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【第十二話】回転料理屋

 実はユウイチは、こちらの世界で外食をしたことがない。


 それは、三食きっちりと教会本部から届けられるからである。


 前世のカップ麺三昧よりはマシだが、決して内容に満足している訳ではない。


 そんなユウイチのぼやきを耳した大司教が前世の食生活に興味を持ったのが、今回の話のきっかけである。



「これは何だか変わった作りのお店ですね」


 ユウイチが完成させた模型を覗き込んだリリアは、店内のレイアウトを不思議そうに見ている。


「この作りの店は王都ではまず見ないだろうな」


 自炊をしたことがないユウイチには大司教が望む前世の料理を作ることができそうにない。


 その代わりと言っては何だが、料理屋をプロデュースすることにしたのである。


「ところでこれは何屋さんなんですか?」


 リリアの面白い物センサーがばっちりと反応しているが、何の店かは皆目検討が付かないようである。


「いいかリリア君、これは回転料理屋と言って厨房と客席をぐるりと一周しているレーンに乗って料理が流れてくるんだ。

 客はそれを席に座ったまま取るだけでいい店なんだよ」


 ユウイチは模型を指差しながらリリアにプレゼンをする。


「それなら、注文や出来上がりを待つ必要がないですね」


「そうだ、"好きな時に欲しい料理が食べられる"と言うのがこの店のコンセプトなんだよ」


 今回は前世の回転寿司のシステムだけを拝借したのである。


 本当は寿司を出したいのだが、こちらの世界で生の魚は受け入れられない可能性が高い。


 だから、料理はこちらの世界の料理をメインに出すことにしたのである。


「でも、誰が何をどれだけ食べたか分からなくなりませんか?」


「そこは心配ない。

 どの料理も一皿で銅貨三枚に決めてあるんだよ」


 客が座席にある"お会計"の釦を押せば店員がやってきて皿の枚数を数えれば済む明朗会計である。


「お客さんも食べながら幾らになるか分かると安心ですね」


 興味があるからなのかリリアの理解が良い様で、回転料理屋のプレゼンは順に進んでいる。


「最初に言っておくが今回はスライム使っていないぞ」


「危険ワードが一つ消えましたね」


 ユウイチが自己申告したお陰か、今日はリリアのツッコミにいつもの切れ味はなかった。


 ユウイチは"ホッ"と胸を撫で下ろすのだが、どうしたものか切れ味鋭いツッコミが来ないなら来ないで寂しいものである。


「魔導具を販売する訳ではないので、規制局にはレーンを動かす魔導具の届け出だけで済んだ」


「これで、魔方陣と規制局の二つはクリアですね」


 いつもの確認をリリアは淡々とこなしていく。


「料理屋なら酔った客以外の暴走は考えられないな」


「酔っぱらいの暴走よりも、私は暴飲暴食の方が気になりますね」


 前世の大食い番組に出場する様な猛者がいないとは限らないが、それに関しては心配しても仕方がない。


「リリア君、商業ギルドへの説明は頼んだぞ!」


「私も楽しみです。

きっとリーネさんも興味を持ってくれるはずです」


 リリアに対するプレゼンは無事に成功した。


 その後、数日を経てリリアも商業ギルドとの打合せを終わらせた。


 商業ギルドのつてで手頃な空き店舗も見つかり回転料理屋は直ぐにでもオープンできそうである。


「リリア君、一週間後にオープンできそうだな」


「早く見てみたいですね」


 この時、回転料理屋の成功を確信していた二人は、予期せぬ問題が持ち上がることを全く予想していなかったのである。



 回転料理屋のオープンから二週間後のある日のこと。


「ユウイチさん、回転料理屋の経過報告書です」


「どれどれ、良い結果だといいんだが……」


 ユウイチはリリアから報告書を受け取り真剣な眼差しで目を通していく。


 どうやら、ユウイチの狙い通りに回転料理屋は大盛況らしい。


 しかし、それは"庶民店"だけに限った話であって、同時にオープンした"貴族店"では閑古鳥が鳴いているそうである。


 店の形態こそ同じであるが、庶民店と貴族店では使っている調度品と素材の質に差をつけてある。


 それは前世の航空機のエコノミーとファーストクラスと言えば分かり易いだろう。


 真偽のほどは分からないが、ファーストクラスが満席なら、エコノミークラスは全席が空席でも利益が出ると聞いたことがある。


 ユウイチも庶民店は広告効果を狙って薄利多売にした。


 その分、噂を聞き付けた貴族達が貴族店を利用して利益を上げるつもりでいたが、この貴族店の状態では計算が大きく狂ってしまうのである。


 そこで商業ギルドでは貴族店のテコ入れのために貴族のご夫人方を招いたお茶会を催してマーケティング調査を行ったようである。


 報告書にとある貴族の屋敷で開かれたお茶会の席での会話が記載されていた。


「皆様方は最近オープンした回転料理屋には、もう足を運ばれまして?」


「あら料理を自分で取るような店など庶民なら未だしも私達の行くような店ではございませんわ」


「そうですわ奥様、私共には“選ばれた料理”だけを運んできてもらいたいものですわね」


「目の前を皿が通り過ぎるなど屈辱でしかありませんこと、それにあの奇妙なテーブルに座るのも我慢なりませんわ」


「そうですね。

 やはり私達には一生縁のないお店と言うことですわね」



 ユウイチは余りの酷評に報告書を読むのを途中で止めた。


 だが、それは決して現実逃避をしようとしたのではない。


「確かに貴族には散々な評判だな。

 しかし評判の割には貴族達は店のシステムのことをよく知っいる。

 これは興味は持っている証拠だと言ってもいいだろう」


 "クレームはチャンスに変わる可能性がある"と、ユウイチはやけに自信あり気に北叟笑んだ。


「でも、興味だけでは来てくれませんよ。

 貴族が足を運ぶような良い方法でもあるんですか?」


 自身も貴族であるリリアが、心配そうにユウイチに尋ねる。


「大切なのはどうやって顧客である貴族のニーズにマッチさせるかだけだな」


「はあ、ニーズですか……」


 ユウイチには勝機が見えている様だが、そんなユウイチを見てリリアは更に心配になる。


 何故なら、いつもそうだからである。


「何もしなければこのままだ。

取り敢えず試してみようじゃないか!」


「それもそうですね、駄目元でやってみてもいいかもしれません」


 やはりリリアのツッコミはこれぐらい鋭い方がいいかもしれないとユウイチは思うのであった。



 回転料理屋のオープンから二ヶ月が経ったある日のこと。


「ユウイチさん、聞いて下さい。

 貴族店も盛況になったそうですよ!」


「やはりそうなったか!」


 リリアの報告を聞いたユウイチは、してやったりの表情を浮かべた。


「気位の高い貴族に足を運ばせるなんて、一体どうやったんですか?

