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【第四十六話】素材採集旅③

 旅と戦闘の疲れがあったユウイチは、枕が変わってもぐっすりと眠れたようですっきりとした朝を迎えている。


 これなら反抗期を迎えた低反発マクラを持ってくる必要がなかったぐらいである。


「ユウイチ殿、この度も色々と世話になった。

 捕らえた賊についてはこちらで処理しておくから安心して旅を続けて欲しい」


 ARゲームのアップデートに行ったはずが、グルグル巻きにした男を三人連れて帰ってきたユウイチにホークワイドは驚いていた。


「アイツらは雷神様の罰が当たった」と言うユウイチの主張を、ホークワイドは眉に唾を付けながら聞いていたが、どうやら納得してくれたようである。


 これは、社交界などで当たり前に行われている"相手の事情を察する"と言う貴族ならではの文化である。


「ホークワイド卿、後のことはよろしくお願いします。

 帰りに立ち寄らせてもらいますので報告はその時に伺います」


 挨拶を終えたユウイチ一行はホークワイド邸を後にして素材採集の旅を再開した。


「ゆ、ユウイチ所長、昨晩は大変でしたね」


「そうだな、ホークワイド領の治安の維持を考えないと駄目かもしれないな」


「り、領内の治安維持は自治権の範囲内です。

 冷たいようですが、ホークワイド卿に頑張ってもらうしかありませんね」


 今日はリリアに替わって、槍を大事そうに抱えたアルマが助手席に座っている。


「はははは、それもそうだな。

 ところで、アルマ君はどう過ごしていたんだ?」


 断っておくが、これは業務に於いて必要な質問なので、セクハラ行為には当たらないのである。


「わ、私は槍はの使い方をずっと考えていました」


 伸縮性のある槍など使ったことがないアルマは中庭で確認した性能を基に色々と戦術を考えていたようである。


「それで、良い使い方は思いついたかな?」


「い、今は考えていることと実践できることに差がありますが、きっとできるようになってみせます!」


 アルマは槍を"ギュッ"と抱き締めて決意を語った。


 槍に深い思い入れがあるのだろうと思いながらも、ユウイチは深くは聞かないでおくことにした。


 所謂、"相手の事情を察する"と言う貴族のアレである。


「それでリリア様はどうされたんですの?」


「囲まれた時は怖くはなかったの?」


 後部座席ではリリアが昨晩の襲撃事件のインタビューの対応に追われている。


 どうやら、リーネとミレイも"雷神様の罰が当たったで"は納得してくれないようである。


 年頃の女性の手にかかれば"相手の事情を察する"と言う貴族のアレは不発のようである。


「アルマ君、ホークワイド領を出たら魔物の森に入るまでは森林道を進むんだったよな?」


「は、はい。

 し、森林道は魔物の森を通り抜けていますから魔獣に遭遇する可能性があります」


 アルマが助手席に座った理由は、景色を楽しむためではなく、"魔物の森"に詳しそうだからである。


 そのアルマが言うには魔物の森は幾つかの領地に股がっていて数本の森林道が南北に走っているそうである。


「そうか、念のため偵察用ドローンを飛ばしておこうかな。

アルマ君、魔力の登録を頼む」


「は、はい」


 アルマが魔力を登録し終えるとユウイチは馬車の窓を開けてドローンを飛ばすした。


ドローンから送られてくる映像をアルマが食い入るように見ている。


「アルマ君、そんなに根を詰めて見ていなくても大丈夫だと思うぞ」


「ま、魔獣に囲まれたら簡単には逃げられないです。

 き、気が付いてからでは手遅れになります」


 魔物の森で実父を亡くしたことで、アルマは何らかのトラウマを抱えているようである。


 そのトラウマを克服するためにアルマは同行を決めたのかもしれないがユウイチは深くは聞かないでおく。


 諄いようだが、これも貴族の察する文化である。


「そうなんですか、ミレイ様!

