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二連の宝珠  作者: れんじょう
冬柊の終焉
16/38

道程 【2】

 「……ひめさま、まるで……まるで…術者……」


 言葉が勝手にこぼれおちた。 そしてその瞬間に謎が解けたような気がした。

 

 だからひめさまは、いつだって私のいる場所が見つけられるし、わたしよりも早く動くことができるし、そして、そして今のように馬を操って引き寄せることができるのでは。

 

 「短絡。短絡すぎるわね」


 冷めた目でわたしを見て、ふーっとため息をついた。


 「あのね? わたしはあなたたちよりも早くに茶屋にいるわよね? その時に隣にある馬舎からではなくて、裏のほうから馬のいななきが聞こえたの。 だからここの主人に裏にも馬舎があるかどうか確認したわけ。 そうしたら主人は裏には馬舎がないと教えてくれたから、じゃああのいななきは野生の馬なんだろうと思っただけ。 でもその馬がずっとそこにいるのがどうしてかなんて、わたしに聞かないでよ? わからないから」



 ……ですよね?

 すいません。

 あまりに変わったことがひめさまに関しておこるので、つい口が滑ってしまいました。

 ひめさまが術者の名前を持っているわけでもなく、もちろん術者になるための修行をしているわけでもないことを一番知っているはずのわたしなのに、どうして考えなしにしゃべってしまったのか……。


 「野生馬、ですか。 妙に人慣れしているようですが」


 「そんなことをいわれても、わたしに何がわかるというの? 今まで城の外で馬に触れた機会なんてないわよ? もちろん城内でもね」


 薄い、色素のほとんどないような空色の瞳を、つうっと細めて、冷気を増した口調のひめさまに臆することもなく日向が言った。


 「事実を申したまでのことです。 通常、野生馬であるなら、人里などには出てきません。 仮に出てきたとしても興奮してしまい、手に負えません。 小屋の裏にいるような、妙に人慣れをしている馬を野生馬と言い切るのはどうかと思われますが」


 「わたしは野生馬とはいっていないわよ? 野生の馬ではないかと思っただけ。 ……それにわたしの周りに何かが起こるのはわたしが術者だからなんて、馬鹿なことをいうからよ。 わたしに仕えて二年は経っていると思ったけれど、まさかそんな風に考えていたなんて、驚きだわ」


 「申し訳ございません、ひめさま!」


 口から滑り落ちた言葉。

 けれどその言葉は、人を不快にさせた言葉で。

 失敗の連続で、どうひめさまに挽回していいのかわからないほどになってしまっている。

 頭を床につくまで下げたわたしに、ひめさまが疲れたようにつぶやいた。


 「術者……でもたしかに修行しておけばよかったかも」


 …………はい?

 これ以上わけがわかなくなるのは、ごめんこうむりたいです。

 それこそ、先ほどのわたしではなけれど、口を滑らせないでもらいたい部類ですよ?

 一国の姫が本当に術者になってどうするんですか!

 私がいらないことを言ったためにかもしれないけれど、心臓に負担が来るのでやめていただきたいです。 冗談でも嫌です。


 「野生馬であれば問題ないし、逃げ出した家畜であれば騒ぎも起こるだろがそれもない。 このままこの馬を私たちが捕まえても問題は起こらないと思う」


 そういって日向は馬に向かってすたすたと歩き、馬を誘導させて樹につなぎ、蹄鉄を付けているか確認している。

 満足したように軽くうなずいてから、戻ってきた。


 「家畜ではないようです。 蹄鉄もなければ、取った後の穴もありませんでしたから。 この茶屋の主人に予備の馬具があれば、それを譲ってもらいましょう」


 店の奥にいる主人の元へ行ってきたかと思うと、両手に古びた馬具をもって戻ってきた。


 「予備はあるが売れないということなので、拝借してきました。 ここから数里南に行ったところに鍛冶屋があるということなので、そこで蹄鉄をつけて馬具を仕入れてまいります。 ひめさまとなゆたにはこの茶屋の主人に頼んで数刻ここに入れるように取り計らいましたので、しばらくここでお待ちください。 では」


 日向はひめさまやわたしに話す機会を全く与えず、怒涛のごとくの報告と行動でさっさと馬の鐙や轡をつけていき、そのまま去って行った。

 あっけにとられたのは、私だけではないと思う。


 「……、日向って、あんな風でしたの?」


 ぽかぁんとしていたひめさまが、何よりもまずそう思ったのも仕方がない。幼馴染である私ですら、そう思ったくらいだし。

 

 「まあ、わたしの足を心配してくれたのはありがたいけれど……決断力というか行動力というか、とても豊富ね?」


 もともとその傾向があるんだけれど、今回はちょっと何かが違うと思う。



 ちょっと……ちょっとキレてる?

 

 



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