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【第二十七話】音声文字変換機

 春も終わり王都はそろそろ夏を迎えようとしている。


 前世の子供頃は夏にはイベントが満載であった。


 海水浴や花火大会やキャンプ朝のラジオ体操などもあった。


 但し、夏休みの最終日に宿題地獄と言う毎年恒例のイベントに陥っていた子供もいた。


 こちら魔導具研究所でも、ユウイチが王城からの要望で地獄に陥りそうな気配である。



「リリア君、残念ながら王城から発明の要望が来た……

 いや、来てしまったんだよ」


 朝っぱらだと言うのに早くもユウイチから生気が抜けてしまっている。


「ユウイチさん、もしかして王族絡みの要望なんですか?」


 過去に何度か無茶振りに近い要請があっただけに王族に対する二人の警戒心は半端なく強い。


「王族は今回の要望に直接は関与していないようだ。

 そこだけは安心材料だよ」


「うわっ、その言い方だと間接的に関与する可能性はあるんですね。

安心材料ではなくて心配材料じゃないですか!」


 リリアはとても苦い粉薬を飲んだような顔をしている。


 その分、効果があると良いのだが、逆に熱が出てこないか心配である。


「はははは……

リリア君、そんな顔をするな」


「もしかして顔に出てましたか?」

 

 貴族であれば社交界でポーカーフェイスが必要なこともあるだろう。


 リリアは"社交界のドリルノート"での勉強が全く以て役に立っていないようである。


「先ずは届いた要望書を読んでみて感想を聞かせて欲しいんだよ」


「あっ、はい。

 分かりました」


 そう言ってリリアはユウイチから受け取った書類と暫くにらめっこをしていた。


 そのリリアの表情がコロコロと変わっていたので内容には良い印象を持っていないかもしれない。


「えっと、内容を纏めると"王城会議の議事録を作成する魔導具を発明して欲しい"ってことですよね」


「どんな形にするのかは、こちらに一任されているからやり易くはあるんだがな」


「でも、何かあった時に"責任は全てこちらにある"ってことにされかねませんよ」


 リリアの顔が今度は前世の渋柿でも食べたようになった。


「いいか、リリア君。

 発明品には常に責任が付いて回るものだよ」


 珍しくユウイチの口からまともな言葉が飛び出した。


「それはそうですけど、相手が王城の貴族だと面倒事になりませんか?」


 リリアは自分も貴族だと言うことをすっかり忘れている様である。


「実は責任を引き受ける分、こちらの条件を全て飲んでもらっているんだよ」


「一体、王城相手にどんな条件を付けたんですか?」


「先ずは期限と予算は決めない。

 それと議事録が作成されているのなら返品は受け付けないと言う条件だよ」


 以前、王城騎士団の乗馬シミュレータを請負った際に納期と予算の都合でポニーサイズ止まりになった。


 その結果、納品先が騎士団ではなく王子の部屋に変わった。



 その二の舞にならぬように交渉しておいたユウイチは胸を張りドヤ顔で説明する。


「それならじっくり取り組めそうですね。

 その分、間違いも起こり難そうです」


 リリアの言う"間違い"に心辺りが多す過ぎるユウイチは、一先ずスルーしておくことにした。


「だが、今のところはどんな形にしたら良いか全く考えがまとまっていないんだよ」


 ユウイチは、そうボヤきながら頭を掻いている。


 王城からの依頼書によると議事録の作成の問題点は三つある。


 一つ、皆が口々に発言してよく聞き取れない。


 一つ、そんなことは言ってないと後になってから削除要請がくる。


 一つ、あれはそう言う意味で言ったのではないと後になって訂正要請がくる。


「問題点を聞くだけでも、王城の会議は面倒臭そうですね」


 リリアが"ズバッ"と核心を突いた意見を言う。


 前世の映画で"事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ"と叫んだ刑事の気持ちが良く分かるユウイチである。


