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第24話:泥臭い技術者③

「……邪魔な木だ。退け」

「おいコラ、ガレット! 俺の陣地にゴミを飛ばしてんじゃねえ!」


 せっかくのエモい空気をぶち壊すように、森の奥でテンションが限界突破したアホ二人の怒鳴り声が交差した。


 見れば一直線に森を突き進むガレットが、進路を塞ぐ巨大な倒木に向かって、異常質量を乗せた『重力の手甲』をフルスイングで叩き込んでいた。


 「ドゴォォォンッ!」という轟音と共に、粉砕された倒木の大質量が、宙を舞ってカイルの頭上へと飛んでいった。


「チッ、上等だ! まとめて灰にしてやる!」


 熱暴走の恐怖から解放され、完全にトリガーハッピーと化しているカイルは、頭上に降ってくる巨大な木材に向かって、杖の切っ先を向けた。


 出力は最大。

 それを至近距離からあの木材に叩き込めば、間違いなく空中で一瞬にして蒸発するだろう。


 だが、カイルが杖を向けたその『仰角』と、その奥にある『背景』を見た瞬間――僕の背筋にゾッと悪寒が走った。


(……馬鹿か!! 標的の『後ろ』を見てないのか!!)


 空中の木材を狙い撃ち上げるということは、射線が上を向くということだ。


 もしあの出力の極太レーザーが木材を貫通した場合、余波の熱線はそのまま森を抜け――真っ直ぐに、ボロ寮の二階(僕たちの寝室)を消し飛ばす軌道になる。


「カイル、撃つな!! 射線の奥に寮がある!!」


 僕は叫びながら、弾かれたように地を蹴った。

 だが、興奮状態のカイルの耳には届いていない。杖の先端に、致命的な熱量が収束していくのが見える。


 僕の能力は、対象に直接触れなければ回路に干渉できない。

 あのレーザーの発射を止めるには、物理的に距離を詰め、直接カイルの杖(あるいは肉体)に【強制介入(キル・プロセス)】を叩き込むしか、方法はない。


 カイルへ向けて全力疾走しながら、僕は徹夜明けの体に鞭打ち、強制シャットダウンのためのコードを脳内で強引に組み上げる。


(……くそっ! 直接触らなきゃ止められないなんて、なんて不便な仕様だ!)


 離れた場所から、せめて視界に収めるだけであいつらの回路に干渉できれば――。


 そんな叶わぬ願望(タラレバ)を脳の片隅で呪いながら。

 間に合え、と。僕は思考と肉体の処理速度を極限まで引き上げた。


 ――その瞬間だった。


 ドクンッ、と。

 僕の脳髄が、今までにない異常な警鐘を鳴らした。


 視界が明滅し、全身の血が沸騰するような錯覚に襲われる。

 だが、ここで足を止めるわけにはいかない。


「カイル、撃つなァッ!!」


 僕は物理的な距離を詰めるのを諦め、喉が裂けんばかりの絶叫を森に響かせた。

 

 普段なら絶対に上げないような、余裕を完全に欠いた悲痛な叫び声。


「――ッ!?」


 その声の切迫感に、完全に頭がトリガーハッピーと化していたカイルの肩がビクリと跳ねる。


 彼は杖を振り上げる動作をピタリと止め、放たれる寸前だった極太のレーザーを――《《自らの意志》》で、強制的に霧散させた。


 ドスンドスンッ!


 直後、空を飛んでいた巨大な木材が、レーザーに撃ち抜かれることなく森の奥へと落下し、ボロ寮への直撃という大惨事は間一髪で回避される。


「あァ!? なんだラビ、人がせっかく……って、おい!?」


 文句を言おうと振り返ったカイルの怒声が、途中で凍りついた。

 僕の姿を見た瞬間、彼の顔から血の気が引いていく。


「お前……なんだよ、その顔は。またあの時の……!」


 ドサリ、と。

 僕は足の踏ん張りを失い、その場に片膝をついた。


 完全にシャットダウンこそ免れたものの、頭痛は止まないし、全身の毛穴から、異常な高熱による白い蒸気がシューシューと立ち上っている。


(……くそ。脳髄が、とっくに限界だったか……)


 徹夜の作業。無茶な全力疾走。並列処理。

 そして何より――カイルの杖に排熱フィンを組み込み、ガレットの手甲に冷却材を回した結果。僕自身を冷却するためのパーツを何一つ残っていなかった、自分自身の責任だ。


「おい、しっかりしろ!!」


 カイルが弾かれたように駆け寄り、僕の背中を支える。

 遅れて、ガレットやリア、そして半泣きのユラも顔を青くして集まってきた。


「……悪い。お前らの……装備(デバイス)の調整に、夢中になっててな……」


 僕は熱で霞む視界の中、自嘲気味に笑って、カイルを見上げた。


「……自分の熱対策のパーツを作るのを、完全に忘れてた」

「……はぁ!?」


 僕のあまりにも間抜けで、そして致命的な言葉に、カイルが素っ頓狂な声を上げる。


「忘れてたって……お前、昨日ゼムの店で買った素材は!?」

「全部、お前らの……杖とか、手甲に……使い切った……」


 僕が息も絶え絶えに答えると、カイルの顔が、驚愕、そして痛切なまでの自責の念へと歪んだ。


 リアは口元を両手で覆い、ガレットは自分の腕にはめられた黒い手甲を、ギリッと強く握りしめる。


「この、大馬鹿野郎が……ッ! てめえが自分の身を守らねえでどうすんだよ!」


 カイルは火傷しそうなほどの熱を放つ僕の体を、まるで壊れ物を扱うように、強く、けれど慎重に抱きとめた。


「……今日はここまでだ。おい、ガレット。ラビを寮に運ぶぞ」


 カイルの震える声での指示に、ガレットが無言で力強く頷く。

 僕は彼らの顔を見上げながら、「三流エンジニアもいいとこだな……」と心の中で悪態をつき、熱に浮かされた頭をカイルの肩へと預けた。

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