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第21話:寂しがり屋の王様④

「……終わったぞ」


 一時間後。

 熱を帯びた杖を、カイルに向かって放り投げる。


「あっ、馬鹿ッ、投げっ……!」


 慌てて杖を受け取ったカイルは、文句を言おうとして――その言葉を呑み込んだ。


「……なんだ、これは」


 カイルの目が、驚愕に見開かれている。

 彼が杖を握った瞬間、無骨な排熱フィンから「シューッ……」という静かな音と共に、陽炎のような熱気が空中に放出されていた。


「魔力を通してみろ。全開(フルスロットル)でだ」


 僕の言葉に、カイルは半信半疑のまま、杖に自身の魔力を注ぎ込んだ。いつもならすぐに杖全体が悲鳴を上げ、手の中が火傷するほど熱くなるはずの出力。


 だが、当然。今回は違う。


 ブォォォォン……ッ!!


 排熱フィンが赤熱し、カイルの過剰な熱を猛烈な勢いで外部へと逃がしていく。


 杖本体の温度は完全に安定し、カイルの手には、どこまでも澄み切った『純粋な魔力』の奔流だけが満ちていた。


「……熱くない。杖が、悲鳴を上げてない……?」


 カイルは呆然と呟き、自らの手の中にある不格好な杖を見つめた。


 今まで彼を苦しめ続けてきた『呪い』が、いとも容易く、カビ臭い鉄屑によって飼い慣らされている。


「……どうだ。見た目は最悪だが、悪くない使い心地だろ?」


 僕が意地悪く笑いかけると、カイルはハッと我に返り、慌てて咳払いをした。


「ふ、ふん! 美しさのカケラもない、酷いデザインだ! ベルシュタインの歴史に泥を塗る、最悪の冒涜だな!」


 口ではボロカスに言いながらも、カイルはその不格好な杖を、まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように、大切そうに両手で握りしめていた。


「……だが、まあ。その……機能性『だけ』は、評価してやらんこともない」


 ぷいっ、とそっぽを向きながら、カイルは耳まで真っ赤にして呟いた。


「……徹夜で作業をしたことへの、労いくらいはしてやる。明日の朝食のコーヒーは、俺が特別に淹れてやる。……感謝しろよ、平民」


「はいはい。王様直淹れのコーヒー、楽しみにしてるよ」


 足早に部屋を出ていくカイルの背中を見送りながら、僕は深く背伸びをした。


 窓の外が、白み始めている。

 机の上には、生まれ変わった仲間たちのパーツが並んでいた。


 さあ、準備は整った。

 あとは、こいつらがどんなデカい花火を打ち上げるか、見せてもらうだけだな。



 ――と、そこで僕は気づいた。



「あれ。……僕の冷却デバイス、どうしたっけ」


 机の上には、見事に空っぽになったジャンクパーツの箱。


 仲間の武器に最高のパーツを惜しみなく注ぎ込んだ結果、僕自身の熱を逃がすための素材は、綺麗さっぱり消え失せていた。


 またしても鼻の奥から生暖かいものが垂れてくる。


「……ま、いっか。現場監督なんてこんなもんだろ」


 僕はため息をつき、ティッシュを鼻に詰めながら、白み始めた空に向かって乾いた笑いを漏らした。

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