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【第四十二話】魔導空調服

 突然ではあるが、今年の王都は暑い。


 まだ夏を迎える前だと言うのに気温が"グングン"と上がっているのだ。


 この暑さでユウイチが前世の酷暑の年を思い出したぐらいである。


 もしかしたら前世の熱血テニスプレーヤーでも転生してきたのが原因かもしれないとユウイチは疑っている。


 そんな中、老護院から二人組のドワーフが魔導具研究所を訪れている。


「老護院で世話になっている元大工のトンテ=リーマンだ。

 こいつは俺の弟で元鍛冶師のカント=リーマンだ」


「二人合わせて"リーマンブラザーズ"と呼ばれているぜ」


 「二人合わせて~呼ばれているぜ」の部分をハモっているところを見ると、どうやらお決まりの自己紹介のようである。


 この大量の金貨の取り扱には気をつけた方がよさそうな名前の二人は歴としたこちらの世界の庶民である。


「それで御兄弟揃って魔導具研究所に何のご用かしら?」


 恐らく屋敷に大量の金貨を保有しているであろう伯爵家令嬢のミレイがリーマンブラザーズに来訪の目的を聞いたが、幸いにして資産運用の方法は聞いていない。


「夏場が暑いのは当たり前なんだが、今年は特に暑くて日中の作業は年寄りには堪えるんだ。

 それを魔導具でなんとかしてもらえないかと思って相談にきたんだよ」


 相談内容を兄のトンテが説明する横で弟のカントが"ウンウン"と頷いている。


 もし、暑さの原因がユウイチの睨んだ通りなら転生してきた熱血テニスプレイヤーを見つけ出して手にかければ問題は解決案である。


「作業着の生地は厚みがありますからね。

 夏の間だけでも薄い生地に変えてみはどうですか?」


 普段から工房でつなぎ服を着て作業しているリリアがそう提案した。


「うーん、作業着を薄くすると怪我をしやすくなるんだよな。

 兄貴もそう思うだろ?」


 弟のカントが答える横で兄のテントが"ウンウン"と頷いている。


「それなら風の魔導具を使ってみるのはどうかしら?」


「大工の作業は主に屋外なんだよ。

 だから風の魔導具とやらは余り役に立たないな。

 カント、鍛冶場の方はどうだ?」


「風の影響で炎の色が変わると温度を見誤ってしまう恐れがある。

 鍛冶場では風の魔導具は厳禁だぜ」


 ミレイの質問に風を上手く掴まえて飛んだ"ライト兄弟"のような軽やかさで二人は答えた。


「や、夜間に作業をすれば陽射しがないので少しは涼しいのではないですか?」


「夜の作業は騒音や照明などで周辺に迷惑をかけてしまうからできないんだよ」


「鍛冶場は昼夜問わずにやっているが、閉めきっているせいで熱が籠って夜でも暑いんだよ」


 アルマの質問には小さい子供に分かるように語る"グリム兄弟"の童話のように優しく二人は答えた。


「それなら、小まめに休憩するしかないんじゃない?」


「屋外の作業は天気に左右されるんだよ。

 雨が何日か続いて作業が止まれば、工期に間に合わせるために無理せざる得ない場合もあるんだ」


「鍛冶場は一度、作業を始めたら途中で止めることはできない。

 だから小まめな休憩は取れないな」


 リーネの質問には"モンゴルフィエ兄弟"が気球に送る空気のように二人は熱く語る。


「作業場の環境や作業の段取りなどの条件をクリアするのは、なかなか難しいですね」


 スポットクーラーや扇風機などの電化製品や、速乾性の衣類など作業場に合った方法がチョイスできた前世の日本人はマシだったのかもしれないとユウイチは染々と思った。


「せ、せめて身体の近くだけでも風を起こせればいいんですが?」


「それなら服の中に風魔法を起こすしかないわよね」


「ミレイ様、そんなこと可能なの?」


「そ、それは勿論……」


 ミレイはただ思い付きを口にしただけで実は全くのノープランであった。


「このように服に風魔法の魔法陣を刺繍すれば可能かもしれませんが……」


 そう言いながら助け舟を出したリリアが紙に絵を描いている。


 二人は、その絵を"リュミエール兄弟"の発明した映画でも観るように興味深そうに眺めている。


「ほう、魔法を使えばこんな事ができるんだな」


「でも、これで本当に効果があるのか?」


 ドワーフにしては珍しく魔力が無い"リーマンブラザーズは魔法に関しては門外漢である。


「ミレイ君、とても理に叶った素晴らしい提案だよ。

 魔法陣を工夫して魔導具にすれば実現可能だよ」


 先ほどから前世の夏を染々と懐かんしでいたユウイチが記憶の中から何かを探り当てたようである。

 

