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【第四十三話】ARゲーム

 王都は只今、夏真っ盛りである。


 この時期は、多くの貴族が前世の欧米の人のように長い休暇を取ってサマーバケーションに向かう。


 自領にある高地の別荘に一族揃って出掛けるのが定番の過ごし方のようである。


 伯爵家令嬢のミレイもサマーバケーション中で、本日の対策会議を欠席している。


「それでは対策会議を初めます。

 ホークワイド卿から相談内容の説明をお願いします」


「ディケイ=ドゥ=ホークワイドだ。

 単刀直入に申せば、我が領地に人が来るようにして欲しいのだが可能だろうか?」


 ホークワイド卿の説明によれば、以前のホークワイド領は王都へ向かう街道を通る商人や旅人でそれなりに賑わっていたようである。


 街道沿いには貴族向けや庶民向けの宿屋が軒を連ね小さい領地ながら宿場町として発展していた。


「何故、人が来なくなってしまったのですか?」


「我が領地に隣接するガークウィン子爵領の街道が整備されてから人の流れが変わってしまったのだよ」


 ガークウィン子爵領では街道の整備に際して王都から丁度良い距離に宿泊施設を充実させたようである。


 これによって王都から馬車で半日足らずの距離にあるホークワイド領は見向きをされなくなっているらしい。


「お陰で通行税に頼っていた我が領地の収入は半減した。

 しかし、貴族向けの宿泊施設などは維持しておかねばならん。

 よって収入より支出が上回ることが多くなってな……」


 ホークワイドが苦しい台所事情を赤裸々に話す。


 このままなら、財政破綻した前世のメロン市のように"財政再生団体"になりかねない。


 そうなれば王族から領主としての才覚を問われることになる。


 どうやら"♪苦しくたって、悲しくったて、王都の側なら平気なの"とはいかないようである。


「事情が分かったところで、如何にしてホークワイド領に人を呼ぶか皆で意見を出し合いましょう」


「名物になるような食べ物や料理があれば売りになるわね」


 リーネが言う通り前世でもB級グルメで町興しに成功した例は多い。


「我が領地は農地が少なく特産品もない。

 故にこれと言った名物がない」


「それなら、景勝地や史跡など名所になりそうな場所はないかしら?」


 前世なら世界遺産登録で有名観光地の仲間入りを狙うようなものである。


「うーん、残念ながらないな」


「名所が駄目なら、ダンジョンとか魔獣を狩れるような森などは?」


 これは前世ならパラグライダーやロッククライミングなどのアクティビティ系のレジャーである。


「申し訳ないが全くない」


「これも無いのね……

 じゃあ、王都との近さを活かして日帰り温泉などはどうかしら?」


 土魔法で深く掘れば温泉が出るかもしれない。


 王都から近いホークワイド領なら足湯だけでも人が呼べそうである。


「温泉が出ない上に水源から遠いため我が領地では水は貴重品だ。

 だから、掛け流しのような無駄使いはできない」


 リーネが知恵を絞って提案してみたものの、元を正せば王都の一部であったホークワイド領にはこれと言った物がなかった。


「フウー、ないない尽くしとは困ったものね……」


 正に"名物ねぇー、名所もねぇー、魔獣はそんなに潜んでねぇー"である。


 これでは、"おらホークワイド領さ行くだ"とはなりそうもない。


「こ、今回はリーネさんの独壇場で私の出番はなさそうです」


「そうですね、この話は私には荷が勝ちすぎている気がします」


 リリアとアルマは早期撤退を決め込んだようである。


 これでは、令嬢も三人寄れば文殊の知恵とはいかないようである。


「よし、観光客を呼べるイベントを作ろうじゃないか!」


 前世で数々の町興しを見てきたユウイチが早い段階で議論に加わった。


 これは、ミレイが不在だから調子に乗っているわけではない。


「所長、これまでの話を聞いてたの?

