第19話:寂しがり屋の王様②
作業机の端に置かれた、無骨なスパイクが打ち込まれた巨大な黒い手甲。
常人なら持ち上げることも不可能な質量だが、昼間にガレットの魔力回路と直結させたことで、主の不在である今はただの重い鉄塊程度に落ち着いている。
「昼間に強引に繋いだ分、安全装置だけはキッチリ組まないとな……」
踏み込んだ瞬間に体が浮き上がるほどの『過剰な推進力』に対し、手甲の『規格外の重力』をぶつけて強引に相殺する力技のデバッグ。
だが、このままだとガレットの出力が落ちた瞬間に、手甲の重圧に負けて腕ごとミンチになりかねない。
僕は手甲の装甲板を開き、彼の出力の増減に合わせて、手甲の重力が自動で変動するように精密な同期回路を組み込んでいく。
(……これで、あいつ自身の力で、足が地面から浮くことは二度とないだろう)
大地に極太の杭を打ち込みながら突進するようなものだ。
今まで空回りして逃げていた過剰なエネルギーが、すべて『100%の打撃力』として標的に叩き込まれる。
あの巨躯が一切のブレなく、重戦車のような圧倒的な安定感で敵の群れを蹂躙する姿を想像し……僕は満足げに息を吐いて装甲板を閉じた。
「…………」
時計の針は、とうに午前二時を回っている。
視界のノイズはひどくなり、体温は沸騰するように熱い。
時折垂れてくる鼻血を拭う手も、限界を超えて震えている。
だが、それ以上に……規格外のバグを持つ連中のパーツを組み上げるこの作業が、楽しくて仕方がなかった。
あいつらのイカれたスペックが、この不格好なパーツで完全に噛み合った時、一体どんな化け物じみた動きをするのか。
現場の職人として、これ以上の娯楽はない。
「さて……これが大本命だな」
僕は机の端に置いてあった、一際異彩を放つ物体を引き寄せた。
ベルシュタイン家の至宝。
カイルの愛用する、あの豪奢で美しい杖だ。
昼間、ゼムの店を出た後。
カイルは「メンテナンスのついでだ」とかなんとか、見え透いた言い訳を並べ立てて、僕にこの杖を押し付けてきたのだ。
視界の隅で瞳を明滅させ、杖の構造を丸裸にする。
改めて見ても、凄まじい精度で組み上げられた一級品。
だが、カイルの『規格外の熱量』には耐えられない。
「……いくら美しい器でも、中身が業火じゃヒビも入るさ」
僕は店から持ち帰った『永続燃焼のランタン(失敗作)』を解体し、その中から分厚い耐熱装甲と、無骨な排熱フィンだけを取り出した。
これを、この美しい至宝に組み込む。
間違いなく美術品としての価値は地に落ちるだろう。だが、実戦用の兵器としての完成度は跳ね上がる。
僕が溶接用のバーナーに火を入れた、その時だった。
――コンコン、と。
遠慮がちだが、どこか苛立ったようなノックの音が、静かな部屋に響いた。




