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【第四十四話】素材採集旅①

 暦の上では秋なのだが今年の残暑は例年の比ではない。


 それ故、二度目のサマーバケーションに行く貴族もいるぐらいである。


 ユウイチも何やら旅の計画しているようである。



「突然だが、来週一週間は研究所を休みにしようと思うんだよ」


「ユウイチさん、突然どうしたんですか?」


「所長さん、この暑さにやられたのかしら?

 軟弱なお身体ですこと」


 ミレイの冷たい言葉でユウイチの周りだけ残暑が少し和らいでいる。


「いや、実は"魔物の森"に素材採集に行こうと思っているんだよ。

 俺が出掛けている間は休みするから皆は自由に過ごしてくれて構わないぞ」


 ユウイチは予てから"今までに使った素材の補充する様に"と大司教のミエスクに要請されていたのである。


 これは飽くまで要請であって強制ではないのだが何故か物凄いプレッシャーを感じているのである。


 その為、ユウイチはリリア達のサマーバケーション期間を作ると共に素材採集が出来る一石二鳥の一人旅を計画したのであった。


「そもそも、所長は素材採集に行ったことがあるの?」


「いや、今回が初めてだな。

 だが、準備に抜かりはないぞ」


 そう、素材採集のことは前世の異世界転生アニメで十分に勉強しているのである。


 だから、夜営などに必要な道具なども既に頭に入っている。


「はぁー、これですから素人は困りますわね。

 一人で行くなんて非常識にも程がありますわよ」


 ユウイチの異世界転生アニメから仕入れた知識に裏打ちされた自信満々の発言を聞いてミレイが呆れて額を押さえている。


「ゆ、ユウイチ所長は魔物の森を甘くみている。

 森の中ではいつ何が起こってもおかしくないです」


 魔物の森で実父を亡くした過去を持つアルマがユウイチを窘める。


「そうですよ、アルマ様の言う通りです。

 相手は魔獣なんですから何かあってからでは手遅れですよ」


「そ、そうか……」


 どうやら、前世の異世界転生アニメで"スライムに転生した人"や"本が好きな女性"のようにはいかないものらしい。


 自分も異世界転生した身だから何とかなりそうだと思うのは甘い考えのようである。


「せめて冒険者ギルドで護衛くらい探して行きなさい」


 今日は、何だかサンドバッグ状態のユウイチであるが、これは裏を返せば四人の優しさの現れでもある。


「そうだ、ユウイチさんの護衛替わりに皆で素材採集に付いていきませんか?!」


 自分では名案を閃いたつもりのリリアが叫んだ。


 冒険者ギルドへ行かず、旅の計画を話しただけで同行者を獲得できれば"海老で鯛を釣った"ようなものである。


「リリア様、ちょっとお待ちなさいませ。

 なぜ、そのようなおかしな結論に達しますの?」


「だって素材採集なんて面白そうじゃないですか、行かないと損ですよ!」


 リリアの能天気な発言を聞いて再びミレイが額を押さえている。


「わ、私は付いて行ってもいいかもしれません」


「アルマ様まで何を仰りますの?」


 どうやらリリアに続く、"柳の下の二匹目のドジョウ"はアルマの様である。


 これには呆れを通り越して諦めの表情でミレイがリーネを見詰めている。


「そうね、確かに面白そうではあるわね」


「はぁ、リーネさんまで何を仰いますの?」


 リーネまでが賛成しては完全にお手上げで、"まな板の上の鯉"状態のミレイである。


「もう、どうにでもなさいませ!」


 まな板の上でミレイが完全に開き直ってしまった。


 せめて、一夜干しにならないように気をつけて欲しいものである。


「皆で行くのはいいとして、どんな装備で行くつもりなんだ?」


 素材採集では魔獣との戦闘の可能性があることを異世界転生アニメを観てユウイチは十分に勉強している。


 そのためには身を護る装備は必須である。


「そうですね、魔獣と戦うなら私は剣ですね」


「ん、リリア君は剣術の心得があるのか?」


 意外にもリリアには剣術の嗜みがあるようだが、防御より攻撃の装備が先に出てくるのがこちらの世界らしいところである。


「はい、叔父様は今では宰相を務めていますが騎士の家系出身ですから、小さい頃から兄と一緒に鍛練させられました」


 その、リリアの兄は王立学院の騎士課を出て、今は王都騎士団に所属しているらしい。


 それなら「リリアは何故、騎士課ではなく魔法課に進んだのか?」と言う疑問がユウイチの頭を過る。


 だが、その答えは「魔法が面白そうだったので」に決まっているのでスルーしておく。


「わ、私は身長の低さをカバーできる槍を持って行きます」


 リリアに続きアルマも小さい頃より槍を使った武術の鍛練を積んでいるようである。


「そうか、アルマ君は槍なのか。

 それでリーネ君はどうするんだ?」


「私は双剣を使うわ」


 やや特殊な武器であるが、諜報員のリーネには何かと使い勝手がいい得物である。


 黒装束に身を包み暗闇の中でターゲットの背後から忍び寄る姿は違和感を全く感じないはずである。


「はいはい、私は弓ですわよ」


 ミレイは自棄になって答えているが、やはり小さい頃より鍛練を積んでいるようである。


「そうか、各々に得意な武器があるんだな」


 もし、前世のバブル期の女性に「装備は?」と質問したら"ワンレンボディコン"と語尾を上げて答えることだろう。


 だが、こちらの世界の令嬢方は得物を答えるのがスタンダードらしい。


「ところで、ユウイチさんはどんな装備で行くんですか?」


「剣でもいいんだが、研究所の所長らしく魔導具にしようかと思っているんだよ」


 前世では高校までユウイチは剣道をやっていたが、市の大会で二回戦までいけば良いほうであった。


 だから実戦で魔獣を相手にして通用するとはとても思えないのである。


「へぇー、剣術でユウイチさんと一度手合わせしてみたいです」


 面白い物センサーが反応したリリアの眼がキラキラしている。


「女性同士で手合わせしたら良いんじゃないか?

