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【第四十八話】素材採集旅⑤ 

 偵察用ドローンからの緊急アラームで起こされることもなく五人は三日目の朝を迎えた。


 前世の某バス旅番組では"魔の三日目"などと言っていたが、果たしてユウイチ一行はどうであろう。


「ユウイチさん、おはようございます。

 他の皆は準備が整いしだい馬車から降りてきます」


 女性の身支度には時間がかかるものである。


 それは夜営の時でも変わらない。


 それが女性が女性たる由縁である。


「そうか、リリア君は先に朝食を食べてくれるか?」


 そう言って、ユウイチは簡易テーブルの上にモーニングセットを五人分用意して並べていく。


 この時に「何故、リリア君だけ早く馬車から降りてきたのか?」などと聞くのは野暮と言うものである。


 きっと、リリアが誰よりも早起きしたに違いないのである。


「あら、もう朝食の用意ができておりますのね。

 私がお手伝いして差し上げようと早起きいたしましたのに残念ですわ」


「ミレイ君の気持ちだけ有り難く受け取っておくよ」


 朝だと言うのに優雅に登場してきたミレイに「何故、早起きしたのにリリアより降りてくるのが遅かったのか?」などと聞いてはいけない。


 きっとミレイは、リーネとアルマの準備を手伝っていたからに違いないのである。


「「おはようございます」」


 そして、リーネとアルマが揃ってやってきた。


 アルマは寝起きらしく"ゴシゴシ"と眠そうな目を擦っている。


「す、すいません。

 ち、朝食の用意をお手伝いをしようと思っていたのですが起きられませんでした」


「アルマ君、これは昨晩から用意しておいたものだから気にすることはないぞ」


 アルマは素直に朝寝坊を認めたが、他の三人は急に体を解し始めて、ユウイチから目を反らしている。


「そ、それにしても、サンドウィッチと目玉焼きとコーヒーが用意されているなんて夜営明けの朝にしては優雅なものですわね」


 体を解し終えたミレイが、わざとらしく話題を変えた。


「戦闘は無い方がいいが、いざと言う時に腹が減っていては戦はできないからな」


 今回の旅の目的は飽くまで素材採集であるが、一昨日のホークワイド領の賊と昨日のゴブリンと既に二回の戦闘を経験している。


 "二度あることは三度ある"或いは"仏の顔も三度まで"とするならば、この旅の間にもう一戦する可能性は高いのである。


「馬車での快適な移動と豪華な食事で、私は旅の間に太ってしまわないか心配ですわ」


 朝寝坊から話題を反らすことに成功したミレイが、何故か禁断の話題に足を踏み入れた。


「ミレイ様、体重が気になるのら魔獣と戦闘をすれば良い運動になるわよ」


 リーネは敢えて禁断の話題から遠ざかるような話をした。


「や、夜営とは思えないお食事と食後のスイーツを頂くのですから、ハードな戦いじゃないと足りないかもしれません」


 今度はアルマが禁断の話題に引き戻すような話をする。


「豪勢な食事とスイーツを用意しているユウイチさんは、やっぱり意地悪です」


 禁断の話題から、思わぬ角度で流れ弾がユウイチ目掛けて飛んできた。


「今夜のスイーツは出さない方がいいのだろうか?」とユウイチは皿を片付けながら考えを巡らせる。


 離れた場所で"ウ、ウンッ"とリリアが咳払いをしたのが聞こえた。


 恐らく、リリアはスイーツを催促しているに違いない。


 今夜も大人しくスイーツを出した方が無難そうである。


「皆、目的地に向けて出発だ!」


 ユウイチは禁断の話題をコーヒーで胃袋に流し込んで魔物の森を目指し進むことにした。


 何故なら、魔獣よりもスイーツのお預けを喰らった四人の方がよほど怖そうだからである。


「アルマ君、疲れたら言ってくれよ」


「は、はい、ユウイチ所長」


 今日はアルマが手綱を握って、腕組みをしたリーネが助手席に鎮座している。


 その姿は前世の自動車教習所の教官のように"でーん"と鎮座しておられるのである。


 その替わりユウイチは後部座席でリクライニングを倒してのんびりと窓の外を眺めて寛いでいられるのである。


