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【第二十九話】打上げ花火大会

 そろそろ夏が終わり季節は秋へと移ろうとしている。


 なんとなく物悲しさのあった前世の日本とは違い、秋が年末年始に当たるバイアリターク王国では皆が忙しなく動き回っている。


 ここ魔導具研究所の中庭でもユウイチが何やら始めたようである。


「リリア君、耳を塞いでおけよ。

 いくぞ!」


 リリアが耳を塞いだことを確認してからユウイチは筒の底にある打ち上げ火薬に火を着けた。


 "ヒューーー"と音をたてながら花火玉が打ち上がっていく。


 "ドン、パラパラパラ"っと大きな音を響かせて夜空に大輪の花が開いた。


「うわぁー、綺麗ですね!

 こんなの初めての見ましたよ」


 未だ火薬が実用に至っていない、こちらの世界の住人のリリアが感嘆の声をあげている。


 こちらの世界で火薬が実用化されていないのは敵を攻撃するなら火薬ではなく魔法でこと足りるからである。


 因みに羅針盤と紙と活版印刷は存在しているが、テストに出ることはないので特に覚える必要はない。


 もう、お分かりの通り今回の発明品は打ち上げ花火である。


 何故、打ち上げ花火なのかと言うと話は一週間前に遡る。


 この日、補佐官のアルマがバーコードシステムのお礼を述べに研究所を訪ねてきた。


「ゆ、ユウイチ所長、音声文字変換機に続いてバーコードシステムでもお世話になりました。

 お、王城を代表してお礼申し上げます」


「お役に立てて何よりです。

 余計なことは喋りませんのでご安心下さい」


 "口は災いの元"である、特に貴族が相手なら命取りになりかねない。


「そ、それにしても、あの様な斬新な魔導具の発想はどこからくるのですか?」


「考えて考えて考え抜いてから一眠りすると夢の中に出てくるんです」


 事実とは少し違うが、ユウイチは余計なことは言わないでおく。


 何故なら、"口は災いの元"であるからだ。


「い、所謂、閃きと言うものですね。

 わ、私にも閃きが降りて来ないですかね」


「その内に来るかもしれませんね。

 あははは……」


 ここで下手に「何か困り事でも?」と聞いてしまうと"池魚之災"の可能性もある。


 だから、ユウイチは敢えて当たり障りのない答えをしておいた。


「はぁー、建国記念日の夜に何か盛り上がるような催しが思い浮かばないかなぁ~」


「……」


 建国記念日は前世の日本なら大晦日に当たる。


 その夜となる今のところは除夜の鐘ぐらいしか思い付かない。


 アルマが遠い目をして独り言のわりに大きくハッキリと言っているが、ユウイチはよく聞こえなかったことにしておく。


 諄い様だが"口は災いの元"なのである。


「ユウイチさん、アルマ様が困っている様ですよ。

 黙っていないで何とかしてあげて下さい!」


「お、おー……」


 それまで話に聞き入っていたリリアが、突如としてユウイチにアルマへの協力を迫った。


「り、リリア様、これは私の仕事ですので手伝ってもらう訳には参りません」


「いえ、アルマ様。

 ユウイチさんなら必ず名案を考えてくれます。

 先ほど言っていた通り、一眠りすれば閃くのですから今から寝て来て下さい!」


「お、おー……」


 そう言ってリリアは両の拳を握りしめて、期待の眼差しでユウイチを見詰めている。


 "棚ぼた"でユウイチの協力を取り付けたアルマは内心で"ニンマリ"としている。


 片や喋ってもいないのに災いが忍び寄ってきたユウイチは固まったまま暫く動くかなかったのであった。


 そして、熟考した後に一眠りしたユウイチは貴族だけでなく庶民も楽しめると言う理由で年越し花火大会を企画したと言う訳である。


「ユウイチさん、本当に打ち上げ花火の製造方法を公開しても良かったんですか?」


 苦労して規制局から許可を得た製造方法だけではなく、今回は製造の魔導具の販売も行っている。


「リリア君、打ち上げ花火の数や種類は多い方が盛り上がるからな。

 どうせなら、お互いに切磋琢磨してより良い花火を作ってもらいたいものだな」


 技術の向上が建前であるが、ユウイチの本音は花火工房が増えれば高みの見物を決め込めることにある。


「その切磋琢磨と創意工夫が行き過ぎて暴走の切っ掛けになったりしませんか?」


「各々が製造方法をきっちりと守っていれば大丈夫だと思うぞ」


 これは今までの発明の度に繰り返えされてきた会話であり、その結果として大丈夫であった試しがないのである。


「うーん、それだけでは全く安心できませんよ」


「そんなことはないぞ、リリア君。

 人は誰しも成長するものだよ。

 皆の成長を信じてみようではないか?」


 一番、成長していない人物の言葉だけに説得力に欠けるというものである。


「"信じるものは救われる"