「だが、リリア君。

 会議自体は面倒ではないんだよ。

 実は王城の会議に出ている人に面倒臭い人が多いだけなのだよ」


 そんな面倒臭い人達の意見を載せる議事録の作成も当然にして面倒な作業になることは想像するに難くない。


「やっぱり、このお話は断った方がいいんじゃないですかね」


 断れるものなら断りたいところだが、それはそれで面倒事になりそうである。


「うーん、暫く考えてみるよ。

 リリア君もアイデアが浮かんだら遠慮なく教えて欲しい」


「そうですね、ボタンを押さないと発言できないマスク型の魔導具とか?」


 ユウイチは前世のクイズ番組で使われていた"赤い罰点"の付いた一回休み用のマスクを思い出した。


「はははは、なかなか良いアイデアだな」


 リリアの冗談とも本気ともつかないアイデアを聞いて、重たかったユウイチの気持ちは少しだけ軽くなったのである。



 王城から要望が来て二週間が経ったある日のこと。


「ユウイチさん、おはようございます」


 いつものように明るく挨拶をしながらリリアが事務所に入ってきた。


「おはよう、リリア君。

 今日はいい天気だな。

 明日はどうだろうな」


「ユウイチさん、急に天気の話なんかしてどうかしたんですか?」


 ユウイチは徐に席を立ち、なにやら箱のような物を机に置いた。


 今からリリアを相手に王城からの要望に答えるためのプレゼンの始まりである。


「ユウイチさん、この箱は魔導具ですか?」


「これは音声を文字に変換してくれる魔導具なんだよ。

 王城会議の議事録の作成に役に立ってくれるばずだ」


 そう言ってユウイチは魔導具の"印字"と書かれたボタンを押した。


 "ジーコジーコ"と音がした後に"パサッ"と一枚の紙が排出された。


「リリア君、これを読んでみてくれないか?」


 ユウイチは排出された紙をリリアに渡した。


「えっと、

 "おはよう、リリア君

 今日はいい天気だな

 明日はどうだろうな"

 "これは音声を文字に変換してくれる魔導具なんだよ。

 王城会議の議事録の作成に役に立ってくれるばずだ"って書いてますね」


 書かれた文字を全て読み終えたリリアは不思議そうな顔をして紙を見詰めている。


「よし、成功だな!」


 ユウイチは前世の往年のコメディアンの如く"パチン"と指を鳴らした。


「あれ、私の声が文字に変換されていませんけど?」


 リリアがとても不思議そうな顔をして紙と魔導具を交互に見ている。


「この魔導具はピンマイクに魔力を登録した人の声だけを拾う仕組みなんだ。

 だから、リリア君の声は文字に変換されなかったんだよ」


「へぇー、面白そうですね。

 私にもやらせて下さい」


 どうやら、リリアの面白い物センサーが反応したようである。


 こうなることを予想していたユウイチは、ポケットからもう一つピンマイクを取り出してリリアに渡した。


「へぇー、思ったより小さいですね」


 リリアは渡されたピンマイクを念入りに見ている。


「先ずは魔力の登録だな。

 そこの魔石に魔力を流しながら名前を言ってごらん」


「リリア=アレミロードと申します。

 どうぞ、よろしくお願いします」


「はははは、そんなに畏まらなくてもいいぞ」


 リリアは前世の面接に望むリクルーターのようにぎこちなくなっている。


「自分の名前を言うのは場面って、初対面の相手とか緊張する場面が多いじゃないですか。

 だから、つい……」


「い、言われてみれば確かにそうだがな」


 そんな愛らしいリリアを見てユウイチは込み上げてくる笑いを堪えるのに必死である。


 そして冗談混じりにこう続けた。


「名前は何でもいいんだよ。

 例えば"ドラゴン"や"ピクシー"でも構わないぞ」


「そうなんですね!