 クロスボウってそんなに扱い易いんですか?」


 後部座席では、リリアの面白い物センサーが反応しているようである。


「このクロスボウがあればゴブリンの一匹や二匹は物の数ではありませんわ」


 アルマのトラウマを知ってか知らずかミレイが興奮気味にクロスボウの話している。


「リリア様とミレイ様、油断が過ぎますよ。

 ここからは魔獣がいつ襲ってきてもおかしくないんですよ」


 リーネが二人を注意する姿は、前世の遠足のバスの中で小学生を注意する先生のようである。


 注意されたリリアとミレイは調子にのり過ぎたことを反省したようで大人しくなった。


 前世のエレベーターで苦手な上司と乗り合わせたような重たい空気が馬車の中に充満している。


「ユウイチさんは冒険者ギルドに登録してあるんですよね?」


 リリアが静寂を打ち破るかのようにユウイチに尋ねる。


 この立ち直りの早さが、リリアの長所であり短所でもある。


「出発の前日に冒険者ギルドへ行って登録を済ませてきたよ。

 Fランクからのスタートだが目的はランクアップではなく素材採集だからな」


 素材を買い取ってもらうには冒険者ギルドに登録しておく必要があるらしい。


 必要のない素材の処分に困らないようにユウイチは冒険者登録をしておいたのである。


「そうなのですか……

 せっかくならSランクを目指しませんこと?」


 リリアに釣られて立ち直ったミレイが強気な発言をする。


 遠足のバスの中で先生に叱られた小学生も立ち直りが早かった。


 遠足の小学生と貴族の令嬢は何か合い通ずる物があるのかもしれないとユウイチは考察する。


「ゆ、ユウイチ所長、画面に何やら人影のようなものが映っています」


「どれどれ、拡大してみよう」


 アルマからの報告を受けてユウイチがモニター画面をピンチアウトする。


 後部座席の三人も身を乗り出して画面に注目している。


「もしかして、昨日の賊の仲間ですか?」


「……これ、ゴブリンじゃない?」


「そのようですわね。

 ゴブリンでなければコボルトかしら?」


「お、オークではなさそうなのが不幸中の幸いです」


 モニター画面は前世の地上デジタル放送とはいかないまでも、アナログ放送ぐらいの解像度はある。


 四者四様の見立てではあるが、敵であることには違いないようである。


 どうやら、先程のミレイの発言が伏線となった格好である。


「ユウイチさん、どうしますか?」


「よく、"ゴブリンを一匹見たら三十匹はいると思え"と申しますわね」


 初めに見た一匹は三十匹に入るのか、それとも別に三十匹いて合計で三十一匹になるのかは、この際どうでもいい。


 どちらにしても前世の"G"と同じ嫌われ者の登場である。


「戦わずにやり過ごすことは可能かな?」


「確か、ゴブリンは道に罠を仕掛けて待ち伏せするのよね?」


 そう言ってリーネが指差した道の前方が不自然に盛り上りがっている。


「はははは、如何にもそれらしい罠だな」


「笑っていらっしゃいますけど、ああやって馬車が通る場所を誘導しているのですわよ」


 今度はミレイが先生になってユウイチを注意している。


「ほう、少しは知恵が回るようだな」


「お、恐らく、この馬車を狙ったのも女性が多いからですよ」


 "少しは"どころか、"かなり"悪知恵が働くようである。


 五人を乗せた馬車はゴブリンの仕掛けた罠を避けながらゆっくりと進んで行く。


 その結果として、馬車は道の左の端の方を通っている。


「ユウイチさん、そろそろですね」


「ああ、打ち合わせ通りにいこう。

 不測の事態が起これば最終手段を使う」


 敢えてゆっくりと進みながら、五人でゴブリンとの戦闘を想定した作戦を立てた。


 しかし、連携と呼べるような訓練はしていないので出たとこ勝負の感は否めない。


「ゴブリンは、ここを戦場に選んだようね」


 暫く進んだところでと道を塞ぐように倒木が横たわっている。


 あからさまな罠であるがユウイチは手綱を引いて馬車を止めた。


「倒木をどかしている間を狙う作戦かな?