 いえ、この場合は"なるようになれ"ですかね……」


 リリアは花火の煙が微かに残る夜空を見上げながらそう呟いたのであった。


 打ち上げ花火の製造方法が公開されてから一ヶ月も経つと、噂を聞き付けた腕に覚えのある人達のおかげで花火工房の数は十数件を数えるまでに増えていた。


 魔導具オタクのランバン=ニアークティック男爵も参戦を仄めかしてしたが、規制局から駄目出しを喰らって思いと止まったようだ。


 しかし、その他の人達は予想通りに切磋琢磨と創意工夫を繰り返して花火のバリエーションもかなり増えてきたようである。


 夜になるとあちらこちらで試し打ちの花火が見られるようになり、それを見た人々の花火大会への期待は高まるばかりである。


 この熱気を受けてユウイチは既に花火大会の成功を確信している様である。



 そして"あっ"と言う間に建国祭を迎えたのである。


 建国祭は建国記念日の前後二日づつの合わせて五日間行われる。


 前日二日は年越しムードで過ごして建国記念日が明ければ新年を迎える。


 建国記念日には王族のパレードが行われるのだが庶民は冷めたでものである。


 だが、今年はそのパレードの後に花火大会が催されるのである。


「ユウイチさんは建国祭のパレードを見るのは初めてだったんですね?」


「あぁ、そうだよ。

 こうやって見ると王族も捨てたもんじゃないな」


 ユウイチが"口は災いの元"であることを忘れて、思い切り失礼な発言をしている。


 もし、誰かに聞かれでもしたら不敬罪でお縄になるかもしれない。


 例え誰が相手でも"口は災いの元"であることに変わりはない。


「ユウイチさん、いくらお祭りだからってそんなこと言っちゃ駄目ですよ」


「それもそうだな。

 曲がりなりにも王族だもんな」


 失礼な発言を重ねているユウイチには、"口は災いの元"だと"口が酸っぱくなる"まで言ってやりたい。


「それにしてもバーガー・カテドラルの屋台は凄い人集りでしたね」


「お祭りらしい食べ物をたくさん出したからな。

 やはり、お祭りはこうでないとな」


 前世のお祭りと言えばなんと言っても屋台である。


 リリアから建国祭の当日は店を閉める人が多いと聞いて、建国際を更に盛り上げるためにユウイチは急遽として出店を決めたのである。


「私は、あの鉄板で焼いた麺が気に入りました」


「"焼きそば"だな」


 リリアは"焼きそば"の他にも"たい焼き"や"綿あめ"の屋台にも嬉しそうに並んでいた。


 だが、ユウイチは要らぬ地雷を踏まない様にリリアにツッコミを入れずにおいた。


 それは、諄すぎて"耳にタコができる"かもしれないが、"口は災いの元"だからである。


「来年はバーガー・カテドラル以外にも屋台が増えるだろうな」


「フフフ、あれだけの行列を見せられたら模倣品業者が黙ってはいないでしょうからね」


 リリアは屋台で買ったばかりの"タピオカミルクティー"をチュウチュ吸いながら笑っている。


「ユウイチさん、花火大会の開会の挨拶が始まったみたいですね」


 今日は心配された雨も降らず絶好の花火日和である。


 皆が各々に好きな場所を陣取って花火が上がるを今か遅しと待っている。


 前世の日本なら開催の挨拶と協賛企業の紹介などで長い前置きがお約束だが、どうやら参加する花火工房の紹介をするだけで終わったようである。