「所長さん、それほどでもありませんわよ、おほほほ……」


 ユウイチに褒められて込み上げてくる嬉しさをミレイが必死で堪えているようである。


「「そうか、これができるのか!」」


 リーマンブラザーズも揃って嬉しそうである。


「俺達に任せてくれ。

 本格的な夏を迎える前に完成させて見せるよ」


 ユウイチは注文を受けて素早く商品を提供する"マクドナルド兄弟"の考案したファストフード店のようにすぐに魔導具を作って渡す約束をした。



 対策会議から一週間が経ったある日のこと、ミレイのアイデアに端を発した暑さ対策の魔導具が完成した。


「皆、服の着心地着を教えてくれるかな?」


 四人は更衣室でユウイチから渡された服に着替えてきたようである。


 今回もユウイチは言葉で説明するより体験してもらう作戦でプレゼンに望むようである。


「所長、これ涼しいわ。

 暑い作業場なら効果は抜群だと思うわ」


 いつもは辛口のリーネから今日はお褒めの言葉を頂けたたのは、ミレイの出したアイデアだからかもしれない。


「それに、思ったより音も静かですわね。

 でも"強モード"では少し寒いくらいかしら……」


 ミレイの感想にもいつものような毒がないのは自分が出したアイデアだからかもしれない。


「こ、これなら動いていても問題ないです」


 先ほどから大工仕事の真似をしているアルマにも好評なのはミレイが出したアイデアだからかもしれない。


「この魔導具にはスライムも音声機能も使っていないみたいで安心です」


 一人だけ別の視点からの感想を述べているリリアだけはミレイが出したアイデアとは何の関係もなさそうである。


「所長、これは売れそうだわ。

 魔導具の名前を教えてくれる?」


 早くもリーネは商業ギルドからの販売を視野に入れているようである。


「これは"魔導空調服"という名前だよ。

 魔法陣を使ったのはこの吹出口の部分だな」


 そう言ってユウイチは手にもった魔導空調服の背中にある吹出口を指差した。


 前世の空調服は裾の両サイドのにファンが付いているが、魔導空調服は背中に一つ魔導具が付いている。


「所長さん、これにはどのような魔法陣が付与されているのかしら?」


「これには風と氷の魔法陣を付与してあるんだよ。

 氷魔法で生み出した冷気を風魔法で服の中全体に広げているんだよ」


 ユウイチが魔導具を起動すると吹出口が青白く光り、ひんやりした風が服の袖口や裾から抜けていく。


 前世の空調服は外気を取り込んで服の中に送風するもので、外気温が高過ぎると温風が服の中に入ってくることになる。


 だが、魔導空調服は魔法の力を最大限に活かした作りになって、外気温に関わらず冷たい風が服の中に充たされるのである。


「所長さん、魔法陣を起動する動力源はここにある魔石の魔力ですわよね?」


 自身のアイデアが形になっているためか、今日のミレイはすこぶる機嫌が良い。


 この分であればプレゼンの関所は素通りできそうなユウイチである。


「そうだ、魔石に魔力がフルに溜まっていれば三日間の連続使用が可能だな」


 ユウイチの体感ではあるが、前世の電力よりもこちらの世界の魔力の方が効率は良さそうである。


「ゆ、ユウイチ所長、ベスト以外にもブルゾンとつなぎ服もあるんですか?」


 アルマが机に並べられた魔導空調服を手にとって見比べている。


「作業環境によって服装を変えられると便利だろうと思って作ってみたんだよ」


 吹出口は前世の空調服のファンと同じように取り外しが可能でどの服にも装着可能になっている。


「ユウイチさん、服の種類毎に変なモデル名を付けていないですよね?」


「あははは、それはリリア君が着て出歩かなければ大丈夫だな」


「リリア様なら出歩きそうよね。