 観光客を呼ぶ物が何も無い領地でどんなイベントをするつもり?」


 リーネは諦めムードであるが、前世で"襟裳の春は何も無い春です"と歌われた襟裳にだって日高昆布があった。


「俺が考えているイベントはAR(拡張現実)ゲームだよ。

 ホークワイド領にゲーマーを呼ぶんだよ!」


 前世でユウイチは、週末になると珍しいモンスターがゲットできる場所へ出掛けて行く家族連れの姿をよく目にしたものである。


 ユウイチは、そのゲームをこちらの世界にマッチするようにアレンジするつもりである。


「所長、そのARゲームって何なの?」


「も、もしかしたら、あのキューブ型パズルゲームの仲間ですか?」


「いや、今回はパズルゲームじゃない。

 これは口で説明するより実物を見てもらった方が話が早いと思う」


「キューブ型パズルゲームではないのなら面白い物が出来上がる予感がします」


 キューブ型パズルゲームはリリアにとってトラウマになっているようである。


 ユウイチはホークワイドに二週間後に来てもらえるように頼み対策会議はお開となった。


 ホークワイドとは"また会う日まで、会えるときまで"である。



 対策会議から二週間が経った研究所にホークワイドの姿があった。


「先ずは全員にこれを被ってもらいたい」


 既にゴーグルを被っているユウイチが四人に持っていたゴーグルを渡していく。


「今いる事務所の中が映ってますね」


「こ、これなら自分の目で見たのと何も変わりません」


「うむ、これがどうしたのだ?」


 ゴーグルを被っても何も起こらず、四人は些か拍子抜けのようである。


 "何も変わらない、何も起こってくれない"では、"壊れかけのラジオ"ではなく壊れたゴーグルである。


 だが、ここからがユウイチの腕の見せ所である。


「では、ゲームを始めよう!」


 ゲーム開始の合図と同時にユウイチが魔導具を起動させた。


「き、キラーラビットです!」


「所長、この魔獣の群れは何なの?」


「私の机の上にスライムがいます。

 ユウイチさんの悪戯したでしょう!」


「ユウイチ殿、これは一体なんの余興だ?」


 突然、目の前に出現した魔獣に四人は驚いて声を上げた。


「これは事務所の至る所に置いてあるAR用の魔導具がゴーグルに映し出している映像だよ。

 試しにゴーグルを外してみればそれが分かるはずだ」


 ユウイチの言う通りに四人が一斉にゴーグルを外した。


「ほ、本当にキラーラビットがいませんね」


「それにしてもリアルな映像だったわね」


「今後のためにも、あのスライムだけは退治しておきたいです」


「所長殿、私は十年振りに魔獣と戦いそうであったぞ」


 四人の反応を見れば映像のリアリティーについては合格のようである。


「あははは……

 でも、ホークワイド領を訪れたゲーマーの皆さんには実際に戦ってもらいますよ」


 ユウイチは机の上に置いてあったグローブを四人に手渡していく。


「ゆ、ユウイチ所長これは何ですか?」


「これを手に嵌めれば剣や魔法で魔獣を攻撃できるようになるんだよ」


「ほう、我が領地で魔獣狩りができるのだな」


 四人はグローブを嵌めてゴーグルを被り直すした。


「リリア、行きます!」


 "燃え上がる~燃え上がる~燃え上がる~リリア"


 リリアの掛け声が契機となって各々が目の前の魔獣と戦い始めたようである。


「す、すばしっこさも本物のキラーラビット並みです……」


「何、当たったじゃない。

 何で倒れてくれないのよ! 」


「ははは、これはいいぞ所長殿!

 若い頃の魔獣狩りを思いだす」


 四人は夢中になってゴーグルに映し出される魔獣と戦っているようだ。


「あっ、やらてしまいました」


 リリアが魔獣の反撃にあったようである。


「リリア君、傷を追わされると体力が減るようになっている。

 それと、魔法を撃てば魔力が減るようになっているから撃ち過ぎは禁物だよ」


 これは、前世のゲームの"HP"や"MP"の類いである。


「そらから、魔獣を倒せば経験値が手に入る。

 経験値が一定量貯まれば"Lv"がアップするようになっているんだよ」


 当然のことだがゲーマーを熱くさせるLv"も存在する。


「なるほど一度きりではなくリピーターを作ろうと言うわけね」


 リーネが拡張現実の中でキラーラビットを切り裂きながらユウイチの思惑に感心している。


「それだけじゃないぞ、宿屋や料理屋を利用すれば回復薬やレアな武器が手に入るようにしようと思っているんだよ」


「それだと領地の商店や施設が潤いますね」


「それにゲームに因んだ料理を出せば名物になるわね」


「し、施設が聖地になるかもしれません」


 どうやら、所内プレゼンは成功のようである。


 だが、今回はクライアントであるホークワイドの意向が大事である。


「ホークワイド卿、こんな感じなのだがどうだろう?」


「よし、気に入った!