「さあ、どんな花火が上がるのか楽しみだな」


 王都には王城と教会以外に高い建物がないので比較的どの場所からでも打ち上がる花火を見ることができる。


 ユウイチとリリアは研究所の二階で椅子に座って夜空を見上げている。


 "ヒューーー"と音がして数秒後に"ドン、パラパラパラ"と更に音が続く。


 初めの一発目が打ち上がったのである。


 続いて二発目三発目と打ち上げられると夜空が昼のように明るくなって、人々の歓声が波のように押し寄せてくる。


 何処からか工房の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


 これはユウイチが教えた前世の日本の風習である「玉屋」や「鍵屋」の異世界版である。


 こうして花火が打ち上がる度に王都に工房名が響いている。


「ユウイチさん、花火の色ってたくさんあるんですね」


「あれは炎色反応と言って、火薬に混ぜる金属の種類で色が変わるんだよ」


 前世で得た知識の受け売りでしかないが、ユウイチはドヤ顔で説明する。


「ユウイチさん、もしかしたらメタルスライムを使いましたか?」


 急に不安になったリリアがユウイチに尋ねた。


「メタルスライムを乾燥して擂り潰した粉を混ぜた花火もあるぞ。

 メタルスライムはなかなか良い働きをしてくれるんだよ」


 実験によるとメタルスライムは食べた金属の種類で違う炎色反応を起こすようである。


「はぁー、スライムを使っちゃったんですね……」


 時既に遅し、リリアが"ガックリ"と肩を落として溜め息を吐いた。


「リリア君、テストは嫌と言うほど重ねた。

 恐らく大丈夫だよ」


「はぁー、恐らくですか……」


 それを聞いてリリアは余計に不安になり花火に集中できなくなった。


 二人がそんなことを話しているうちに、いよいよ花火大会はクライマックスを迎える。


 先ずは工房ごとに一番自信のある花火を順番に打ち上げていく。


 そして、一通り打ち上がったら最後は一斉に打ち上げて終わる予定である。


「リリア君、いよいよクライマックスだぞ!」


「は、はい」


 不安からワインを飲むペースが上がったリリアの顔が赤い。


 ここで「リリア君にも炎色反応が起こった」などとツッコミを入れてはいけない。


 何故なら、"口は災いの元"で花火より先にリリアの地雷が炸裂してしまうからである。


 そうこうしているうちに外では花火が一つ上がる度に観衆が工房の名前を叫んでいる。


 一通り打ち上げ終わり、最後は花火が一斉に打ち上げられた。


「ヒューー、ドンドンドドーン」


 空が白く閃いた瞬間に誰もが息を呑んだ。


 次の瞬間、天から大量の水が降り注いだ。


 "天災は忘れた頃にやってくる"ものである。


 逃げる暇もなかった人々は勿論のこと、王都中の建物までもがずぶ濡れになった。


「な、なんだ突然の雷雨か?」


「馬鹿な、先ほどまで晴れていたんだぞ!」


「もしかして、花火の音が五月蝿くて湖の竜が怒ったのか?」


 人々はこの珍事について話し合っていたが、誰一人として理由が分からなかったのである。



 建国祭から一週間が経ったある日のこと。


 "王都最大の珍事"の調査を終えた魔法規制局から次の様な発表がなされた。


 一、各工房の打ち上げ順が偶然にも水魔法の詠唱と同じであった。

(観衆が工房名を叫んだ為に詠唱が完了した)


