表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

【第十三話】ジェットスキー

 回転料理屋も軌道に乗って漸く一段落のついたユウイチとリリアは、王都の貴族達の避暑の定番であるヴィラーゴ湖の畔に来ている。


 何故、二人が湖畔にいるのかと言うと回転料理屋の成功に気をよくしたユウイチが力強くこう宣言したからである。


「いいか、リリア君!

 この国に"レジャー"を持ち込むぞ!」


「ユウイチさん、そのレジャーってなんですか?」


 こちらの世界の住人であるリリアの素朴な質問である。


「レジャーとは簡単に言えば余暇の遊びのことだよ」


「ユウイチさん、庶民に余暇なんてものはありませんけど……」


 こちらの世界の住人であるリリアに依る全く以てごもっともな意見である。


 やはり、前世の庶民層とは違ってゆとりを持つ時間はないらしい。


 比べてみると前世の庶民の待遇はそんなに悪くなかったんだなとユウイチはしみじみと思う。


「……ゴホン。

 リリア君、貴族社会にレジャーを持ち込む」


「ユウイチさん、貴族は余暇に遊び放題ですよ」


 改めて宣言してみたが、こちらの世界の貴族って奴はとんでもないなとユウイチは再認識する。


「まぁ、いい。

 とにかくこれを発売するぞ」


「先ほどから気になっていたのですが、このヘンテコりんなものは何の魔導具なんですか?」


 絶対にこちらの世界にはない形状を見てリリアが少し困惑しているようである。


 こちらの世界で強いて似ている物を上げれば手足を引っ込めた亀といったところだろう。


「リリア君、これはジエットスキーと言う乗り物なんだよ」


 そう言うとユウイチは、地面に置いていたジェットスキーに颯爽と跨がって、恒例のプレゼンを始めた。


「へぇー、これって乗り物だったんですね」


 亀型の魔導具にリリアの面白い物センサーが素早く反応した。


「このジエットスキーなら水の上を滑るように走ることができるだよ」


「えっ、地上ではなく水の上を走るんですか?

 形はボートとは全く違いますよね?」


 ユウイチにはお馴染みの形状であるが、初見のリリアには理解の範囲の外のようである。


「そうだなぁー、

 これは説明するより実際に体験した方が早いと思うんだ」


 そう言ってユウイチはジエットスキーを押して"ジャブジャブ"と湖に入っていく。


「あっ、本当に浮かんでいますね」


「俺が支えているからリリア君は後ろに乗ってくれるかな?」


 水の上で"グラグラ"と揺れるジェットスキーにリリアがおっかなびっく跨がった。


 続いてユウイチが前方の運転席に跨がる。


「リリア君、準備はいいか?」


「あ、はい」


 リリアの返事を聞いてユウイチはハンドルを握ると"ブンブン"とアクセルを吹かせる。


 ジェットスキーは左右から吸い込んだ水を勢いよく後方に吐き出す。


「行くぞ!」


 暖気運転が大切な前世のエンジンとは違い魔導具のジエットスキーはいきなりトップスピードを出しても何ら問題がない。


 ユウイチがアクセルを全開にすると"ブワァー"と言う激しい音を残し水面を滑るように進んでいく。


「どうだリリア君、楽しいだろ?」


「ユウイチさん、凄いですスピードですね!

