【第四十九話】素材採取旅⑥
依然として、五人は馬車の中で緊急対策会議を続けている。
会議が煮詰まる前にユウイチがお茶とスイーツを用意したので、議論は喧々諤々とまではいっていない。
「ミレイ様、全員で軽量版パワードスーツを着るのはどうでしょうか?」
暫く続いた沈黙をリリアが破った。
それは、リリアが真っ先にスイーツを食べ終わったこととは無関係である。
「リリア様は私達にアレを着ろと仰りますの?」
二番目にスイーツを食べ終わったミレイが露骨に嫌そうな表情をしている。
だが、食わず嫌いは良くないことである。
世の中には食べてみればスイーツのように美味しかったと言うことが往々にしてあるものなのだ。
「ミレイ様、パワードスーツなら確実に戦力アップに繋がりますよ」
何故か、リリアがパワードスーツのセールスマンのようになっている。
「ど、洞窟の中だと誰かに見られて恥ずかしい思いをする可能性が低いはずです。
だから、洞窟の中だけなら私は着てもいいです」
三番目にスイーツを食べ終わったアルマはパワードスーツを着て探索する腹を決めたようである。
「確かにアルマ様の言う通り、お互いに恥ずかしさを我慢した分だけ戦力はアップするわね」
未だスイーツを食べ終わっていないリーネもパワードスーツ着用には肯定的である。
セールスマンと化したリリアのお陰で探索賛成に流れが傾いているようである。
「しかし、パワードスーツを着たとしてもクロスボウだけでは心許ないですわ」
狭い洞窟の中で戦闘になれば近接戦の可能性は高い。
ゴブリン戦のような事態も十分に考えられる。
「それなら、ミレイ君とアルマ君に偵察用ドローンを付けて、リーネ君にはスタンガンを渡そう。
こうすれば四人とも雷魔法が使える様になる。
更に、今ならおまけで全員に手榴弾も付けよう」
何だか前世の通販番組のようになってしまったが、これで個々の戦力は充実したはずである。
「それではユウイチさんの戦力がダウンしてしまいますよ」
ユウイチが四人にでき得る限りの戦力アップを提案した結果、逆に己の戦力がダウンしたことをリリアに指摘されてしまった。
「リリア君、俺には秘密兵器があるから問題ない」
そう言ってユウイチは前世のマシンガンを模した"魔導マシンガン"をトランクから取り出して林に向けてぶっ放してみせる。
「所長さん、その恐ろしいまでの威力は何ですの……?」
「所長、木が木っ端微塵じゃない」
「ゆ、ユウイチ所長、ゴブリン戦で使っていれば簡単に殲滅できていませんでしたか?」
「そうですよユウイチさん、何で隠していたんですか?
やっぱりユウイチさんは意地悪です」
心強いと思わせるつもりが、ユウイチは何故か御叱りを受けてしまった。
「魔導マシンガンは威力に比例して魔石の魔力の消耗が激しいんだよ。
だから、ここぞと言う時に投入するために隠しておいだんだよ」
再びの集中砲火を避けるためにユウイチは慎重に言葉を選んで説明した。
「所長さんは、今がその時だと仰りたいのですわね……」
未だ踏ん切りの付かないミレイはゴブリン戦のような怖い思いを再びするかもしれない葛藤と戦っているのかもしれない。
いや、そんなことではなく意外とパワードスーツの色で迷っているのかもしれない。
もしそうならば、ミレイにはブルーをお勧めしたいとユウイチは思っている。
何故なら、ブルーは自信家で少し浮いている存在の者が着用するものだからである。
きっと、ミレイに似合うはずだとユウイチは踏んでいる。
「所長、もう一つ問題があるわ。
私達が洞窟に入った後を追って何者かに襲撃されたらどうするの?
