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忌子の冒険譚

作者: 亡霊愛
掲載日:2026/01/02

この物語は、魔法がすべてを支配する世界で、ただ剣一本を握ることしかできない少年の、静かなる闘いの記録です。

魔法は呼吸するだけで体に入り、念じるだけで炎を呼び、空間を歪める。

そんな当たり前の世界で、主人公・レイスは「粒子に触れるだけで吐き気がする」体質です。

生きているだけで苦痛を強いられ、村では「呪われた子」と呼ばれ、家族からも遠ざけられる。

それでも彼は、父親の遺した錆びた鉄剣を握り、毎日素振りを繰り返していました。

なぜか。

自分でもよくわからない。ただ、剣を振っていないと、自分が消えてしまいそうだったから。

この物語は、最初から強い主人公ではありません。

弱く、脆く、痛みを知りながら、それでも剣を離せない一人の人間が、少しずつ、少しずつ強くなっていく過程を描いています。

派手な魔法バトルやチート能力はありません。

ただ、剣と肉体と、意志だけで世界に抗う姿を、丁寧に描いていきたいと思っています。

「魔法がすべて」の世界で、「剣だけ」で生きる意味とは何か。

レイスがその答えを探す旅を、もしよければ一緒に眺めていただければ幸いです。

どうか、よろしくお願いします。

世界は「マナ・グリッド」と呼ばれる量子魔力の網で覆われている。空には人工の星々が浮かび、夜空を青白い光で染め上げる。それらは帝国の監視衛星で、地上のあらゆる魔力の流れを追跡し、異常を検知する。地面には魔力回路が埋め込まれ、街路や建物に脈打つように走り、住民たちの生活を支えている。人々は生まれた瞬間から「マナ・コア」を体内に埋め込まれ、空気中に漂う微細な魔力粒子を呼吸や皮膚を通じて自然に取り込み、肉体を維持し、魔法を発動させる。粒子は生命の糧であり、欠かせないものだ。取り込めない者は、ただ生きているだけで苦痛を強いられる。

そんな世界で、レイス・カルヴァは「呪われた子」と呼ばれていた。村の辺鄙な集落で、家族からも遠ざけられ、孤独に育った。魔力粒子に触れるだけで激しい吐き気と頭痛に襲われ、時には意識を失う体質だった。他の者たちは空気中の粒子を無意識に吸い込み、肌から取り入れ、日常を過ごしている。だがレイスだけは違う。粒子は彼の体を拒絶し、肺に入るたび胸が焼けるように痛み、皮膚に触れるだけで全身が痙攣する。外に出るのも苦痛で、部屋に閉じこもりがちだった。それでも、彼は村はずれの廃墟で毎日剣を振っていた。父親の遺品である錆びた鉄剣を握り、素振りを繰り返す。息が上がり、腕が震え、吐き気が込み上げてもやめなかった。剣を振るう時間だけが、孤独を忘れさせてくれた。

剣は刃こぼれだらけで、先端は欠け、柄の革はボロボロに剥がれかけている。それでもレイスにとっては唯一の支えだった。やや細身の体は、毎日剣を振るう稽古でそこそこの体躯を保っていた。筋肉はまだ薄く、肩や腕にわずかな張りがある程度だが、動きに無駄がなく、握力だけは人並み以上だった。

ある日、帝国の「浄化部隊」が村に現れた。黒い制服に身を包んだ十数人の兵士たち。肩に輝く徽章は、帝国の象徴——量子結晶のマークだ。彼らの目的は、欠損者を「マナ汚染源」として根絶すること。帝国の法では、魔力を使えない者は社会の負担であり、排除対象だった。村人たちは怯え、すぐにレイスを差し出した。広場に引きずり出されたレイスは、地面に膝をつき、剣を握りしめていた。

部隊長は40代の男、ガードナー。体躯はがっしりとしており、首筋の筋肉が太く張り、腕の血管が浮き出ている。魔法の使い手だが、好んで剣を携え、魔力で強化された刃を振るうことで知られていた。「こいつは……魔法が使えない。殺す価値もない。ただのゴミだ」ガードナーは吐き捨て、腰の剣を抜いた。剣身が青く光り、魔力の粒子が渦を巻く。刃の長さは1mを超え、振るうだけで空気を切り裂く音が響く。

他の隊員たちは周囲を取り囲み、冷ややかな視線をレイスに向けていた。「隊長、そんなガキに剣を抜く必要ありますか? 魔力の一撃で終わりですよ」一人が嘲笑う。他の者も頷き、疑問の色を浮かべる。だがガードナーは無視し、剣を振り上げた。「帝国の法は絶対だ。例外は許さん」

その瞬間、レイスは反射的に自分の鉄剣を構えた。ガードナーの魔力剣が振り下ろされ、激しい衝撃がレイスの腕を襲う。ガキン、という金属の悲鳴。レイスの体が後ろに吹き飛び、地面を数メートル転がった。腕が痺れ、指先から血が滴り、肩が外れそうな痛みが走る。息が詰まり、視界が一瞬白くなった。