 やれやれ、本当に悪知恵の回る奴らだな」


 ユウイチが妙に感心していると茂みから"ガサガサ"と音をたてながら数匹の"G"ならぬゴブリンが現れた。


 "G"ならば"シュー"と噴出すれば終わりなのだが、こちらはそうはいかないようである。


「仕方がないやるか!」


「「「「はい!」」」」


 未だ魔獣との戦闘に不安のあるアルマを隊列の中央にした。


 残りの四人はアルマを起点にして左右に二人ずつ並び、全員が馬車を背にしている。


 これで背後からの急襲を気にせず前方のゴブリンに集中できるのである。


「これでも喰らいなさいな!」


 ミレイが火の着いた矢をゴブリンに向けて放つ。


「やるわね、ミレイ様!」


 リーネも双剣を"ブンブン"と振って斬撃をゴブリンに飛ばしている。


「できるだけ遠距離攻撃で数を減らしたい。

 リーネ君、ミレイ君頼んだぞ!」


 ユウイチの指示に二人は黙って頷く。


 リリアは動きたくてウズウズしているようだが下手に動いて陣形を崩したくはないので我慢して貰っている。


 リリアも"待て"ができるぐらいに成長しているのである。


「ゴブリンどもこれでも喰らえ!」


 ユウイチはサイドポーチからボールのような物を取り出して群れの真ん中に放り投げた。


 "ドカーン"という爆音がしたかと思うと数匹のゴブリンが倒れた。


「ユウイチさん、今のは何ですか?」


「これは手榴弾という魔導具だよ。

 花火を応用した武器だが、なかなかの威力だろ?」


 ユウイチが戦闘用に新たに発明した魔導具である。


 但し、前世の手榴弾をパクったことは四人には内緒である。


「所長、だいぶ数を削れたわ」


「よし、リリア君の出番だ。

 一気にゴブリンを殲滅するぞ!」


「はい!」


 遠距離攻撃から近接戦に切り替えてユウイチとリリアとリーネが前に出る。


「行きます、"疾風迅雷"」


 そう言ってリリアが刀を上段から振り下ろす。


 紫色の光りが"バチバチ"と音を立ててゴブリンに襲いかかる。


「疾風迅雷か、いい名前を付けたな」


 リリアが叫んだ雷魔法の名前はユウイチの中二厨を擽る格好いい名前である。


 心なしかミレイもリリアの技を気にしているようである。


 リリアに触発されたミレイがクロスボウの矢を放ちながら"ファイヤーアロー"と叫び出すかもしれない。


「よし、このまま押し込むぞ!」


 ユウイチの檄にリーネとリリアが更に前へ出てゴブリンを一匹づつ倒していく。


 しかし、戦闘に集中し過ぎたのか四人とミレイとの間に少し距離ができてしまった。


「これでは、矢を番える暇がありませんわね」


 孤立したミレイはしだいに林の方に追い込まれていく。


「所長、ミレイ様が孤立してるわよ」


「しまった深追いし過ぎたか……

 上手く間に入られて分断されてしまったか!」

 

 リーネの言葉でユウイチは陣形が崩れていることに気が付いた。


 アルマの言った"気付いたときには遅い"が頭の中を過る。


「誰かミレイ君の助けに入れるか?」


「私は囲まれいて動けないわ。

 リリア様は援護できそう?」


「私も時間がかかりそうです」


 ユウイチと同じ様にリーネとリリアも直ぐには動けそうにない。


 このままではミレイが危ないとユウイチは焦る。


 焦るものの目の前のゴブリンを片付けられないでいる。


「わ、私がミレイ様を助けに行きます!」


 言うが早いかアルマは槍を伸ばしてミレイの近くの木に突き刺すと、そのまま収縮させてあっという間にミレイの傍に移動した。


「おおー!

 アルマ君、凄いじゃないか!」


 前世であれば"アルマワープ"と呼ばれるかもしれない程の技に再びユウイチの中二病が再び擽られる。


「私なら大丈夫ですのにアルマ様は無茶をなさいますね」


 助けにきたアルマを見てミレイは精一杯の強がりを言ってみせるが、顔には安堵の表情が浮かんでいる。


「では、ミレイ様。

 一緒に叫びましょう!」


 笑顔で語りかけるアルマにミレイは微笑んだ。


「「せーの、助けてー!」」


「テキヲニンシキシマシタ。

 タダチニゲキタイシマス 」


 二人の叫び声に反応したドローンから広範囲に閃光が走り"ビリビリビリ"と激しい音がしたかと思うとゴブリンが一斉に倒れた。


「フゥー、ドローンのお陰で何とか殲滅できたな」


「本当に頼りになる雷神様ね」


「私は二日続けてお世話になりました」


 そう言いながら前に出ていた三人がアルマとミレイの元に駆け寄ってくる。


「もう少し時間があれば私も……」

 いえ、無理ですわね。

 今回はアルマ様に助けて頂きましたわ」


 よほど怖かったのだろう、珍しくミレイが素直で正直な良い子である。


「いや、すまない。

 分断されたのは俺のミスだ。

 アルマ君、本当に助かった。

 ありがとう」


「そうね、アルマ様の機転でゴブリンどもを殲滅できたわ。

 これは感謝しないとね」


 ユウイチとリーネに礼を言われたアルマは槍を両手で持って少し照れくさそうにしていた。

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