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第25話:泥臭い技術者④

「……ん」


 目を覚ますと、僕は見慣れたボロ寮のベッドに寝かされていた。

 窓から差し込む日の角度からして、倒れてから数時間といったところか。


 どうやら、あのまま深刻なシステムダウンを引き起こしたわけではなく、限界を迎えた脳が自己防衛のために『強制スリープ(ただの爆睡)』へと移行しただけらしい。徹夜明けの体に無茶をさせすぎた、単純な睡眠不足だ。


 額には冷たい濡れタオルが乗せられ、ベッドの脇では、いつもの四人が、まるで葬式のような暗い顔で僕を見下ろしている。


「あ、起きた……! ラビ、大丈夫!?」

「……騒ぐな。頭に響く。それに……別に死にかけてたわけじゃない、ただの寝不足だ」


 身を起こそうとすると、カイルが「寝てろ馬鹿!」と乱暴に、けれど慎重に僕の肩を押さえつけた。


「……てめえの馬鹿げた自己犠牲(マネ)のせいで、こっちは生きた心地がしなかったんだぞ。次にあんな無茶しやがったら、俺がてめえを直接丸焦げにしてやる」


 凄むような怒声。

 だが、その瞳の奥には隠しきれない深い安堵が滲んでいた。


 本気で丸焦げにする気など微塵もない。

 相変わらず遠回しな心配だ。


「……ああ、肝に銘じておくよ」


 僕は額の濡れタオルを外し、軋む体を誤魔化すようにしてベッドから足を下ろした。


 小さく息を吐き、熱の引いた頭を軽く振ってから口角を上げる。


「だから、そうならないためにまた少し『お買い物』に付き合ってくれ」


 深刻なお通夜ムードをあっさりとぶち壊す僕の唐突な提案に、


「……は?」


 カイルは素っ頓狂な間抜け声を漏らした。


「お買い物って……ラビさん、またあの、薄暗くて不気味なガラクタ屋さんに行くんですかぁ……?」


 ユラがガレットの背後に隠れるようにして、おずおずと尋ねてくる。


「ああ。今の睡眠で体内の熱は一時的に引いたが、根本的な解決にはなっていない。それに、今回ので痛感したんだ」


 僕は軋む肩を回しながら、彼らの顔を順番に見据えた。


「お前たちのような『規格外のバグ』を同時に、しかも物理接触で介入するのは、僕の処理能力に致命的な負荷をかける」


「……俺たちの、せい」


 ガレットが申し訳なさそうに眉根を寄せるが、僕は軽く手を振ってそれを遮った。


「待て待て、勘違いするな。お前らのせいじゃなく、僕のスペック不足の問題だよ。だからそれを補うためのパーツを探しに行くんだ」


「パーツって……具体的に何を探すの?」


 リアの問いに、僕は指を二本立てた。


「一つは、僕の【解析眼(デバッグ・アイ)】の視覚情報処理を何パーセントか肩代わりして、脳への負荷を軽減してくれる外部デバイス。……まあ、片眼鏡(モノクル)のようなものがあればベストだな。そしてもう一つは」


 僕はそこで一度言葉を切り、あのカビ臭い店内に積まれた『ロストテクノロジーの山』を思い浮かべた。


「遠隔からお前らの術式に介入するための『アンテナ』であり――僕の無駄に溢れ返る魔力を『燃料』としてドカ食いしてくれる、大飯食らいの外部端末だ」


「お前の魔力を、食う……?」


 カイルが怪訝そうに眉をひそめる。


「ああ。僕の身体の『根本的な問題』を解決できるわけじゃないが……戦闘時のマルチタスクで発生する莫大な熱くらいなら、その外部端末に魔力ごと吸わせて一時的に逃がすことができるはずだ」


「……普通の魔導具じゃ、お前の熱量に耐えきれずに爆発するだろ」


「だから、あそこの『在庫』を漁るんだよ。僕の要求を満たすイカれた代物が眠っているはずだからな。……現場監督として、ここで立ち止まるわけにはいかない」


 僕がそう言い切ると、四人は小さく顔を見合わせた。

 やがて、カイルがやれやれと大げさなため息をつき、ベッドから離れる。


「……まったく。てめえに過労死されちゃあ、オレたちも困るからな。護衛くらいはしてやる」


 ガレットが力強く頷き、リアとユラもホッとしたように表情を明るくした。


 向かう先は一つ。

 掃き溜めという名の宝物庫――古導具保管所(ジャンク・ヤード)へ、僕らは再び歩み出した。

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