 ニ、最後に一斉に打ち上げた花火が偶然にも夜空に水魔法の魔法陣を描いた。


 三、火薬に混ぜたメタルスライムの粉が魔法陣に魔力を注ぎ起動させた。


 以上の嘘のような偶然に偶然が重なった事により大規模な水魔法が発動した。


 こうして建国以来の最大の珍事は無事に解明されたのである。


 この年以降、建国祭の夜は水魔法の魔法陣花火で雨を降らせるのが恒例になった。


 建国神話では湖の竜が建国に関わっているのだからと人々は納得しているそうである。



「ユウイチさん、またやっちゃいましたね」


「リリア君、"災い転じて福となす"と言って、こういったことが語り継がれて、やがては伝統文化になっていくものなんだよ。

 恐らく、数百年後の人たちに魔導具研究所の名前も語り継がれているはずだよ」


 王都最大の珍事を引き起こした張本人であるユウイチは反省するどころか何故か自慢気である。


「ユウイチさん、その語り継がれる名前に"リリアモデル"って付くことはないですよね?」


「はははは……」


 下手な返事をすればリリアの地雷が炸裂しそうなので、ユウイチは笑ってごまかすことにしたのである。


 そう、"口は災いの元"なのだから。



 後日談。


 ー建国記念日の宰相邸ー


 私はセバスと申します。


 宰相である旦那様には長くお仕えさせて頂いております。


 旦那様は若い頃より権力闘争にその身を投じられ、数々の裏切りや粛清を経て現在の宰相の地位に登りつめられました。


 旦那様は王都の一等地にある、退位した元国王専用の屋敷に仮住まいされております。


 さほど大きな屋敷ではございませんが王城と同じ台地の突端にあり王都を一望することができる場所でございます。


 屋敷の玄関を入りますと落ち着いた内装のエントランスホールに三段分のエスカレーターが静かに回っております。


 それを見て「儂にはこれぐらいが分相応だ」と旦那様は笑っておられました。


 エントランスホールからエスカレーターと階段を登り二階に上がると旦那様専用の浴室がございます。


 ジエットバス付きの浴槽には入浴剤が入れられており旦那様は仕事の疲れを癒されております。


 これはここだけの話でございますが、旦那様は肉球を模した香りの入浴剤をご所望されることが多ございます。


 廊下のおくには厨房があり入口付近には卓上トースターが置かれております。


 その奥で食品管理機能付きの冷蔵庫が"ブーン"と小さな音を立ております。


 ある日、旦那様が「陛下を撃退した武勇の者」と冷蔵庫を褒めておいででございました。


 三階に上がると旦那様の自室がございます。


 書斎の机の上には万歩計とキューブ型パズルゲームが置かれております。


 時折、旦那様は万歩計を付けて屋敷を歩き回っておられました。


 侍女達は旦那様が屋敷を見回っていらっしゃると勘違いをして暫く屋敷内は"ピーン"とした緊張感に包まれておりました。


 書斎の椅子はマッサージ機になっており執務の合間に旦那様は疲れを解しておいでです。


「儂はいつも人一倍、働いておるわい」とマッサージ機ブームを鼻で笑っておいででした。


 書斎の奥の寝室には一際大きなベッドが横たわっておりベッドの上では低反発マクラなるものが"プルプル"と震えております。


「あのマクラでは逆に疲れるわい」とは旦那様のお言葉でございます。


 そして、そのマクラの傍らに旦那様が宝物の様に大切に扱っている目覚まし時計がございます。


 何やら"特別な贈り物"だったようで、録音されたアラームの声を私共には聞かせて頂けません。


 しかし、旦那様はスヌーズ機能なるものを使い、朝方に何度も声を聞いているようでございます。


 おっと、旦那様に要らぬスキャンダルが発覚しては足元を救われる恐れもございます。


 この話はここまでといたしましょう。


 さて、今日は自室から連なるバルコニーで旦那様は建国祭の打ち上げ花火を楽しんでいらっしゃいます。


 テーブルにはインスタント麺の残り汁にライスを入れた物と食後のデザートとしてクレープを御用意いたしました。


「晩餐はこれぐらいが丁度良い」と旦那様はライス入りインスタント麺の残り汁を毎晩のように召し上がっておられます。


 その、旦那様の傍らでは隣国の国王から贈られた高級キャットフードを"ハワード=ド=アースワードⅡ世"が食んでおります。


 旦那様はご自分のお食事には無頓着ですが愛猫のお食事には拘っておいでです。


 "超希少・ワイバーンの生肉"に変えてから「毛艶がよくなったわい」と大いに喜ばれておられました。


 私は「娘に渡してやれ」と旦那様より頂いた"社交界用のドリルノート"を抱えて後ろに控えております。


 旦那様は不測の事態を心配されておりましたが、どうやら花火大会は無事に終わりそでございます。


 旦那様は「この王都でこのように美しいものを我が目で見られようとは思わなかった」と仰って、静かに眼を閉じ何やら物思い耽っておいでのようでございます。


「ヒューー、ドンドンドドーン」


 一際、大きな音が王都に響き渡り、空が白く閃いた瞬間、私は息をのみました。


 次の瞬間、天から大量の水が降り注いでバルコニーは水浸しでございます。


 ハワード=ド=アースワードⅡ世は素早く部屋に飛び込んで事なきを得ましたが、旦那様と私はずぶ濡れでございます。


 旦那様は静かに立ち上がり、滴る水を払いながら「また、アイツの仕業だな……」と仰せになりました。


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