 じゃあ、やり直してもいいですか?」


「本体の"開始ボタン"を押さない限り何度でもやり直すことができるようになっている」


 リリアは何やら思い付いたようで、再び魔石に手を乗せて登録をやり直す。


「私は"魔の森の魔女"です」


「……フッ、はははは」


 恐らく、これは前世のハンドルネームのノリであろう。


 そう思ったユウイチは堪えきれずに吹き出してしまった。


「ユウイチさん、そんなに笑わないで下さいよ」


 言った後に恥ずかしくなったのか、リリアの顔が真っ赤になっている。


「スマンスマン。

 だが無事に登録されたようだ。

 これで本体の"開始ボタン"を押せば会話を文字に変換してくれる」


「このボタンですね」


 ユウイチが言うが早いかリリアが"開始ボタン"を押した。


「開始の他に一時停止・終了・印字・削除の四つと数字のボタンがあるんだよ」


「ユウイチさん、文字の四つは何となく機能は分かりますが、この数字のボタンはどうやって使うんですか?」


 文字が書かれているボタンは正に文字通りの機能だと想像は付くが、数字のボタンは説明が必要である。


「ここにディスプレイ画面があって過去の履歴が番号付きで表示されんだ。

 その履歴の番号のボタンを押してから"印字ボタン"を押せば記録した会話を印字してくれるんだよ」


「なるほど、本体に過去の会話を記録しおいてくれるんですね」


 リリアの理解の早さと、この魔導具に対する興味は正比例している様である。


「例え会話の途中でも"印字ボタン"を押せばここまでの会話を印字してくれる」


「やってみますね」


 そう言ってリリアは"印字ボタン"を押した。


 すると"ジーコジーコ"と音がした後、紙が一枚"パサッ"と排出された。


"開始の他に一時停止・終了・印字・削除の四つと数字のボタンがある"


 "ユウイチさん、文字の四つは何となく機能は分かりますが、この数字のボタンはどうやって使うんですか"


"ここにディスプレイ画面があって過去の履歴が番号付きで表示されんだ。

 その履歴の番号のボタンを押してから"印字ボタン"を押せば記録した会話を印字してくれるんだよ"


"なるほど、本体に過去の会話を記録しおいてくれるんですね"


"例え会話の途中でも"印字ボタン"を押せばここまでの会話を印字してくれる"


"やってみますね"


 リリアが読んでいる紙には先ほどの会話が一字一句抜けることなく文字に起こされていた。


「ちゃんと登録者毎に色分けしてあるなんて気が利いてますね」


「出席者が多くなっても良いように誰の発言か分かりやすいようにしておいたんだ。

 一人目は"黒"で二人目以降は魔導具がランダムで色を決めてくれるんだよ」


「これなら、そのまま議事録としても使えそうじゃないですか!」


 どうやらリリアから"バン"と太鼓判を押してもらえたようである。


「これでテストは終了だ。

 リリア君、魔導具が完成したと王城の書記官に連絡しておいてくれるかな?」


「ユウイチさん、念のために聞きますけど魔導具の名前は何と言うんですか?」


 リリアによる危険ワードの確認が残っていたのをユウイチはすっかり忘れていた。


 だが、今回はいつものスライムなどはすっ飛ばしてネーミングの確認である。


「そうだなぁ、シンプルに"音声文字変換機"でいいだろ」


「確認ですけど、それにはモデル名とか付けていてないですよね」


 実はキャリーバッグにはユウイチの悪ノリで本人の知らない間に"リリアモデル"の名が冠されていたのであった。


「大丈夫だ、付けてない。

 ……いや、待てよ。 

 リリア」


「絶対にダメですからね!!」


 ユウイチが言いい終わる前にリリアから断固拒否されてしまった。


「リリア君、今のは冗談だ。

 モデル名は"初号機"とでもしておこう」


「分かりました。

 王城には"音声文字変換機・初号機"が完成したと連絡しておきますね」


 モデル名を初号機としたことでリリアは納得してくれたようである。



 そして、音声文字変換機・初号機が王城に納品されて初めての王城会議が行われた。


 出席者がピンマイクを装着して挑んだ会議は無事に閉会したようである。


 出席者は各々帰途に着き、書記官が本日の会議の内容を印字している。


「係長、この音声文字変換のお陰で我々は楽ができそうですね」


「王城会議の日は残業と決まっていたが、今日は早く帰れそうだな」


 などと話しながら排出された紙を一枚一枚チェックしていく。


「何だこれ?

