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第23話:泥臭い技術者②

「……よし。まずはカイルとガレット。全力でいってみろ」


 僕の合図とともに、寮の裏手に広がる鬱蒼とした森の奥で、二つの轟音が弾けた。


「はーっはっはっは! 見ろラビ! 全開で撃ってるのに、杖が全く悲鳴を上げねえぞ!」


 カイルは新設された排熱フィンから猛烈な蒸気を吹き出しながら、極太のレーザーをヒャッハー状態で連射している。熱暴走の恐怖から解放された彼は、本物の『固定砲台』と化していた。


「……ん。最高だ。足が、地についている」


 その反対側では、ガレットが『重力の手甲』の異常質量をアンカーにして、大地に巨大なクレーターを作りながら、嬉々として森の木々を重戦車のように薙ぎ倒して回っている。


「ひゃうっ!? あぶっ!? も、もう、どこから飛んでくるか分かりませんんん!」


 ユラは『蜃気楼の外套』の絶対回避(ラグ・スイッチ)をフル稼働させ、半泣きになりながら、味方の流れ弾を避け続けていた。


(……おいおいおい。少しは加減しろよ)


 個々の火力と安定感は、間違いなくハイスペックな化け物へと進化した。


 だが、こいつらには『連携』という概念が致命的に欠落している。


 そんな阿鼻叫喚の嵐の中。


 僕の隣では、リアが一人、青い顔をして立ち尽くしていた。

 彼女の両手は、無骨な『共振魔導銃』を握りしめたまま、小刻みに震えている。


「……どうした、リア。撃たないのか?」


 僕が尋ねると、彼女はビクッと肩を跳ねさせ、泣きそうな顔で僕を見上げた。


「……ラビの作ってくれた装備なら大丈夫だって……頭では分かってるんだけど……」


 彼女の視線が、手元の銃口と、遠くの標的の岩をさまよう。


「もし、またあたしの魔法で……この森ごと吹き飛ばしちゃったら、どうしよう……」


 無理もない。たった一晩で、長年彼女を苦しめてきた『呪い』への恐怖が完全に消え去るわけがないのだ。


 僕はため息をつき、彼女の頭――ボサボサの赤い髪にポンと手を乗せた。


「……僕の書いた設計(コード)を疑うのか?」

「ち、違う! そうじゃなくて……!」


「なら、トリガーを引け。お前のその『震え』は、全部こいつが食い破ってやる。……お前はもう、何も壊さない」


 僕の言葉にリアは大きく深呼吸をした。


 震える指をトリガーにかける。

 そして、覚悟を決めたように目を強く瞑り、引き金を引いた。



 ――シュガァンッ!!



 銃口から放たれた不可視の衝撃波が、数十メートル先の巨大な岩に着弾する。


 …………。


 しかし、一秒経っても、二秒経っても、何も起きない。

 岩は無傷のままで、周囲も静まり返ったままだ。


「え……? あ、あれ……?」


 リアが血の気を引かせて慌てふためく。

 魔法が不発だったのか、それとも、またどこか別の場所を吹き飛ばしてしまったのか。過去のトラウマがフラッシュバックし、彼女の瞳に絶望の涙が浮かびかける。


「……慌てるな。銃身(バレル)で反動を殺した分の『タイムラグ』だ」


 僕は落ち着いて岩を指差し、「……さん、に、いち」と秒数をカウントダウンした。


「――ゼロ」


 ドプンッ、バギギギギギッ!!


 僕の言葉と同時。

 数秒の遅延を経て、岩の内部で極限まで圧縮されていた振動が限界を迎え――内側から弾け飛ぶように粉々に粉砕され、パラパラと砂礫の雨を降らせた。


「……っ!」


 リアは息を呑み、恐る恐る、手の中にある無骨な『共振魔導銃』と、そのグリップを握りしめている自分の指先を交互に見つめた。


「あの地下のゴーレム戦で、お前が指を壊さずにあの一撃を撃てたのは、僕が後ろから反動を肩代わりしていたからだ」


 僕はまだ呆然としている彼女に、静かに種明かしをする。


「本来、その出力を僕のサポートなしに『素手』で撃てば、タイムラグなしで対象を爆砕できる代わり、お前の指も砕け散る。……だが、この銃を通せば、さっきのような数秒の遅延と引き換えに、反動はすべて銃身が食い破ってくれる」


 安全だが遅延する『銃』か。

 自壊と引き換えの即死の『素手』か。


 僕が組み込んだその究極のトレードオフの意味を理解し、リアは改めて、手の中の頼もしい相棒を強く握り直した。


「……あはは……痛く、ない。痛くないよ……?」


 僕が背中を支えていなくても。彼女一人で引き金を引いても。

 放たれた暴力的な振動はすべて銃が吸収し、彼女の細い指には一切の負荷がかかっていない。


 だが、彼女の震える声に滲んでいたのは、物理的な反動への安堵だけではないだろう。


 自分の力で誰かを、何かの大切なものを壊してしまうかもしれないという――心を締め付けるような罪悪感の『痛み』。


 その見えない呪縛から、彼女は今、解放されたのだ。


 周囲の木々も、足元の草花すら、一本たりとも折れてはいない。


「あたしの振動が……周りを、壊してない」


 リアの目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。

 彼女は銃を胸に強く抱きしめ、涙ぐんだまま、ふにゃっと愛らしい笑顔を僕に向けた。


「ねえ、ラビ……。あたし、自分の魔法のこと……これから、好きになってもいいのかな……?」


「当たり前だ。……よくやったな、リア」


 それは単なる新しいデバイスの動作テストをクリアしたことへの評価じゃない。


 過去のトラウマという巨大なバグに立ち向かい、震えながらも自らの意志で『引き金を引いた』、彼女のその勇気に対する心からの労いの言葉だった。


 僕が少しだけ口角を上げた。



 ――その、直後だった。

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