もし洞窟の先で待ち伏せされていたら挟み撃ちよ」
逃げ場のない洞窟で魔獣に挟撃されたら一溜りもない。
リーネは後顧の憂を断っておきたいようである。
「馬車を突っ込んで洞窟の入口を塞いでおくのはどうだろう?」
「また、おかしなことを言い出しましたわね。
馬車が破壊されたりしたらどうするおつもり?」
確かにせっかく入口を塞いでも壊されては意味がない。
ミレイの言うことはもっともである。
「馬車には結界の魔法陣を付与したローブを残しておく。
これで馬車を含め洞窟の入口全体に結界が張られるはずだから背後からの強襲は防げるはずだよ」
これならば、例え洞窟を出てきたところを待ち伏せされていても馬車に籠城が可能で、正に一石二鳥の作戦である。
「これで問題はなくなったということですわね」
「ミレイ君の言う通り問題点は無くなった。
皆はどうする?」
いつもならプレゼンの関所のお白州の上で小さくなっているユウイチだが、今日は一味違うようである。
「私は行きます!」
「わ、私も行きます!」
「ここまできたら断わることはできませんわね」
「あのへんてこなパワードスーツを着るのは嫌だけどしょうがないわね」
ここに全員一致で洞窟の探索が決定した。
「よし、決まりだな
これより洞窟の探索に出発だ!」
「「おーーー!!」」
「「ぉ~!」」
洞窟探索には賛成したものの、リーネとミレイは未だパワードスーツを着る恥ずかしさと葛藤しているようである。
ユウイチは四人の気が変わらないうちに乗馬シミュレーターを操作してトラック風馬車を洞窟の入口に横付けした。
「よし、これで入口は塞いだぞ。
俺は荷台で魔導具の魔石を交換しておくので、その間に四人は馬車の中でパワードスーツに着替えておいてくれ!」
もうすぐ待望の"令嬢戦隊・イセカインジャー"の姿が拝めるユウイチのテンションが高まっている。
できれば一人一人がキャッチフレーズを言った後にポーズを決めて出てきて欲しいものである。
ユウイチは期待に胸を膨らませながら魔石を交換する。
魔石を交換し終える頃に四人は着替え終わって馬車から降りてきた。
「これは、やはり恥ずかしいわ」
先ずは熱血リーダーのリーネレッドがぼやきながら降りてくる。
「そうですわね、どなたかに見られる前に早く洞窟に入りませんこと」
続いてクールな一匹狼のミレイブルーが降りてきた。
「ゆ、ユウイチ所長……
に、似合っていますか?」
三人目は実直なアルマグリーンがモジモシしながら降りてくる。
「四人揃うとなかなかカラフルですね」
トリは無邪気で陽気なリリアイエローが務めたが、「四人揃って、令嬢戦隊イセカインジャー」とは言ってくれないようである。
しかし、四人の姿が見られて感無量のユウイチは軽量版パワードスーツを作って良かったと心の中で涙を流している。
「四人とも良く似合っているぞ!」
「皆様、早く参りませんこと……」
「これは、少し"ピチッ"とし過ぎね」
褒めてみたが誰もポージングをとろうとしないようなので、ユウイチは諦めて洞窟に入ることにした。
洞窟に入ると偵察用ドローンを従えたアルマを先頭にして進んでいく。
アルマの後ろにはリリアとユウイチが続き、殿をリーネとミレイが務めている。
「皆、移動スピードをアップできるようにブーツには風魔法を付与してあるんだよ」
「そうなんですか、ちょっとやってみてもいいですか?」
「リリア君、隊列を乱さない程度になら構わないぞ」
前世の遠足の小学生は隊列を乱しがちで先生がよく注意をしていたものである。
ユウイチから許しを得たリリアが"ピョンピョン"と跳ねながら歩き始めた。
「なかなか上手くいきませんね」
「あら、リリア様は魔力操作ができていないんじゃなくて」
ミレイが一歩踏み出して"ビューン"と一足飛びに先頭に躍り出る。
その動きに偵察用ドローンは少し遅れて付いて行った。
「それなら私も」
リーネもミレイと同様に一歩踏み出して"ビューン"とミレイの横に移動する。
「み、ミレイ様もリーネさんも凄いです」
魔力量の違いはあれど、リーネとミレイは共に魔力操作に長けているようである。
「リリア様とアルマ様は魔力操作に少しづつ慣れていけばいいんじゃない」
「だ、大丈夫です。
私にはこれがありますから」
そう言ってアルマは槍を伸ばして見せる。
「じゃあ、ドジでのろまな亀なのは私だけですね……」
前世の昭和で流行ったドラマの台詞のようなことを呟きながらリリアは"ピョンピョン"と跳ねながら歩いる。
ちょっとやそっとでは諦めないところがリリアの美点である。
これは、"やるっきゃない、やるっきゃない"の精神である。
暫く歩いていると分岐点に差し掛かかり、右側の細い道にアルマがドローンを飛ばして確認する。
「み、右はすぐに行き止まりになっています。
左の道を進みましょう」
アルマが戻ってきたドローンのモニター画面を見てそう判断を下した。
先導役をしっかりとこなしているアルマに従って四人は再び歩きだした。
「ちょっと待ってくださらない。
何か臭いませこと」
ミレイの一言で隊列が止まり、先に進んでいた四人が分岐点に戻ってくる。
「もう一度、中を確認してみますわ」
ミレイが先ほどの右側の道にドローンを飛ばした。
果たして鬼が出るか蛇が出るか、はたまた魔獣でもいるのであろうか。
「ミレイ君、何か見えたか?」
「どうやら、これが臭いの元のようですわね」
ユウイチの問い掛けにミレイが戻ってきたドローンのモニター画面を指差しながら答える。
そこには実の付いた背の低い木のようなものが映し出されている。
「なんだこれは?」
「ウムドレビですわね。
この果実は解毒などの薬に使われますわ」
薬草に精通しているミレイは滅多にお目にかかれない果実を瞬時に見分けた。
さすがは魔法課の首席卒業だけのことはあるなとユウイチは感心している。
「よし、それなら採集しよう」
「ミレイ様、ウムドレビって猛毒を出しているんですよね?