 おいちょっと見てみろよ!」


「何ですか?

 上手く変換されていないとか言わないで下さいよ」


 係長から差し出された紙には以下の様な文言が書かれていた。


『全く以て宰相閣下の仰る通りです』

 (何を偉そうにこの田舎貴族が)


『さすがは宰相閣下、ご明察です』

 (この節穴宰相めが) 


『是非ともご教授願いたいものです』

 (顔を洗って出直してこい)


 などと発言の後に()付きのものが多数見られたのである。


「この"宰相閣下ご明察です(この節穴宰相めが)"って、どういう……?」


「しっ、声に出すんじゃない!」


 二人は予想だにしていなかった事態に慌てている。


「これは、どう解釈すれば良いんですかね?」


「よく見ろ、発言者は公爵派の貴族ばかりだ。

 そうすると、結論は一つしかないだろ」


「だとしたら、この()付きの言葉は心の声と言うことになりませんか?」


「おそらくな……」


 この議事録は機密情報として、すぐに宰相のもとへ提出された。


 二日後、何人かの貴族に自宅謹慎が言い渡されていた。


 王城会議の日から数日後のある日の研究所。


「マイクの感度が良すぎて心の声を拾ってしまうなんてことがあるんですね」


「本心を隠した発言にだけ反応したのも不思議だな」


 ユウイチとリリアが王城会議で起こった不可思議な現象を話し合っている。


「本体に内蔵した魔石が読心術の使える魔獣のものだったとか?」


「だとしたら、精神系の魔法を使うバイコーンだよな。

 でも、真実は闇の中のままにしておいた方が我々に害が及ばないだろう」


 研究所は宰相から音声文字変換機・初号機の存在事態を秘匿するように厳命されている。


「でも、改良型の二号機が問題無く変換してくれて良かったですね」


「それと初号機の引き取り手が無事に見つかって安心したよ」


 ユウイチは王城の方を見ながら"ホッ"と息を吐いた。


「初号機は諜報部の尋問で嘘発見器として活躍してるみたいですね」


「これが"適材適所"と言うものだな」


 だが、人の心の声を文字に変換する魔導具が存続する。


 考えただけでも恐ろしいことである。




 後日談。


 私の名はミレイ。


 王城に納品された"音声文字変換機"のチェックを依頼されましたわ。


 またしても、魔導具研究所がやらかした後始末が回ってきましたわ。


 私は局長に指示されて心の声が文字に変換される原因を探りましたわ。

 

 私は「凡人の思考で作成された魔導具など全く訳が分かりませんわ」とピンマイクに向かって言った後に"印字ボタン"を押しましたわ。


 "ジーコジーコ"と音がした後、"パサッ"と一枚の紙が排出されました。


 私は紙を手に取り印字された文字を読んでみましたわ。


 凡"人の思考で作成された魔導具など全く訳が分かりませんわ"


 (凡人の私には、むしろ複雑すぎて全く訳が分かりませんわ) 


 確か()の中は本心が文字に変換されたものだとお伺いしましたけれど……。


 フッ、これは何かの間違えなのでしょう。


 一先ず、見なかったことにしておきますわ。


 まったく、魔導具研究所というところは……


 忙しい中、こうして貴方達のお相手をして差し上げてる私に感謝なさいませ。



 私の名はミレイ。


 先ほどの紙は亜空間にでも封印しておきたいところですわ。

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