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第27話:初期装備と最悪の負荷テスト②

 カイルの制止を振り切り、各々が驚愕の表情を浮かべる中、僕は迷うことなく箱の中の『虚無の杖』を鷲掴みにする。


 ――ドクンッ!!


 触れた瞬間、僕の体内に溜まっていた莫大な魔力が、凄まじい勢いで杖へと吸い出されていく。


 常人なら一瞬でショック死するほどの吸引力。

 だが、僕にとっては――脳を焼き切ろうとしていた高負荷なタスクが、一気に外部へと分散されたような、圧倒的な心地良さだった。


「……はぁっ……!」


 杖が黒い脈動を打ち、僕の魔力を喰らって演算回路を起動させる。


 全身の毛穴から立ち上っていた徹夜明けの熱が、嘘のようにスッと引いていくのが分かった。


「……ば、馬鹿な……」


 ゼムが驚愕に目を見開く。


「ミイラになるどころか、顔色が良くなってやがる……。あの『大飯食らい』を飼い慣らしたってのか……!?」


「……ええ。おかげで徹夜明けの頭痛が消えました」


 僕は杖を軽く振り、その圧倒的な処理能力に満足げに息を吐いた。


「ゼムさん。あんたの作業台と工具、少し借りますね」


「あ? ああ、好きに使え……って、ここでやるのか?」


 ゼムが呆れるのも構わず、僕はすでに青白い【解析眼(デバッグ・アイ)】をギラつかせ、店内のガラクタの山を漁り始めていた。


(……あった。通信用の術式が焼き付いた銀のイヤーカフに、純度の高い魔水晶のレンズ。これならいける)


 頭痛が消え、完全にクリアになった思考で僕は即座に目当ての素材を掴み取る。


 仲間の装備を整えた現場監督デバッガーが、自分の周辺機器(デバイス)を他人に任せるわけがない。


 今から構築するのは、この『虚無の杖』の超絶な演算能力をバックグラウンドで走らせ、その結果を視覚的に出力するための『片眼鏡(モノクル)』。


 僕は足早に作業台へ向かうと、カチッ、と乾いた音を立てて工具を手に取った。


(……素晴らしい。さすがは本職の作業環境だ)


 手に馴染む特殊合金の精密ピンセットに、ミリ単位で炎を絞れる極小の魔力バーナー。昨夜、寮の自室で四苦八苦しながら使っていた粗悪な工具とは、精度が段違いだった。


 これなら、僕の要求する異常なレベルの精密加工も完璧にこなせる。


「……おいラビ、本当に大丈夫なのかよ?」


 背後からカイルが覗き込んでくるが、僕は手を止めない。


「問題ない。この杖が僕の魔力を使って、重い計算処理をこなしてくれるからな」


 作業台の傍らに『虚無の杖』を立てかけ、そこから極細の魔力線を引き出すと、銀のイヤーカフの基板へと直結させた。


 ジリッ、と青白い火花が散る。


 杖がドクンと黒い脈動を打ち、僕の魔力を吸い上げて凄まじい速度で計算を始める。


 その莫大な演算結果を、視覚情報として出力するための『(モニター)』が、この魔水晶のレンズだ。


 僕は息を詰め、単眼鏡のジャンクフレームから取り外した極薄のレンズを、イヤーカフの縁に慎重に接続していく。


 ただ物理的に繋ぐだけじゃない。

 僕の【解析眼(デバッグ・アイ)】が捉える致死量の情報スパイクを、直接脳(網膜)で受けるのではなく、このレンズ側に『外部出力』させるための手術だ。


 杖の圧倒的な処理能力のおかげで、僕自身の脳のメモリには一切の負荷がかからない。


 まるで、今まで泥沼の中を歩いていた思考が、舗装された道を全速力で駆け抜けていくような万能感。


 ジリリリリ……!


 ピンセットの先で緻密な術式回路を編み込み、レンズの表面に青白いデータ通信のラインを焼き付けていく。


「とんでもねぇ坊主だ……」


 横で見ているゼムが、呆れたような、けれど技術者としての感嘆を隠しきれない声で呟いた。


「自分の眼球の魔力回路と、その大飯食らいの杖を直結させる気か……? 少しでも同期がズレれば、お前さんの右目は使い物にならなくなるぞ」


「だから、ズレないように最適化(デバッグ)してるんですよ」


 カチッ。

 最後に、レンズの角度を微調整する極小の歯車を噛み合わせる。


 青白い魔力の光がレンズ全体にサッと走り、すぐに透明へと落ち着いた。


「……よし、組み上がった」

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