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【第四十七話】素材採集旅④

「おい、あんた達がやったのか?」


 勝利の余韻に浸る五人に通りすがりの冒険者風の男が声をかけてくる。


 未だ戦闘モードのリリアは咄嗟に刀を抜いて臨戦態勢に入った。


「あ~、待ってくれ。

 俺達は怪しい者じゃない。

 戦闘の意思はないから、その物騒な物を納めてくれ」


 冒険者風の男が両手を上げて無抵抗の意思を示したのを見たリリアは型の力を抜いて刀を鞘に納めた。


「俺達は王都へ運ぶクロイツ家の商品の護衛任務中なんだよ」


 そう言って、冒険者風の男が後ろを振り返ると二人の男が馬に引かれた荷馬車にぴったりと張り付きながら近づいてくる。


「あら、貴方達はうちの商品を運んでいるのね」


「へっ、俺達が運んでいるのはクロイツ家の商品ですが?……」


「だから、うちの商品よね?」


 リーネは、きょとんとしている冒険者風の男に自らの素性を明かして納得させた。


「いやー、奇遇ですな。

 こんなところで、クロイツ家のご令嬢にお会いするなんて……」


 男達の畏まった態度を見ると、リーネのお嬢様ぶりがよく分かる。


 序でに、この出会いが男達にとって歓迎すべきものか否かも分かる。


「ここで会ったのも何かの縁ね。

 貴方達、ゴブリンの処理を手伝ってもらえないかしら?」


 明らかに立場が上であるリーネが冒険者風の男にお願いした。


 やんわりとした言葉使いではあるが、これは事実上の命令に等しい。


「あのぅー、あっしら護衛任務の途中なんですが……」


 男達は困ったように互いに顔を見合っている。


「勿論、ただでとは言わないわ。

 ちゃんと手当は払うわよ。

 それともワ、タ、シ達だけでこれだけの数のゴブリンの処理をしろと仰るのかしら?」


 リーネが敢えて"ワタシ達"の部分を強調した効果は抜群のようで、男達は神妙な顔をして"ヒソヒソ"と話し合っている。


「わ、分かりました。

 お手伝いさせていただきます!」


 リーネのお嬢様オーラに屈した男達は荷馬車を沿道に寄せて、手際よくゴブリンを一ヶ所に集め始めた。


「俺も手伝ってくるから四人は馬車の中でお茶でも飲んで待っていてくれるかな」


 冒険者風の男達だけに任せて休憩するのはさすがに気が引けると、ユウイチもゴブリンを運び始めた。


「ユウイチさん、私も手伝います」


「わ、私も手伝います」


 リリアとアルマもユウイチに続いて、走り出した。


「全く、この人達はしょうがありませんわね。

 私もお手伝いいたしますわ」


 ミレイも、渋々ながら後を付いて行く。


「せっかく交渉したのに、結局は皆で手伝うことになるのね」


 リーネがやれやれという表情で四人の後を付いて行く。


 但し、この場合に於いて手伝っているのは冒険者風の男達の方だと言うことを忘れてはいけない。


「旦那、ゴブリンは魔石しか買い取りの対象になりません。

 だから取った後は燃やすしかないんですがどうします?」


 冒険者風の男が念のためユウイチに確認する。


 リーネではなくユウイチに確認したのは察するに余りあるので触れないでおこう。


「そうなのか。

 じゃあ、山積みにしてからミレイ君に燃やしてもらおうかな」


「ゴブリンごときに貴重な魔力を使いたくありませんが、放っておいても魔獣が寄ってくるだけですから仕方がありませんわね」


 ミレイが文句を言いながらも協力するのは、先ほど怖い思いをさせられた憎きゴブリンを一刻も早くこの世から消滅させたのだろとユウイチは思ったが、口には出さないでおく。


 そして、主に女性陣のによる魔石取り出し班と主に男性陣の山積み班に分かれて手際よく処理していくと、道に緑色の小山ができあがった。


「ふー、後はこれを燃やすだけね」


「はい、リーネ様。

 燃え尽きるまであっしらが見ておくんで、皆さんは先を急いでくださっても構いませんぜ」


 冒険者風の男が自らそう申し出た。


 これは、男達がリーネの放つお嬢様オーラに屈して申し出た訳ではなく、飽くまでリーネの人徳によるものだと言うことを強調しておく。


「それは助かるわ。

 ところでお礼は何がいいかしら?」


「いえ、先程分けて頂いた魔石で十分です」


 ゴブリン三十一匹分の魔石は二等分した。


 三十匹なら割り切れたのだが、余りが一個出てしまった。


 ユウイチは余った一個をこっそりと男達に渡しておいた。


 それもあってか、男達はリーネの申し出をやんわりと断った。


 しつこいようだが、決してリーネのお嬢様オーラに屈して断った訳ではなく人徳によるものである。


「初めに約束したのだからそうはいかないわ。

 何か欲しい物はないのかしら?」


 リーネのお嬢様オーラが先ほどより少し増した気がする。


 そう……ほんの少しだけ。


「では、あの魔導具がいいです。