 俺の腕は既に鈍っているからな、はははは…… 」


 迂闊に了承しては"網に掛かった魚"になりかねないと、危険を察知したユウイチはすぐさま矛先を変えておく。


「貴族の女性はいざとなったら戦わなければなりませんもの、日々鍛錬は欠かしておりませんわ」


「わ、私もです。

 いつでも戦う気構えはあります」


「そうか、それは頼もしい限りだよ」


 "田作りも魚のうち"である。


 この四人なら、か弱い自分を守ってくれるだろうとユウイチは打算するのである。



 ユウイチが旅の準備をしているうちに一週間が経ち素材採集に出発する日がやってきた。


「皆、旅支度はできたかな?」


「はい、私は楽しみで少し睡眠不足です」


 リリアが前世の遠足前の小学生のようなことを言っている。


「ところで移動はどうなさるおつもりなのかしら?」


「所長、馬車でも借りてあるの?」


 こちらの世界の移動手段は徒歩か馬車である。


 魔物の森までは徒歩で一週間以上はかかるのだから残る選択肢は馬車と言うことなる。


「馬車を新たに作ったんだよ。

 皆、こっちに来てくれるかな」


 ユウイチは事務所の横に停めてある馬車を四人に披露することにした。


「所長、これは何だか変わった型の馬車ね」


「リーネさんの仰る通りですわ。

 馬車と荷馬車がくっ付いていますもの」


「これがこの日のために作った"トラック風馬車"だよ」


「ゆ、ユウイチ所長、トラックって何ですか?」


 前世ならトラックに付いての説明は無用なのだが、こちらの世界では説明が必要であることをユウイチは忘れていた。


「アルマ君、トラックは雰囲気で付けただけだから気にしなくてもいいぞ」


 前世のトラックを説明するのが面倒なのでユウイチは雰囲気だと言って誤魔化しておいた。


「ところでトラック風馬車を引く馬はどこにいるんですか?」


 確かに五人で馬車を引いて旅するわけにはいかない。


「それはコイツらに任せてもらおうかな」


 そう言ってユウイチが指差した先に二台の乗馬シミュレータが立っている。


「ユウイチさん、もしかしたらこれでいくんですか?」


 リリアが言う"これ"とは嘗て王子にプレゼンとされたポニーではなく軍馬並みの大きさの乗馬シミュレータである。


「コイツらなら疲れないし魔獣に襲われて傷を負うこともないだろう。

 きっと、旅の強い味方になってくれるはずだよ」


 これは"鯛なくば狗母魚と"言うわけではなく、四人の同行を聞いてからユウイチが最善を尽くして準備した結果である。


「何だか私の知っている旅のイメージと少し違いますわね……」


 変わった形の馬車とそれを引く魔導具にミレイが少し困惑気味のようである。


 だが、今から別の物を用意する暇も無ければするつもりもないので、ユウイチはスルーしておく。


「それと出発する前に皆にはこれを渡しておこう」


 深くツッコミを入れられる前に話を変えて、ユウイチはアレンジを加えた自作の武器を四人に渡していく。


「ユウイチさん、ありがとございます。

 でも、珍しい形の剣ですね」


「こちらではあまり見ない片刃の剣だからな。

 だが、それには雷魔法を付与してあるんだよ」


「雷魔法ですか?」


 ユウイチの口から出た雷魔法の一言で面白い物センサーが反応したリリアの目の色が変わった。


 恐らく、リリアの頭の中では雷鳴が轟いていることだろう。


「私の弓も変わった形をしておりますわね」


「それはクロスボウと言って、普通の弓より数段上の威力がある。

 それとミレイ君との相性を考慮して火魔法を付与してあるんだよ」


 ユウイチはリリアからミレイの適属性を聞いておいた。


 直接、本人に聞かなかった事情については察してやって頂きたい。


「そうなのですね。

 取り敢えずはお礼を言っておきますわね」


 "ツン"とした態度だがミレイはクロスボウをまじまじと見ている。


 いつか"デレ"として返ってくるかもしれないとユウイチは期待しておく。


「ゆ、ユウイチ所長、私の槍はどうして子供向けなのですか?」


「はははは……