 まさか料理を流すのを止めたとか……

 でも、それだと普通の料理屋と変わらないですね」


 料理の回転しない料理屋は普通の料理屋である。


「いや、ちゃんと料理は回っているぞ」


「……はぁ、じゃあ何も変わっていないじゃないですか?」


 ユウイチの言っていることは、まるで前世のとんちの得意な小坊主坊が解く謎なぞの様である。


「リリア君、確かに料理は回っている。

 但し、今までと違うのは料理台と料理人、そして給仕係が一緒に流れていることだ。

 台に乗って流れてきた料理人が目の前の客から注文を聞いてその場で料理する。

 そして出来上がった料理は係の者が給仕する。

 これは貴族が懸念している点を見事にクリアしている。

 だから、貴族達は来店する気になったのだろう」


 狙いがバッチリと当たったユウイチはいつになく饒舌である。


「それって、詰まりは流れてるのは料理じゃなくて厨房じゃないですか!!」


 ユウイチの説明を聞いたリリアのツッコミが事務所に響いた。


 だが、リリアに説明し終えたユウイチは腕を組み満足そうな表情を浮かべている。


 それを見てリリアは"最後に回ったのはユウイチさんの口だな"と思ったのである。



 後日談。


ー国王の晩餐ー


「陛下、晩餐の用意ができましてございます」


「う、うむ、分か、ったぁ」


 執務を終えてマッサージ機で癒されている国王に侍従長が告げた。


「巷で噂になっておる回転料理とやらは未だ楽しめぬのか?」


「はい、陛下。

 検討はしておるのですが、難航しているようでございます」


 国王は謁見の度に話題に上る回転料理屋が気になって仕方がない様である。


「あい、分かった。

 引き続き善処せよ」


「はい、畏まりました」


 侍従長はそう答えたものの国王が市井の料理屋に赴くとなると色々と調整が必要である。


 警備態勢の検討と準備だけでも短く見積もっても一ヶ月以上はかかるのである。


 そこで侍従長は料理長に王城で再現できないものかと相談してみた。


「料理長、今日も陛下に催促されてしまったのだが、どうしたものかと思いましてな?」


「陛下のスイーツの制限だけでも大変なのに、今度は回転料理なんかをご所望とはね」


 相変わらず国王は食後のスイーツを所望しているようである。


 夜な夜な厨房に忍び込まれては堪ったものではないと、侍従長は適度にスイーツを出して国王の不満のガス抜きをしているようである。


「陛下の要望に応えるのが私どもの務めですからな。

 大変などと言えば罰が当たりますぞ」


「こりゃぁ、相変わらず手厳しですな」


 料理長が侍従長に窘められているように聞こえるが、これは二人の間で行われているお約束のようなものである。


「それで何か名案でも浮かびましたかな?」


「噂の料理屋を見に行きましたが、要はどうやって料理を回転させるのかですよね」


 そう答えながら料理長はポケットからメモ帳を取り出して"パラパラ"とページを捲っていく。


「代々、使われてきたメインテーブルにあのような細工はできませんぞ」


「それは心得てますよ、侍従長殿。

 でも、これなら細工する必要なしですよ」


 そう言って料理帳は、お勧めの対策を書いたページを侍従長に見せる。


「ほう、これなら確かに料理が回りますな」


「でしょう!

 それに準備と片付けに時間がかかりませんよ」


「料理長、これで行きましょう。

 いや、これしかありませんな!」


「分かりました。

 では、取急ぎ準備します」