 あれは戦闘を指示してくれるリーダー役の魔導具ですよね」


 一人の男がアルマの上空をフワフワと浮かんでいるドローンを指差して言った。


 噂に少し尾ひれが付いて、今やドローンは冒険者の間でレジェンド級の魔導具になりつつある。


「あれはこの先も必要なのよ。

 旅が終わったら用意しておくから商業ギルドに取りにきてくれるかしら?」


 新たにドローンを作るのはユウイチなのだが、ユウイチに一瞥もくれずリーネは男達に提案した。


 五人でゴブリンを処理する労力と魔導具であるドローンの取引が見合っているのか分からないユウイチは黙って成り行きを見守っている。


「本当にいんですか、それなら必ずお伺いします!」


 男達はレジェンド級のアイテムが手に入る喜びから互いにハイタッチを繰り返している。


「では、気を付けて旅を続けてくだい」


「ありがとう、そちらも気をつけて運んでちょうだいね」


 リーネの言葉に男達は胸に右手を当て"ハッ"と言って応える。


 諄いようであるが、決してリーネのお嬢様オーラがそうさせた訳ではなく、これは騎士が行う挨拶の真似である。


 冒険者風の男達と分かれたユウイチ達はトラック風馬車に乗って再び森林道を進んで行く。


 点検したところ、幸いにして戦闘による破損や異常などは見つからなかった。


「アルマ君、あんな槍の使い方をいつ思い付いたんだ?」


 ユウイチが運転席で手綱を捌きながら、助手席のアルマに聞いた。


 リーネ教官は、ゴブリンとの戦闘と冒険者風の男との交渉の疲れを癒すために後部座席でリクライニングを倒してゆっくりと寛いでおられる。


「あ、あれは昨日、ホークワイド卿の屋敷で練習している時に思い付きました」


 アルマによると、木に刺さった槍を抜くためにわざわざ穂先まで歩いて行くのが面倒なので思いついたものらしい。


「はははは、正に"必要は発明の種"と言うことだな」


 愉快そうに笑うユウイチの隣でアルマが少し恥ずかしそうに俯いている。


「あら、アルマ様のお陰で助かったのですから私にとっては大発明ですわよ」


「所長の発明のような副作用もないし、アルマ様は偉大な発明家ね」


「本当にアルマ様の動きは凄かったです。

 "ビュッ"と移動していましたからね」


 後部座席からの絶賛の声を聞いて、アルマは嬉し恥ずかしと言ったところのようである。


 これでアルマが少しでもトラウマから解放されればいいなと手綱を捌きながらユウイチは思う。


「所長、ゴブリンのせいで予定より少し遅れているわ。

 今日はこの辺りで夜営したほうが良さそうよ」


「リーネ君の言う通りだな。

 魔物の森に入ってから夜営できる場所を探すとなると苦労するだろうからな」


 リーネ教官の指示に従いユウイチは沿道の少し開けた場所を見つけて馬車を止めた。


「じゃあ、今から夜営の準備ですね。

 リーネさん、役割分担はどうしましょうか?」


「そうね、二人一組が基本よね。

 どの組み合わせが効率が良いかしら?」


 リーネとリリアが中心になって夜営の段取りを話し合っている。


「ん、夜営の準備はもうできているぞ」


 話し合っている四人を横目にユウイチは荷台から大きな鍋を取り出して運んでいる。


「所長さんは何を仰っておりますの……

 寝床や料理の準備、それに火にくべる小枝などがないではありませんか?」


 それ以外にも水場の確認や魔獣の気配の確認など、やることはたくさんある。


「ゆ、ユウイチ所長、もしかして晩御飯抜きですか?」


 ミレイとアルマがユウイチに喰ってかからんばかりの勢いである。


「フフフ、大丈夫だよ。

 ミレイ君達は、そこに石で竈を作って火を起こしてくるだけでいい。

その他の準備は既に出来ているからな」


 ユウイチはドヤ顔で運んできた大鍋を仮置きてして荷台から降りながら指示を出した。


 普通の夜営の段取りとは違うユウイチの言葉には納得できないものの、言われた通りに四人は石を積んで小枝を敷いて火を起こしていく。


「クロスボウの矢で簡単に火が起こせるは便利ね」


 リーネに自分の武器を調理用便利グッズ扱いされたミレイが少し複雑な表情をしている。


「で、でも、ミレイ様のお陰で晩御飯が早くできそうです」


「そ、それほどでもありませんわよ……」


 空気を読んだアルマがミレイに最大限のフォローを入れている。


「私は既にお腹がペコペコです。

 本当にミレイ様々です」


 これは、空気を読んだ訳ではなくリリアは本音を言っただけである。


「リリア君、大鍋が温まるまでもう暫くの辛抱だよ」


 今にも涎が口から垂れそうなリリアにユウイチから待ての指示が出る。


 "パチパチ"と小枝が爆ぜる音と立ち上る湯気が更にリリアの食欲を刺激する。


「待っている間に三人でテントを張りましょうよ」


 竈の火の番の座を死守しているリリアを残して、リーネがアルマとミレイに声を掛ける。


「リーネ君、テントは必要ないから持って来ていないよ!」


