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二連の宝珠  作者: れんじょう
冬柊の終焉
15/38

道程 【1】

 馬!

 切実に欲しい!


 そう思ったのは、ひちりきさんの小屋を出発してから、数刻たった昼前で。

 どうして城から一緒に一頭連れてこなかったんだろう?

 本当に、本当に、本当に。 馬が今すぐ欲しい!




 それはひめさまから始まった。


 「ちょっと休憩しましょう」

 

 「え?ひめさま、一刻前に休憩をとりましたよ?」


 「だって、ほら、ゆっくり歩かないと主人の姿を見逃すかも」


 「……ひめさま。 もし主人が歩いているのなら、風貌のあまりの違いに、確実にわかりますよ?」


 「……」


 わたしや日向から、暗に休憩をとらないといわれてしまったひめさまは、強硬手段に出た。


 「あ、あそこに茶屋があるわ! あそこでちょっと休憩しましょう」


 そういうやいなや、さっさと茶屋まで歩いて行った。

 すたすたと歩く姿が、何となく違和感を感じた。


 ……足を引きずっている……?


 ……あ!


 その瞬間、分かってしまった。

 たった数刻だけれど、ひめさまにとってはこんなに歩いたことがないんだということを。

 

 「しまったな」

 

 日向もそれがわかったようで、眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。 絶対この旅で顔に皺が増えるね、日向。


 「もうすこしひめさまには痛みに耐えていただいて、先の村まで足を延ばして馬を買うか、それとも茶屋で待っていただいてさきほど通ってきた村で馬を買うか……。どちらにしても、ひめさまはあまり城の奥から出られたことがないはず。こんなに歩かれたことはないのだろうから、足をくじくのも道理。 それに気づかなかったとは、迂闊だな……。」


 う。それを日向にいわれてしまうとは。

 第一女官としてひめさまに仕えてきたわたしとしては、ひめさまの体調管理も仕事のうちなのに、全くそのことを失念していたんですけど……。


 「気づかなくて、ごめんなさい」


 「いや、これは俺が迂闊だった。 ひめさまの、今回の旅に対する準備が性急で、そのわりには、ほら、鍋や塩を準備されていただろう? 妙に旅慣れているような錯覚におちいってしまったからな。 それに出立の時にひめさまが馬を所望されなかったので、歩くことが慣れていらっしゃると勘違いをしてしまった。」


 荷物が背負い袋いっぱいにあったので、馬が必要かな?とは思ったけれど、「馬は必要ないわよ?」という言葉をそのまま鵜呑みにしてしまって、徒歩で旅立つことをそんなに不安には思わなかったのがいけなかった。

 それに、まさか数刻でまめができるなんて思わなかったし。

ひめさまは一国の姫君で、普段は読書は刺繍、歌などをして一日を過ごされているということを忘れてしまっていた。

 手や足の皮が薄い。歩きなれていない。そういうことなんだ。


 ……第一女官、失格。


 昨夜、城をでたばかりだというのに、自分がどうしてひめさまの同行をゆるされたのかということが、全く分からなくなってしまった。


 「なゆた! 日向! お団子、おいしいわよ? 早くいらっしゃいな」


 茶屋ですでに休憩していたひめさまは、はしたなくも大声をだして、わたしと日向に声をかけた。

 

 「「今すぐ!」」


 え?、今の感じは……。

 同時に返事したことで、顔をみあわせたわたしと日向は、いたずらが見つかった子供のように笑っていた。


 「なつかしいな」

 

 「うん。なつかしいね」


 子供のころはこうやって二人で話し込んでいるときに、母上さまか日向の家の執事が声をかけてきた。 それをふっと思い出して、それがとても遠くに感じて、懐かしかった。


 「さあ、団子でも食べて、それから決めましょう」


 そういって、二人揃って茶屋に向かって歩き出した。


 


 *****




 そして、今。



 茶屋のおかみさんの好意で、一部屋あてがってもらってひめさまの足をみているのだけれど。

 

 ……ひどい。


 どうして数刻歩くだけでこんな血豆ができるのか? 

 そこまで歩き慣れていないなんて思っていもいなかった。


 馬がいる。 それも今すぐに。


 ひめさまの足を冷やしても、少し歩けばすぐに元に戻るだろう。

 日向が持参の軟膏を貸してくれたので、ひめさまの足にすり塗ってはみたけれど、速攻性はない。

 今はまだ、旅に出たばかりだからひめさまの気力も体力もあるだろうから、この足でも歩けるだろうけれど。


 一度夜をこえて休んでしまったら。


 足の痛みに負けて、ひめさまは歩けなくなるだろう。

 

 馬がいる。 切実に。


 日向をみると、やはり日向も同じことを考えていたようで、


 「この部屋で少し、休まれますか? その間に馬を調達してまいります」


 ひめさまにそう申し出る。

 それが一番の得策かと思った、その時、


 「馬なら、この茶屋の裏に一頭いるでしょう?」


 「「え?」」


 それは茶屋のおかみさんの馬ではないでしょうか?

 おかみさんの馬を交渉して手に入れろと?


 「二人とも、なんて顔をしているの? 誰もこの茶屋の馬を調達しろとはいっていないわよ?」


 思わず、ほっと胸をなでおろしたことは言うまでもない。

 だってこの茶屋は、街道にあるとはいえ、とても不便な立ち位置で。

 どの村からくるにしても、荷物を運ぶには女で一人では難しい距離だから、馬は絶対必要になる。

 その仕事に必要な馬を買い取れと言っているのかと思ってしまった。

 

 でも、そうでなければ『茶屋の裏に馬』ってどういうことだろう?


 すっと、日向が立って、裏に続く戸を開けた途端,


 

 馬が一頭。 手綱も付けないままの白い馬が一頭、そこにいた。


 

 「ね? いるでしょう?」



 にこやかにほほ笑むひめさまを、わたしと日向が異様なものを見る目でみたことはいうまでもない。


 




 


いつもより文字数が少ないですね・・・。精進します。

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