 どれが"リリアモデル"になるのか知りたいから、今のうちに好きなタイプの服を教えてくれない?」


「リーネさん、絶対に着て出歩きません!」


 珍しくリーネがユウイチに乗っかってリリアをからかっている。


 今日のプレゼンはいつものムードとは違うようである。


「ゆ、ユウイチ所長の発明なのに今日は何だか不安がありません」


「所長さんは、私の発想に導かれて成長したのかもしれませんわね。

 私に感謝して頂いても構いませんわよ」


「そうか……はははは」


 これは、ミレイなりの高評価だろうが、どうせ褒めるならもっとストレートに褒めて欲しいとユウイチは苦笑する。


「これでリーマンブラザーズさん達も快適に仕事ができますね」


 リリアの締めの一言でプレゼンは無事に終了した。


「でも、やはり"強モード"のままでいると少し寒いですわね」


「"強モード"は真夏の屋外を想定しているから、ここだと寒過ぎるかもしれないな。

 その辺りは環境に合わせて上手く調整すれば問題ないと思うよ」


 プレゼンは無事に成功したのだが、最後のミレイの呟きでフラグが立ったことを五人は知る由もなかったのである。



 魔導空調服納品から二週間が経ったある日の老護院の朝のことである。


「おいランドン、カントの奴は未だ寝てるのか?」


 食堂に弟の姿が見当たらないことを確認したトンテが大工見習いのランドンに尋ねた。


「親方、ちょっと部屋を見てきます」


「おい、バケツにお湯を張って持っていけよ!」


「……あぁ、そうですね。

 分かりました、炊事場に寄って貰ってきます」


「ったく、カントの奴が魔導空調服を着たまま寝るのは何度目だ……」


「これで四回ですね。

 その度にお湯で解凍する身にもなって欲しいですね」


「全くだな」


 魔導空調服を"強モード"にして長時間、動かないでいると身体全体が凍ってしまうらしい。



 数日後、研究所ではリリアが老護院で起こったドワーフ氷漬け事件の報告をユウイチにしている。


「ユウイチさん、魔導空調服を着て寝ると"カチンコチン"に凍ってしまうらしいんですけど……」


 予想外の事態にリリアが困惑気味である。


「それなら魚の輸送に使えそうだな。

 遠くの漁港から王都まで魚を傷めずに運べたら……」


 凍ったドワーフのことはそっちのけで、ユウイチの頭の中では刺身が乗ったお皿が"クルクル"と回っている。


「ユウイチさん、運べたらどうなるんですか?」


「いや、それを語るには時期尚早だな」


 魔石の魔力をフルにしても三日しか保たないのでは海辺の街からの冷凍輸送には使えない。


 氷魔法を使う魔獣の魔石を使えばもう少し保つかもしれないと、回転寿司店の実現に向けてユウイチは密かに構想を練るのであった。



 後日談。


 ユウイチが氷漬け事件を防ぐために開発室に籠っている頃、事務所ではお茶会と言う名のガールズトークが始まっていた。


「リーマンブラザーズさんは仲が良さそうでしたよね?」


「そうね。

 リリア様にはお兄様がいたんだっけ?」


 何気なくリーネがリリアにしたこの質問から予想外の話に発展していく。


「はい、二つ年上の兄がいます。

 今は王都騎士団に所属しています」


「私は弟が二人おりますわ」


「わ、私は実家に合ったことのない弟が一人、でも養子先では一人だから兄弟がいる人が羨ましいです」


「私も一人よ、両親の期待が重いわね」


 各々が自分の兄弟に付いて話し終わると、この四人が姉妹ならと言う話になった。


「長女は絶対リーネさんですよね」


「い、一番しっかりしていて面倒身が良さそうです」


 アルマとリリアがリーネの名前を上げる。


 満更でもないリーネとは対象的にミレイは納得していない表情である。