 早速、我が領内で実施しようではないか 」


 思いたったが吉日とばかりにホークワイドはARゲーム導入を決めた。


 何事も"思い込んだ~ら、試練の道を~"である。



 ホークワイド領でARゲームが実施されて二ヶ月が経ったある日のこと。


 一人の神官が教会の近くでゲームを楽しんでいる親子連れらしき二人を見つけた。


「あの~、もしや勇者様ではございませんか?」


 神官は男が腰に履いている聖剣を見て声をかけた。


「いかにも、私は勇者だが何か用かな?」


「このようなところで遊んでおられても大丈夫なのですか?」


 勇者と言えば王族や大司教でさえ一目置く存在である。


 だが、失礼を承知で神官が勇者に聞いてみた。


「問題ない、世界は平和だからな」


「しかし、この隙に魔王軍が攻めて来たりしませんか?」


 神官には勇者が言った"世界は平和"がピンと来ていなようである。


「大丈夫だ、あそこを見てみろ。

 魔王(十歳)もゲームを楽しんでいる」


「必殺! まおーパンチ!」


 勇者が見詰める先で魔王がゴーグルに映し出された魔獣に攻撃を放っているようである。


「本物の勇者と魔王が遊んでいるだと……」


 神官はすぐさま教会本部に連絡を入れた。


 それから二週間後のある日のこと。


「ここよ、間違いないわ」


「あぁ、確かにこの教会だな」


 夫婦らしい二人連れが教会の前に立っている。


「ここね勇者様と魔王が一緒に遊んだのは……」


「勇者様と魔王は端から見ればまるで親子のようだったらしいな」


「正に奇跡ね」


 妻が教会を見上げて涙を流している。


「泣くやつがあるか、こんな平和な奇跡は笑って味わおうではないか」


 夫が妻にハンカチを、そっと差し出した。


 "♪奇跡を望むなら、泣いてばかりいないで。

 幸せには、ふさわしい、笑顔があるはず~"


 どうやら今回はユウイチの発明品には珍しくハッピーエンドだったようである。



 後日談。


 ホークワイド領のARゲームは、勇者と魔王の奇跡に因んで"勇者でGO"のタイトル名が付いて大ブームになっている。


 そんな中、公爵邸ではガークウィン子爵と公爵の密談が行われていた。


「子爵よ、なぜ領地にある街道の通行人が減ったのだ?」


「聞くところによると新たにホークワイド領に聖地ができたとか……」


 子爵は返答に困り果てている様子で額からは大量の汗が吹き出している。


「聖地だと、そんなものが急にできるはずがなかろう。

 どうせなら、もっとましな嘘をつけ!」


「いえ本当のことでございます。

 勇者と魔王が一緒に遊んだ教会がホークワイド領にあるらしいのです」


 公爵の一喝に子爵はその小さな身体をより小さくして畏まる。


「馬鹿を申すでない。

 魔王がバイアリターク王国にいるはずがないではないか?」 


「それが、魔王が魔導具研究所の発明したゲームに夢中らしいのです……」


 子爵は知っている限りのことをベラベラと話して必死に弁明する。


「魔導具ならば規制局でなんとかできたであろう。

 奴らは何をしておった?」


「それが局長以下、幹部はバケーションで不在でして……」


 話が自分から逸れて子爵は"ホッ"とする。


「肝心な時に役に立たぬ奴らよのぅー」


「誠でございますなぁ」


 他人事のような子爵の態度に公爵の目付きが変わる。


「その方が言えた義理か?

 会議では本音が露呈して謹慎、学院では規律を厳しくし過ぎて陛下に苦言を呈される。

 そして今回は多額の投資を回収できなくなるのかもしれんのだぞ」


「申し訳ございません……」


 低く冷たい声が子爵に重くのしかかる。


 子爵はこれでもかと言うぐらいに頭を下げて謝る。


「まぁ、良い。

 計画の実行は未だ先の話だ。

 それまでにしっかり準備しておけ」


「は、はい、お任せ下さい」


「子爵よ、次ぎはないからな」


「は、はい!」


 子爵は頭が床にめり込みそうなほど頭を下げてから、すごすごと公爵の部屋を後にした。


「公爵様、計画を変更なさいますか?」


 子爵と入れ替わるように部屋の奥から黒服を身に纏った男が現れて公爵に聞いた。


「いや、このまま進めよ」


 公爵は黒服の男に一瞥をくれて答えた。


「では、奴らに連絡して参ります」


 そう答えて黒服の男は一礼して部屋を後にした。


 一人残った公爵は、窓から見える王城を静かに見詰めていた。


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