 私の愛馬のネーピアよりも断然早いです!」


 初めてのジエットスキーの走りにリリアの興奮は湖面を一周しても未だ収まりそうにないぐらいであった。


 後部座席で興奮するリリアを見てユウイチはジエットスキーの成功を確信したのである。



 ジェットスキーの発売から二週間後のある日のこと。


「ユウイチさん、ジェットスキーの経過報告書です」


 未だジエットスキーの走りの興奮を引きずっているリリアのテンションは非常に高い。


 リリアが二週間もハイテンションを維持していて疲れないのかユウイチは心配になるぐらいである。


「ジェットスキーの販売数はまずまずのようだな」


 リリアから受け取った報告書に目を通してユウイチは満足そうである。


 そもそもジエットスキーは誰も彼もが欲しがるような物ではない。


 まずまずの販売数なら成功と言っても過言ではない。


「海は魔獣がいるからできないのは分かっていましたけど、川も生活用水だから禁止になるとは思いませんでしたよ」


「こればかりは仕方がないな。

 王都の近郊にある二ヵ所の湖が使えるだけでも良かったじゃないか」


 珍しくユウイチらしからぬ大人の意見である。


 それもそのはず、魔獣と生活用水は命に直結する問題である。


 レジャーより命を大切にするのは当然の結論である。


「でも、大きい方のヴィラーゴ湖は貴族が独占しているみたいなんですよ」


「まぁ、それも仕方がないな。

 庶民は小さい方のザバロン湖て楽しめるだけマシだな」


 貴族達は自前のジエットスキーを持ち込み湖畔にテントを立てて楽しんでいるらしい。


 方や庶民はというとレンタル屋に一時間で銀貨五枚を払いジエットスキーを借りて楽しんでいるようである。


 仕方がないとはいえレジャーでも貴族と庶民で随分と格差があって世知辛いものである。


「ユウイチさん、私もまたジエットスキーに乗りたいです!」


「はははは、随分と気に入ったようだな。

 よし、今週の週末に行ってみるか?」


「はい! 今から楽しみです!」


 ハイテンションのリリアのテンションが更に上がったような気がする。


 そして、リリアは湖面を滑るジエットスキー並みの速さで工房へ突進していったのである。


  遂に、リリアの待望する週末がやってきた。


 だが、今回はジエットスキーの市場調査も兼ねているのでユウイチは遊んでばかりはいられないのである。


「それにしても凄い人だな、まるで……」


 ユウイチは思わず前世の名作アニメの台詞である"人がゴミのようだ"と言いそうになったが思いとどまった。


「水辺の娯楽は殆どなかったですからね。

 皆、物珍しいのでしょうね」


 やはりこちらの世界は前世とは違う事をユウイチは再確認させられる。


 せめて発明を通して少しでも皆が楽しめる世界になればいいなと思う。


「あっちは上級の貴族達が集まってるみたですね」


「そうみたいだな。

 豪華な馬車がたくさん停まっていて何だか近寄り難い雰囲気があるな」


 初めて知ったが貴族の中でも随分と格差があるようである。


 下級の貴族の部類に入るリリアは当然のことのように湖の反対側の集まりの方へ移動する。


 恐らく、"触らぬ神に祟りなし"と言うことなのだろう。


「ユウイチさん、運転してきてもいいですか?」


「俺はここで色々と見ているから、リリア君はジェットスキーを楽しんでくるといいよ」


 ユウイチが返事をし終えるよりも早く、リリアはジエットスキーと共に湖に入って弾丸と化した。


 遠くでは派手な装飾を施したジエットスキーが見せびらかすように爆音を響かせている。


 その他に幾つものジエットスキーが湖面に輪を描いている。


 前に見た庶民のレンタル艇は魔石の大きさの関係で少し走れば止まりそうなほど非力であったが貴族は大きな魔石を取り付けているようである。


 ユウイチは「音も値段も桁が違いますね……」と以前にリリアが呟いたのを思い出していた。


 その時、突如として湖に異変が起こった。


 水面が不気味に波打ち、ジエットスキーの波紋とは明らかに違ううねりが湖全体に広がっていく。


 そして、湖の真ん中から泡がブクブクと立ち上がり、誰かの叫び声が聞こえてきた。


「な、何だ?!」


「お、おい水が盛り上がっているぞ!

 魔獣でも潜んでいたんじゃないのか!」


「馬鹿なことを言うな、このヴィラーゴ湖には魔獣などいないはずだぞ!」


「そんなことはいいから、とにかく戻ってこい!」


「皆、急いで陸にもとれ!」


 人々が口々に叫び互いに避難を呼び掛け合っている。


 だが、水面は更に盛り上がり遂に竜がもたげた首が湖面から立ち上がった。


「り、竜だと……」


「神話の中の空想の存在ではなかったのか……」


 遥か頭上にある竜の顔をを見上げて人々は、ただ立ち竦んでいるだけである。


「貴様ら騒がしすぎるぞ。

 おちおち寝てもいられぬわ!!」


 眠りを妨げられた竜の目が怒りで真っ赤に燃えている。


「申し訳ございません。

 静かに致しますから何卒お許し下さい」


「反省しますからブレスだけはご勘弁を……」


 湖畔にいた全員が両膝を地面に着けて頭をさげて全力で謝っている。


「ふむ、次はないものと心得よ」


 そう言い残して竜は水中へとゆっくりと戻って行った。


「ユウイチさん、急いで静音仕様に改善しましょう!」


 余程、怖かったのだろう。


 顔を上げたリリアが涙目でユウイチに訴えている。


 後日、数百年ぶりに目覚めた竜に慌てた魔法規制局はヴィラーゴ湖では静音機能付きのジエットスキーに限って使用を認めることにしたのである。



 ヴィラーゴ湖に竜が出現して王都が大騒ぎになる少し前のこと。


 王都在住の自称"天才錬金術"の魔導具オタクであるランバン=ニアークティック男爵はジエットスキーを見て全身を"プルプル"と震わせている。


「こ、これはなんと弄り甲斐のある魔導具なのだ!」


 恐らく、これが天才の思考というものなのだろう。


 前回、自動歯ブラシで肩透かしを喰らったことはすっかり忘れているようである。


「フッフッフ、此度は速さの限界に挑んでみようぞ」


 だが、仕様書を見て余りのパーツ数の多さにランバンは早くも心が折れたらしい。


 分解を諦めてスピードアップだけに的を絞った。


「だとすれば、ここしかあるまい」


 ランバンは動力源である魔石を納めるボックスに手をの伸ばした。


 そして"開く"のボタンを"ポチっ"と押すと"パカッ"と蓋が開いた。


「ははは、思った通りであるな。

 魔導具研究所など恐るるに足らぬわ」


 中に入っている魔石を取り出して自前の大きな魔石と取り替える。


 これは単三電池より単一電池のほうがパワーがあるのと同じ理屈でスピードアップに繋がった。


「完成したわい。

 これでヴィラーゴ湖のスピードスターの座は私のものだな」


 後日、ヴィラーゴ湖で爆走していたランバンは竜の眠りを覚ましA級戦犯として魔法規制局からたっぷりとお灸をすえられたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