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二連の宝珠  作者: れんじょう
冬柊の終焉
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暗黒の森 【2】

 その小屋は、城からみたら北方向にある、通称『暗闇の森』といわれる森の入り口にあった。 うっそうと茂った樹々に覆われて、昼間でもなお暗いために付いたあだ名。 鳥のさえずりさえ聞こえてこない、人も寄りつかない暗闇の森。

 そんな森に人が住んでいるなんて知らなかった。

 その小屋に通いなれている風のひめさまって……、怪しすぎる。


 「おや、ひめさま。いらっしゃい」


 背中が曲がった老女が、小屋ののれんの奥からしわくちゃの顔を破顔させて出てきた。

 小屋の中を見渡すと、天井からは乾燥させた草がたくさんぶら下がり、壁には箱やつぼが整然と並べられていて、小屋の表の雑然さからとは比べ物にならないくらい清潔で明るかった。けれど……臭い!

 薬草を蒸した臭いやそのほかの何の臭いか全く分からないものが入り混じった異臭が、部屋を満たしていて、できたらすぐにこの場を離れたいと思ってしまった。日向も鼻をしかめている。

 

 「久しいわね、ひちりき。 以前に頼んでいたものを受け取りにきたのだけれど」


 ひちりきと呼ばれた老女はひめさまの手を取ってぽんぽんと叩き、部屋の奥に案内した。

 

 「日向はこの場所を知っていた?」


 「いや、俺は近衛だから王族の警護や城内の警備が主な担当だろう? 城外のことはあまり得意ではないからな。 ひめさまがここをご存じなのにも驚きだが、通いなれているのにはもっと驚きだな。 王族の行動は基本近衛には知らされるものだが、ひめさまが城外に外出をされるとは聞かないんだがな」


 「あー、それは。ひめさま、よく抜け出されるようよ? ほらさっき、わたしを迎えにきたっていってたでしょ?」


 「たしかに外とは言っていたが、まさか城外だとは。厳重なはずの警備が、ひめさまに抜け出されるほど弱いということか」


 自分の仕事に不備があったと、考え込んでしまった、日向。あいかわらず、そういうところはとっても真面目だなあ。

 でも私も知りたい。ひめさまがどうやって城外にでれるのか。それも正規の道順に従って城をでる私よりも早く外にでれる方法だし。

 

 ふと、目の前に気配を感じて顔を上にあげると、


 「俺はなゆたとこうやって伴に入れることが、うれしい」

 

 ………え?

 いきなり何の話ですか?

 いやそれよりも、日向の端正な顔が目の前に!

 そして、その言葉がどうして今でてくるの?

 

 「今言っておかないと、道中いついえるかわからないからな」


 照れた顔一つも見せないで、真顔で言われても!

 こっちは顔から蒸気がでそうなんですけど!

 ぶわっと顔が赤くなるのがわかるけれど、隠すことができないのがくやしい。

 

 「なゆたは? うれしくないのか?」

 

 「……うれしいはうれしい……日向だったら安心して道中歩けるし! 退屈もしないだろうから、うれしいよ?」


 とりあえず誤魔化してみた。

 なんかばれているような気もするけども、でも今、そんなことをしている場合じゃないし。

 日向といえば、顔はひめさまが入ったのれんの奥を向いていたけれど、目はちらっとわたしを見ていて、ちょっと満足げにうなづいていた。


 やっぱり、からかわれていたんだ。

 もう、信じられない!

 

 昔の日向はからかいなんてしなかったのに、城でたまに顔を合わすようになってからはちょくちょくからかわれるようになってしまって。 日向に会えた時はうれしいって思うけれど、からかわれるのは嫌だな。


 その時、のれんの奥から綺麗な黒髪の女の人がでてきた。


 「おまたせ」


 そういって笑ったその人は、黒髪に黒曜石の瞳のひめさまだった。


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