「では、次女はどなたになるのかしら?」


「も、勿論、ミレイ様です」


「そうね、負けん気の強さが長女と張り合う次女っぽいわ」


 アルマとリーネからの支持である。


 しかし、ミレイの表情からすると納得していないようである。


「では次は、どなたかしらね?」


「アルマ様とリリア様はどちらも末っ子ぽいから判断が難しいわよ」


「そ、そうでしょうか

 私の方がリリア様よりも年上なのですが……」


「アルマ様、研究所に入ったのは私の方が先なので私の方がお姉様ですよ」


 期せずしてアルマとリリアの不毛な争いが始まった。


「これに関しては五十歩百歩かしら」


「甲乙付け難いところですわね」


 二人の争いを見てリーネとミレイは更に難しくなった判断に頭を悩ませている。


 前世でよくある最期の晩餐に"カレー"を選ぶか"ラーメン"を選ぶかの質問ぐらいに悩んでいる。


「アルマ様が三女で、年の離れた四女がリリア様と言うのはどうかしら?」


「長らく末っ子だったアルマ様が、リリア様に末っ子の座を奪われたと言う設定ね」


「フフフ、意外といい設定ではないかしら?」


「フフフ、これは大発明ね」


 リーネとミレイの二人だけで盛り上がっている。


 最期の晩餐に"おにぎり"と言う人が現れたときぐらいに盛り上っている。


「わ、私はそれでいいです」


「ちょっと待って下さい。

 私が末っ子ですか?」


「あらリリア様、皆に可愛がってもらえるんだからいいじゃないの」


 三女に収まったアルマと違い、脱末っ子に向けて必死に抵抗するリリアをリーネがからかっている。


「と、ところで、ユウイチ所長は何番目になりますか?」


 このアルマの一言で流れが変わって話の主役がユウイチになったのである。


「お兄様と言う感じではありませんわね。 

 でも、弟というのも違いますわね」


「そうね、良家のご子息の線はないわね」


 ユウイチは四人から兄妹とは認めてもらえなかったようである。


「で、ではお父様ですか?」


「それはもっとありませんわね」


 ミレイの強めの否定に三人が黙って深く頷いている。


「じゃあ、ペットですかね?」


「り、リリア様、人間じゃななくなっています……」


「でも、犬や猫のような可愛らしさはありませんわよ」


「あれじゃない、自走式小型掃除機」


「「「「プッ、はははは」」」」


 王都中でペット扱いされた魔導具の登場に四人が一斉に吹き出した。


「好きなゴミしか食べないところとが、魔導具にしか興味を示さないユウイチさんに似ています」


「それなら映像記録機能付きドローンじゃない。

 パーティーを指導してリーダーになったところが、対策会議の指導者っぽいところに似てるわ」


「そ、それなら好き嫌いの激しい自動ドアにも似ている気がします」


「もう、動物でさえなくなりましたのね……」


 四人はユウイチ=魔導具で前世のバブル全盛期のジュリアナ東京並みに盛り上っている。


「そう考えると魔導具って発明した人に似るものなのかしら?」


「も、もしかして魔導具の暴走って、ユウイチ所長の本性が出ただけなのでしょうか?」


「ひょっとしたら魔導具は被害者なのかも……

 これからは魔導具を悪く言うのはよしましょうか?」


「私もスライムさんに謝らないたと駄目ですね」


 この後も四人のガールズトークは飽きることなく続き、その熱気は開発室まで届いていた。


「ヘェーックション!」


 開発室にユウイチの盛大なくしゃみが響き渡った原因は四人の噂話か魔導空調服の改良なのかは分からないのであった。


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