 心の余裕から森林道を進むにつれて涼しくなっていくことも感じられる。


 アルマの話しによると魔物の森に入ると更に気温が低下するようである。


「ここからが魔物の森よ。

 皆、少し緊張感を持った方がいいわ」


 前世で初めて路上に出る教習生の気持ちを引き締めるように鬼教官リーネが車内ののんびりとしたムードを引き締めにかかる。


「二台のドローンで前後を監視しているが、アルマ君以外は両サイドの警戒を頼む」


 そう言ってユウイチもリクライニングを元に戻して窓の外を警戒する。


「どうせ現れるのならダイエットに効果のある魔獣にして欲しいですわね」


 のんびりムードの影響なのか、ミレイが禁断の話題を蒸し返した。


「ミレイ様、魔獣と戦うよりも食後のスイーツを我慢する方が簡単です」


「リリア様、それは殺生というものですわよ」


 それは、ダイエットのために殺される魔獣側の意見である。


「アルマ君、あの辺りの薬草を見てみたいから馬車を止めてくれるかな」


 これ以上、禁断の話題を聞いていると、いつ流れ弾が飛んでくるとも限らないので、ユウイチはこの辺りの薬草を見てみることにした。


 そう、旅の目的はダイエットではなく飽くまで素材採集だと言うことを忘れてはいけないのである。


「わ、分かりました。

 開けた場所で見通しが良さそうな、ここで止まります」


 そう言って、アルマが手綱を引いてゆっくりと馬車を止めた。


 話し合いの結果、後部座席の三人で薬草を見にいくことになった。


 禁断の話題から逃れるつもりが、禁断の話題の主が付いて来てしまったのはユウイチの誤算である。


「ミレイ君、これはモーリュかな?」


「形は似ているけど、少し色が違うかしら」


 モーリュとは、魔女の作る魔法の飲み物を打ち消す力を持つとされる薬草である。


 魔法課首席卒業で薬草にも精通しているミレイには直ぐに見分けがついたようで頼もしい存在である。


 これでミレイが禁断の話題を忘れてくれたら一石二鳥である。


「そもそも、ユウイチさんはとんな薬草を捜しているんですか?」


「そうですわ、肝心なことを聞き忘れておりましたわ」


 前世には、"探し物は何ですか、見付けにくいものですか?"と言う歌詞があったが、目的を知って探すのと当てもなく探すのでは効率が違うものである。


 目的がなければ夢の中へ行ってしまうかもしれないのである。


「冒険者ギルドに置いていない薬草なら何でもいいんだよ。

 例えば、アグラフォーティスやプロメテイオンなどかな……」


 これらはポーションと呼ばれる魔法の薬の材料になったり魔術から身を守るハーブなどのことである。


 ユウイチは採集する素材自体に特には拘っていない。


 拘ってはいないが、かといってなんでも良いと言う訳でもない。


 その辺りの匙加減はユウイチにしか分からないところで、他人に伝えるのは難しい。


「所長さん、その適当な目的は何なんですの!」


 だが、それを"匙加減"ではなく"いい加減"だと判断したミレイは、少しばかり呆れ気味である。


ユウイチは「女性はお喋りなら目的がなくても続けられるが、それ以外のことには目的が必要なのだ」と、前世の無責任な上司から教えられたことがある。


 これは飽くまでも無責任な上司の個人的な見解なので、女性の皆さんには必要以上に気にしないでもらいたい。


「いや、薬草でなくても魔石でも構わないんだよ。

 何ならドラゴンの鱗や爪などでもいい」


「ドラゴンですって!

 所長さんは、寝起きでいらっしゃるのかしら?」


 ここで「いえ、俺の方が早く起きていましたよね?」などと口にしてはいけない。


 何故なら、そこにはたくさんの地雷が埋まっているはずなのである。


「すまない、ここには目ぼしい薬草は無いようだな。

 長居は無用だ、馬車に戻ろうか?」


 そろそろ、ミレイが禁断の話題を忘れた頃だろうと思いユウイチは馬車に戻ることにした。


「全くの無駄足でしたわね。

 これでは、ティータイムにスイーツでも出して頂きませんと割に合いませんわ」


 どうやら、ユウイチの考えが甘かったようである。

 