採集するのは危険なんじゃないですか?」
リリアもウムドレビを知っていたようである。
滅多にお目にかかれないだけで存在自体は誰でも知っているものなのかもしれない。
但し、ユウイチはそれを口に出すようなことはしない。
狭い洞窟の中でリリアの地雷が炸裂することは極力避けた方が良いのである。
「そこは安心してくれ。
実はこのパワードスーツのヘルメットには"防毒の魔法陣"が付与してあるんだよ」
「それなら猛毒をまき散らすウムドレビの果実の採集も可能ですわね」
"備えあれば憂いなし"、これは決して"ご都合主義"ではない。
以前、教会騎士団のシェーケンが毒針を飛ばす魔獣がいると言っていたのだから猛毒を撒き散らす魔獣がいても不思議ではないとユウイチは考えたのである。
五人は摘み取った果実をユウイチのリュックサックにどんどん詰め込んでいく。
かなりの重量になりそうだが、パワードスーツを着用していれば何の問題もない。
因みにユウイチのパワードスーツの色はブラックである。
シルバーの線も考えたが、追加メンバー登場の際に着てもらうことになるので、ブラックにしておいた。
「よし、これぐらいでいいだろ」
「そうね、少しは残しておかないとね」
前世の日本の"木守り"のような習慣がこの世界にもあるようだ。
人間と自然とが共生する知恵や生命のサイクルを維持するための自然のメカニズムに基づく習慣に異世界の壁はないようである。
「よし、先ほどの分岐点に戻って左側の道を進むとしようか?」
「はい、奥にも珍しい薬草があるといいですね」
「つ、次は毒の無い希少な鉱石がいいです」
とても欲張りなことを言いながら五人は左側の道を更に奥へと進んでいく。
度々、分岐点に遭遇するが細い道は決まってすぐに行き止まりになっている。
「み、右側を進みます」
「そうね、左側には薬草はなさそうね」
「ウムドレビの果実があったのは先ほどの道だけでしたわね」
ビギナーズラックがギャンブルに嵌まるきっかけになるのは、前世ではよくあることだ。
最初の分岐点で果実を見つけた五人は次なるラッキーを求めて洞窟のかなり奥まで入り込んでしまった。
「アルマ君、ドローンを飛ばしてこの先を見てくれないか?」
「わ、分かりました」
道が大きく右側にカーブして先がよく見通せない場所でユウイチがアルマに指示を出した。
確認せずに迂闊に進んで魔獣の群れに遭遇したのでは洒落にならない。
"この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ~、行けば分かるさ!"などと言うことは決して洞窟探索ではやってはいけない。
「ゆ、ユウイチ所長、この先はホールみたいに広くなっています」
「開けた場所があるのね。
そこに魔獣が溜まっていても不思議ではないわ」
「念のため、ミレイ君のドローンも飛ばしてみてくれないか?」
「分かったわ」
"石橋を叩いて渡る"ここは確認に確認を重ねておいて損はない。
余談だが、作者なら石橋を叩いたら誰が通るのを待つ。
何故なら、叩いた衝撃で石橋に亀裂が入ったかも知れないからである。
そんなどうでもいい話しは置いておいて、本題に戻る。
「この当りに二つの光りが映っていますわよ」
「ん、アルマ君のドローンのライトじゃないのか?」
「ち、違います……。
私のドローンに光りは映っていません」
五人は光の正体を掴むためにミレイのドローンのモニター画面を凝視している。
少しでも確実な情報があれば、それだけ危険を減らすことができるからである。
「光りが二つって、魔獣の目じゃないですか?」
リリアが一つの仮説を立てたが、前世のドラマで"仮説は実証して初めて確かなものになる"と言っていた。
"実に面白い"ものである。
「だとすれば、これは暗闇で光を反射させるタペタムか。
それだと夜行性の魔獣かもしれないな」
「お、大型の魔獣だと不味いですね。
ユウイチ所長、退散しますか?」
"三十六計逃げるに如かず"、世の中には"逃げるが勝ち"なこともある。
「ゆ、ユウイチ所長、この暗闇の中での戦闘は避けたいですね」
「そうね、戦うなら明かりが必要よ」
「所長さん、ここで引き返しても恥ではありませんわよ」
そう、"逃げるは恥だが、役に立つ"こともある。
リリア以外の三人は即時撤退の判断のようである。
何も無理をする必要はないのだが、どうにかして無理じゃない状況を作り出せれば話しは別である。
「乗馬シミュレータの照明でホールを照らせないか?」
「また、所長さんがおかしなことを言い出しましたわね」
「所長、入口まで取りに戻るの?」
「お、往復するだけの手間に見合う魔獣かどうか分からないです」
ユウイチの出直し作戦は三人から否定されてしまった。
「ユウイチさん、一度入口に戻ってから出直しですね」
「そうだな、ブーツの風魔法を使って入口まで戻り、少し休憩を取って馬車ごと戻ってくるのはどうだろう?」
面白い物センサーが反応したリリアとユウイチが今後の作戦を話し合っている。
「あの二人は本気なのかしら?」
「ほ、本気みたいです」
「全く、正気じゃないわ……」
それを見て三人は互いに顔を見合わせて苦笑いをするしかなかったのである。