それでも、レイスはすぐに体を起こした。膝をついたまま、ゆっくりと立ち上がり、剣を握り直した。息は荒く、顔は青ざめ、唇を噛んで痛みを堪えている。瞳には怯えがあったが、剣を構える手は震えていなかった。

「……まだ、終われない」

ガードナーの目がわずかに見開く。「……何だ、これは。俺の剣が……止まった?」

隊員たちがざわつく。「隊長、どういうことだ? あいつの剣、ただの鉄くずじゃねえのか?」 「魔法を使えないはずなのに……魔力の刃が弾かれたぞ」疑問の声が広がる。ガードナーは剣を収め、レイスをじっと見つめた。表情は変わらないが、瞳にわずかな興味が浮かぶ。「面白い。お前、剣を扱えるのか?」

レイスは黙って頷いた。言葉が出なかった。吐き気が込み上げ、魔力の残滓が体を蝕むが、剣を離す気はなかった。

ガードナーは隊員たちを制した。「文句を言うな。こいつを連れて帰る。帝国の法に則って、処理する」隊員たちは不満げに顔を見合わせたが、隊長の命令に逆らえなかった。「隊長、欠損者を街に連れ帰るなんて、前例がないぜ」「リスクが高いんじゃないか?」そんな囁きが交わされる中、レイスは縄で縛られ、部隊の輸送車両——魔力で浮遊する馬車のようなもの——に載せられた。

旅は数日かかった。荒野を横切り、魔力回路の道を進む。レイスは車両の隅で縮こまり、剣を膝に抱えていた。隊員たちは彼を避け、時折嘲りの言葉を投げかける。「おい、欠損者。お前みたいなのが生きてるだけで、魔力の無駄だぜ」ガードナーはほとんど口をきかず、ただ前方を見つめていた。

やがて、彼らは帝国の辺境都市、ストームゲートに到着した。街は高さ50mの壁に囲まれ、門には魔力バリアが張られている。内部は賑わい、商人たちが魔力結晶を売りさばき、魔導士たちが空中を浮遊する。ガードナーはレイスを連れ、街の中心にあるギルドハウスへ向かった。それは「鋼の連盟」と呼ばれる、剣士や傭兵を集めた大規模なギルド。建物は鉄と魔力合金でできており、内部には訓練場と宿舎が広がる。ギルドマスターは老練の男、バルド。筋骨隆々で、背中の筋肉がシャツを押し上げるほどだ。

ガードナーはレイスをバルドの前に突き出した。「こいつは孤児だ。魔法は使えないが、剣を握るだけの力はある。好きに使え。帝国の浄化対象だが、俺の責任で預ける」バルドは眉をひそめ、レイスを値踏みするように見た。「隊長、欠損者をギルドに? 面倒なことになりませんかね」ガードナーは肩をすくめ、「お前のギルドは剣士の巣窟だろ。魔法に頼らない奴が必要になる時もあるさ。扱いは任せる」そう言い残し、ガードナーは去っていった。隊員たちは最後まで疑問の視線をレイスに投げかけながら、街を後にした。

バルドはため息をつき、レイスに言った。「まあ、いい。掃除や雑用から始めろ。剣を振るう機会があれば、生き残れ」レイスは黙って頷いた。ギルドの隅で与えられた小さな部屋に剣を置き、初めての「居場所」を得た。だが、それは安らぎではなく、新たな試練の始まりだった。

まだ何もわからない。ただ一つだけ、確信があった。「俺は……剣でしか、生きられない」レイスは窓から外の魔力の光を見つめ、そう呟いた。街の喧騒が、彼の未来を予感させるように響いていた。

ありがとうございます。

レイスはまだ弱いです。

剣を振るっただけで腕が痺れ、魔力の残滓に体が震え、立ち上がるのもやっと。

それでも剣を構え直した瞬間、ほんの少しだけ、彼の瞳に光が宿った気がしました。

私自身、その一瞬を書いていて胸が熱くなったのを覚えています。

これからレイスは、鋼の連盟という場所で、掃除や雑用から始まります。

魔法に頼らない剣士たちが集うギルドで、彼は「欠損者」としてどう生きていくのか。

少しずつ体を鍛え、剣を研ぎ、痛みを知りながら強くなっていく過程を、

焦らず、丁寧に描いていこうと思っています。

感想、指摘、応援、どんなものでもいただけると本当に嬉しいです。

特に「ここが弱い」「この描写が刺さった」「この先どうなるんだ」みたいな声は、

執筆の大きな力になります。

次回は、ギルドでの初日と、初めての「剣を振るう機会」が訪れるかもしれません。

レイスがどう変わっていくのか、ぜひ見守っていただければ幸いです。

それでは、また次の更新で。

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