている。


 『簡単なこと。こうがそう望んだからだ』


 ごうっと炎色の髪が揺れる。まるで揺らぐ炎のように。


 「護人というのは主人以外には姿を見せないものだと思っていたが……。主人が望めば普通の人間にもみえるのだな」

 

 『そうとも言えるし、そうでないとも言える。 こうが望んだのは「日向にみえること」であって、誰もがみえることではない。誰にでも姿をみせるわけではない。……人は、見えるもので判断するゆえ』


 ――――――なるほど。 まさにその通りだな。


 日向は軽く頷いた。


 人はなさけないほど見た目に左右される。他人と少し何かが違うだけで、それは非難できる対象とみなす卑怯な生き物で。 護人の、人間ではありえない姿をみたらどう出るかなんて想像するにも簡単すぎる。 稀な存在の護人の姿を知っているものなんて、冬柊の国を探しても誰もいないだろう。古事記にすらあいまいな記述しかないのだから。 護人がそこにいても誰も護人と気付かない、異様な者がいるとしか思わないだろう。


 「日向。 できたで?」


 ひょっこりと顔をだしたこうは、火焔がそこにいることに驚いて言った。


 「なんや、火焔。 もう日向と仲よなったんか? ……せっかく日向を驚かせたろって思てたのに、先に()うてしもて」


 拗ねた子供みたいに口をとがらせて、「まあ、はよこっちこいや」と言ってぷいっと作業場に戻ってしまったこうだった。


 「お前の主人は、まるで子供みたいだな」


 こうの、あまりの子供じみた行動に呆れてくすりと笑って火焔に振り向くと、火焔は何とも言えない顔をして「たしかに」とすまなそうに謝った。


 ――――――――こうは子ども、火焔はさしずめ保護者のようだ


 そう結論付けた日向だった。




 **********





 「ああ、これは見事な蹄鉄をつけてもらえたな」


 馬の蹄に新しくついた蹄鉄をみながら馬に話しかけていたら、ほかの馬具までが新しくなっているのがわかった。

 

 「こう! これはいったい……?」


 「つけてた馬具か? えらい古いやつやったから、替えといた」

 

 「変えておいたって……。俺はこのあたりに馬具を分けてくれるところがないか聞いたが、付け替えてくれとはいわなかったぞ」


 「うーん、そうやねんけど。 なんやえらい急いでたやろ? どうせうちにちょうどあるから付けたらいいやんって思たんやけど……あかんかったか?」


 いいことを思いついて褒められると思ってしたことが、まさか責められるとは思っていなかったようで、こうはしゅんとなっている。

 ――――――ああ、本当に子供だな。 俺よりも身長も体重もあるのに。

 ふーと一息吐いて、日向はすこし笑いながら言った。


 「ありがとう。 助かった。 今からまた遠出をしないといけないと思っていたから、時間が短縮できて本当に助かる」


 その瞬間、ぱあっとこうの表情が輝いて、日向に抱きついてきた。

 そんなこうを火焔は笑いながら見ている。 ……できたら止めてくれ!


 『それは無理というもの。 こうの喜びは即ち私の喜び』


 「そうや! 俺、今めっちゃうれしいねん! 日向が喜んでくれたから、うれしいねん!」


 ぎゅ


 うれしさのあまり、さらにきつく抱きついたこうは、腕の中で日向がもがいていることに気がつかなかった。


 く……苦しい……


 頭一つ分日向より身長が高く、日ごろ鉄を鍛えているこうの腕の太さは半端なく太い。 その力強い腕が日向の首に巻きいついているものだからたまったものではない。 もう少しで違う世界に旅立ちそうだった。

 

 「こう……こう! わかったから、腕をほどいてくれ!」


 「……あっ! わるい! きつかったんか? ほんま、ごめん!」


 日向の切羽詰まった声に驚いて飛びのいたこうは、またしゅんとしてしまった。


 ――――――困った坊やだな


 けほけほと鳴るのどを抑えながら、日向は考えていた。


 困った坊やだが……。

 その困った坊やには護人がいる。 ひめにはいない。

 もしこのまま光の主人が見つからずに、なんの力も持たないひめが闇の支配者と立ち向かわなければならなくなったとしたら……?

 こうは、……切り札にならないか?

 古事記では、闇の支配者に立ち向かったのは光の支配者とあるが、それはその時に他の主人たちが産まれていなかったからでもあるはず。

 だとすれば、こうは、今の時点で唯一闇と戦えるものかもしれない。


 そう考えだすと、だんだんとその考えが正当に思えてきた。


 

 このままなぜか俺になついているこうを連れていけないだろうか?


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