 成功すれば国王の催促から解放される侍従長はこれでいくと決断し、侍従長の相談から解放される料理長も二つ返事で答えた。


 そして三日後の晩餐で遂に国王の要望が叶った。


「余は朝から晩餐が待ち遠しくて仕事が手に付かなかったぞ!」


「陛下、お仕事はきちんとこなして頂かなくては困ります」


 国王はまるで前世の運動会前日の小学生のように"ワクワク""ソワソワ"していたようである。


 日課になっているマッサージ機での癒しもそこそこに国王は王族専用の食堂に入っていく。


「ここに座って待っておれば良いのだな」


「はい、陛下。

 料理が回って来ますので、お好みの物を給仕にお申し付け下さい」


 いつもとは違う円卓を目敏く見付けて国王が席に付いた。


 その円卓にはテーブルを半分に仕切るカーテンのような物がぶら下がっている。


「そ、そうか……

 余が自ら取る訳ではないないのだな」


 庶民店のシステムでは自分で取ると聞いていた国王は少し残念そうな顔をしている。


「お手数でなければ、陛下自らお取り頂いても結構でございます」


「おぉ、そうであるか。

 "郷に入っては郷に従え"と申すからな、余も自ら料理を取ろうではないか」


 できる部下の鑑である侍従長はすぐに機転を効かせて国王を喜ばせた。


「では、始めさせて頂きます」


「あい、分かった」


 料理長の合図で国王の晩餐が始まった。


 身を乗り出さんばかりに凝視する国王の前を数種類の料理が通り過ぎていく。


「どうした、同じ料理か回っているではないか?」


 回転料理が初めての国王はシステムが把握できておらず困惑している様である。


「申し訳ございません。

陛下が何かお取りになりませんと場所が空きません故、新たな料理は出て来ません」


 座っているのは国王一人なので当然と言えば当然である。


「おお、そうであるな。

 これは余が悪かった」


 素直に謝った国王は慌てて目の前の料理に手を出した。


「むむ、慌てて肉料理を取ってしまったわ」


 常日頃から前世のフランス料理のフルコースのような食事をしている国王は食べる順番が決まっているため、取った肉料理を戻そうとした。


「陛下、一度取った料理は絶対に戻してはなりまん」


「そ、そうなのか……。

 それは決まりなのだな」


 戻そうとした手を止めて国王は肉料理を目の前に置いてナイフ&フォークで食べ始める。


 それを見て侍従長は静かに頷いていたが、国王一人なのだから別に取ろうが戻そうが問題はないはずである。


「うむ、いつもとは味が違うように感じるな」


「左様でございますか」


 これは完全に国王の気のせいである。


 恐らく、前世の新幹線の車内で食べる駅弁が美味しいのと同じ理屈であろう。


 国王がシステムに慣れて晩餐は特に問題もなく進んでいく。


「いよいよ、スイーツであるな」


「好きな物をお取り下さいませ」


 いつもは制限されているスイーツが次から次へと回ってくる。


 国王は大喜びで片っ端から手に取って円卓が皿で埋まってしまったのはご愛嬌である。


「陛下、ご満足いただけましたか?」


「うむ、余は満足であるぞ」


 こうして国王は晩餐を終えて意気揚々と食堂を後にした。


「侍従長、これは物置部屋に片付けてもいいんですよね」


「あぁ、もう必要ありませんからね」


 返事を聞いた若い従者が本日のために用意した、前世の中華料理店でよく見かける"クルクル回る円卓"を運び出していった。

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