 今は子供向けの様に見えるが、アルマ君の槍には"伸縮の魔法"を付与してあるんだよ」


 持ち手の部分に魔石が埋め込まれていて、魔力を流せば槍を伸ばすことが可能なのである。


「ゆ、ユウイチ所長、ありがとう……

 この槍は大切にする」


 アルマは子供が大切な縫いぐるみを持つように、両手で槍を"ギュッ"と抱き締めている。


 もしかしたら寝るときも離さないかもしれない。


「最後は私ね。

 皆の武器を見る限り普通の双剣じゃなさそうね」


「さすがはリーネ君だな。

 その双剣には風魔法を付与しあるから振れば斬撃を飛ばせるんだよ」


「へぇー、敵に接近せずに遠距離から攻撃できるのは嬉しいわ」


 リーネは双剣を"ブンブン"と振り回して、斬撃の威力や射程を確認している。


 恐らく、リーネの頭の中で何人かの賊が倒れているのではずである。


「これは素材採集に付き合ってくれるお礼だよ。

 だが、慣れない武器では戦い難いかもしれない。

 遠慮せず、自前の武器を使ってくれて構わないよ」


 実はお礼は建前で"釣った魚にエサをやらない"と言われないよう保身のために四人に武器を渡したのである。


「それで、所長はどんな武器にしたの?」


「所長さんなら、何かおかしな武器を使うのではありませんこと?」


 普段から突拍子もない発想をするユウイチが使う武器にリーネとミレイは興味があるようだ。


「俺は痛い思いをするのは嫌だから防御力に極振りした。

 それが、"結界の魔法陣"を付与したローブと"回復の魔法陣"を付与したステッキだ。

 それと、何と言っても最大の防御力はこれだな!」


 ユウイチが四人の前に差し出した魔導具が青白い光とともに"バチバチ"と激しい音を立てている。


「わっ、なんですか?」


「ち、小さな雷様でも入っているんですか?」


「これは"魔導スタンガン"と言って雷魔法を使える魔導具だよ」


 前世では流れているのは電気なのだが、こちらの世界では説明が簡単な雷魔法と言うことにしておく。


「防御力重視の割には所長さんの攻撃力が一番高そうではありませんこと?」


 何だかミレイが納得いかないような表情をしてユウイチを見ている。


「確かにそうだな。

 だが、四人には取って置きの装備を用意してあるんだよ。

 是非とも使って欲しい」


 そう言ってユウイチは以前から改良に次ぐ改良を施した、四色の"軽量版パワードスーツ"を披露する。


「ユウイチさん、それってスライムスーツじゃないですか?」


「確かに例の騎士団の鎧に使った魔導具ですわね」


「わ、私は変なポーズをさせられるのは嫌です」


「それを知っていて着る勇気はないわ」


 ユウイチは改良を施しながら、四人がこれを着て「令嬢戦隊 イセカインジャー!」とポーズを決める姿を想像していたのだが、残念ながら四人には不評のようである。 


「いや、改良を施してあるし……

 それに、とても軽量だし……

 何と言ってもパワーとスピードがアップするし……

 だから、持っていくだけ持って行こうな?」


「「「「私達は絶対に着ませんからね!」」」」


 四人は断固拒否の姿勢を崩さなかった。


 どうやら、四人に軽量版パワードスーツを着せるのは"魚の木に登るが如し"と言ったところである。


「それで、食材はどういたしますの?

 私は現地調達でも構いませんけども」


 軽量版パワードスーツを隅にどかしながらミレイがユウイチに聞いた。


「ミレイ君、そこは心配しなくてもいいぞ。

 荷台には大型化した冷蔵庫を積んであるんだよ。

 だから、無理に現地調達する必要はないぞ」


 ユウイチはトラック風馬車の荷台の幌を少し捲って四人に中を見せる。


「所長は他にも何か積んでありそね」


「それは現地に着いてからのお楽しみだな。

 それでは、素材採集に出発だ!」


「「「「おー!」」」」


 こうして五人はトラック風馬車に乗り込み目的地を目指して出発したのである。


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