 馬車に戻ったらスイーツを用意しようと思いながらミレイの後をついて歩く。


「ユウイチさん、あれは魔石ではないですか?」


 最後尾を歩いていたリリアが突如として声を上げた。


「リリア君、どこに魔石があるんだ?」


 ユウイチはキョロキョロと辺りを見回すが、それらしい物は見つけられない。


「ユウイチさん、あっちですよ」


 ユウイチはリリアが指差している方を眼を凝らしてよく見てみるが、魔石らしき物が見当たらない。


 ひょっとしたらリリアの視力は"2.0"以上なのかもしれない。


「私が周囲の警戒をしておくので、二人で見に行っていらしたら?」


「そうか、直ぐに戻る。

 もし、魔獣が現れたら無理をせずに教えてくれ」


 見張り役を買って出てくれたミレイにそう言い残して、ユウイチとリリアが茂みに入っていく。


 よくあるパターンなら一人になったミレイに凶悪な魔獣が襲いかかってきて大ピンチとなるところなのだが、昨日のゴブリンとの戦闘で怖い思いをさせてしまったのでここでは何も起こらないようにしておく。


 暫くするとリリアとユウイチがミレイの下に戻って来てきた。


「奥に洞窟らしき穴があるんだが、ミレイ君は知っているか?」


「私は魔物の森に付いて詳しくは知りませんわよ。

 一度、馬車に戻って二人に聞いてみてはどうかしら?」


 ミレイは魔法や薬草は専門分野だが、魔物の森は専門外のようである。


「確かにミレイ君の言う通りだな。

 馬車に戻って二人に聞いてみよう」


 戻る際に魔獣が襲ってくる可能性もあるため三人は辺りを警戒しながら急いで馬車へと戻っていく。


「そんなに急いで何かあったの?」


 三人が、あまりにも急いで戻ってきたのでリーネが不測の事態が起こったのかと心配している。


「いや、問題が起こったわけではないんだが、そこの茂みの奥で洞窟を発見したんだ。

 二人が何か知っているか聞きたくて戻ってきたんだよ」


 ユウイチは発見した洞窟の中に入ろとしてリリアに止められたことは割愛して説明をした。


 何故なら絶対にリーネ教官から御叱りの言葉を頂戴するからである。


 是が非でも洞窟を探索したいユウイチは、余計なことでリーネの機嫌を損ねないように配慮している。


「魔物の森に洞窟があるなんて話は聞いたことがないわ。

 もし洞窟があれば商隊が通行する時に警戒が必要になっているはずよ」


「お、王城にも報告が上がってきてはいません。

 もし、ダンジョンや魔獣が潜む洞窟なら騎士団に出動要請があるはずです」


 四人の知っている情報を整理すると魔物の森を抜けた鉱山なら多数の洞窟が存在しているが、魔物の森に洞窟は存在しないと言うものであった。


「洞窟がどれほど続いているか分からないから探索するのは危険ね。

 "君子危うきに近寄らず"よ」


「そうですわね、迂闊に踏み込んでは"ミイラ取りがミイラになる"かもしれませんわね」


「ゆ、ユウイチ所長、"触らぬ神に祟りなし"です」


 どうやら、三人は洞窟の探索には反対のようである。


 しかし、"虎穴に入らずんば虎子を得ず"である。


 男には危険だと分かっていても行かねばならない時がある。


「もしかしたら貴重な素材が手に入るかもしれないぞ」


「"かもしれない"だけでは危険を犯す理由にはならないわね」


 ユウイチの前に仁王立ちした鬼教官リーネが立ちはだかっている。


 ちょっとやそっとでは通してくれそうもない。


 そんなリーネが居てくれれば洞窟の探索も可能なのではないだろかとユウイチは思ったが口には出さない。


「リーネさん、洞窟の近くにこの魔石が落ちていました。

 洞窟の中にも何かありそうです」


 リリアが先ほど拾った魔石をリーネに見せている。


 前世のお宝鑑定バラエティーの鑑定家のようにリーネがまじまじと魔石を見ているが、「良い仕事をしていますね」とは言ってくれないだろう。


「これだけでは判断しかねるわ。

 皆はどう思う?」


 魔石をリリアに返しながら鬼教官リーネが意見を募っている。


「危険があるのは承知していますけど……

 私は探索してみたいです」


「今の戦力では不安ですわね。

 特に私のクロスボウは近接戦には不向きですから狭い洞窟は遠慮したいところですわ」


「わ、私は皆が洞窟に入るなら構わないです」


 今のところ探索するかしないかは三対二に割れている。


 しかし、五人はパーティーを組んでいるわけではないので、全員一致でなければ洞窟の探索は実行できない。


 洞窟を探索するのか、スルーして先に進むのか決定打が出ないまま、時間だけが過ぎでいくのであった。


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