「ゆ、ユウイチ所長は私達を露天で寝させるつもりですか?」


「所長さん、か弱き女性相手に"露天で眠れ"の言葉は、おおらかな私でもさすがに看過できませんわよ」


 露天で雑魚寝をさせられては堪ったものではないとミレイがユウイチを睨み付ける。


「所長、夜営にテント無しでどうするつもりなの?」


「女性陣は、あの馬車の中で寝ればいいだけの話しだよ」


 ユウイチは再びのドヤ顔でトラック風馬車を指差している。


「所長さん、さすがに座って眠るのは辛いのではありませんこと?」


 昨日、リクライニングシートの効果で熟睡したことを棚に上げてミレイが訴える。


 だが、ミレイの言う通り長時間の睡眠に椅子は向いていないのである。


 前世の飛行機や新幹線での長距離移動ではエコノミー症候群を起こす可能性があった。


 災害の際の車中泊でもその辺りに注意するように呼び掛けられている。


「皆、心配は無用だ。

 あのシートはフルフラットにできるからな」


 フルフラットの意味が分からない四人が揃って"ポカン"とした顔でユウイチを見ている。


「そうだな、今のうちにセットしておくかな」


 そう言ってユウイチは馬車のシートをあれこれと操作してフルフラットにして三人に見せてやる。


「へぇー、これならゆっくり眠そうじゃない」


「わ、私の使っているベッドより少し広いです」


「全く、始めからこのようして見せてくだされれば皆に文句を言われることもまりせんのに」


 最も文句を言っていたはずのミレイは自分のことを再び棚に上げている。


「あははは、それは気が利かなくてすまなかった」


 これにはユウイチも頭を掻いて苦笑いするしかないようである。


「もう、お料理が温まりましたよ」


 リリアが"スンスン"と鼻を鳴らして出来上がりを確認したようで、皆に声をかけた。


「よし、温かいうちに皆で料理を頂こう!」


 四人が竈に着く前に待ちきれないリリアが早くも器に料理を取り分けている。


 ユウイチは、リリアの目の前にある器に具材がたくさん入っていることには目を瞑る。


「夜営でこのように豪勢な料理は初めてですわよ」


「普通は干し肉と固いパンだけよね」


 レトルト食品のないこちらの世界ではそれも仕方がないことである。


 もしレトルト食品を発明すれば必ずブームになるだろと思いながらユウイチは料理を口に運ぶ。


「私は、もうお腹がいっぱいです」


「わ、私もこれ以上は入りません」


 人一倍食べたリリアと人並みに食べたアルマがお腹を押さえて横たわっている。


 そこにユウイチが冷蔵庫から取り出した大きな皿を持ってやってくる。


「二人とも満腹とは残念だな。

 それではリーネ君とミレイ君で分けてくれるかな?」


 そう言ってユウイチは簡易に作ったテーブルに持っていた皿を置いた。


「所長さん、これはなんですの?」


「バーガー・カテドラルの新作のスイーツだよ。

 良かったら食べてみて感想を聞かせてくれるかな?」


「えっ、ユウイチさんスイーツって言いましたか?」


「ゆ、ユウイチ所長、それは聞き捨てなりません!」


 ユウイチが答え終わる前に二人は"パッ"と起き上がり素早く皿に手を伸ばす。


 こちらの世界でも前世と同じように"甘い物は別腹"のようである。


「はははは、数は十分用意してあるから二人ともそんなに慌てなくても大丈夫だよ」


「もう、こんな大事なことを秘密にしておくなんてユウイチさんはとても意地悪です」


「もし、知っていてもリリア様はお腹がいっぱいになるまで料理を食べるんでしょ?」


「えっ、ヘヘヘヘ……」


 リーネにツッコミを入れられて苦笑いをして誤魔化すリリアの横で、アルマが恥ずかしそうに俯いている。


「今日はゴブリン討伐で疲れただろうから、たくさん食べてゆっくり寝てくれ」


 そう言いながらユウイチもスイーツを一つ頬張っている。


「でも、見張り役は全員で交代しながらですよね?」


「そうね、五人もいれば一人当りの見張り時間が短くて済むわね」


 四人は何個目かのスイーツを頬張りながら順番を話し合っている。


「いや、見張りは偵察用ドローンの二台にやってもらうつもりだよ。

 何か異変があればアラームで知らせてくれから、それまで四人はゆっくり寝ておいてくれて構わないぞ」


「豪勢な料理にスイーツ、寝るのはふかふかなシートで見張り役はしなくてもいいなんて……」


「所長さんのお陰で、私の中の夜営の概念が音を立てて崩れていきましたわ」


「私は崩れて過ぎて訳が分かりません」


「も、もう、通常の夜営にもどるのは無理だと思います」


 人間は一度でも楽をするとそれが基準となるものである。


 ユウイチのせいで、四人はこちらの世界の夜営に戻れない身体になってしまった。


 もし、恨むのなら楽を覚えさせたユウイチを恨むことである。

 

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