ヴァンダル入隊
試験終了後、葵達合格者はヴァンダルの基地と思われる場所に来ていた。
「ここがヴァンダルの……」
葵はあたりを見渡す。廃ビルのような外観に対して内装は生活感のあふれる、まるで秘密基地のようなところだった。
「何だか、秘密基地って感じでワクワクするじゃねぇか」
合格者の一人がそう呟いた。男勝りな喋り方をしていたが、キュートな金髪が特徴の少女だった。
「ここの基地には三人か、どうせなら本拠地にでも行きたかったんだけどな」
不満げにそう零したのは、怪しげな雰囲気を纏った男だった。この場にいる最後の合格者である。
「やあやあ諸君!ようこそヴァンダルへ!!」
陽気な声をあげながら施設の扉が勢いよく開かれる。扉の先にいたのは華美な装飾のついた軍服を着た女だった。女は嬉しそうに三人に近づく。
「待っていたよ私は!!君らの世代は特に優秀!その中でも選りすぐりの人間が私のところに来ると知った日にはどれだけ喜んだことかッ!!」
女は一方的に語る。まるでそこに男女の壁など一切ないかのように男も女も等しく我が子のように抱きしめていた。かく言う葵も例外ではない。
「マラソン一位のメフィラス、次いで二位の神崎葵。そして二次試験で美しい完封勝利を収めたライア!こんな人材をここに送ってくれる上層部のなんたる慈悲深きことかッ!!」
女はヴァンダルに心酔しているようだった。恍惚とした表情で虚空に語り掛け、感謝をしていた。
「なあそろそろあんたのことを教えてくれよ。知らないやつに抱きしめられたいと思う特殊な趣味は生憎持ってなくてな」
男勝りな女、もといライアと呼ばれたその少女は気だるげにそう言った。先ほどまで秘密基地にはしゃぐ子供のようだった姿とは似ても似つかぬ別人のようだった。
「失礼、少し騒ぎすぎちゃったわ」
女は冷静さを取り戻した。
「私の名前はシノノメ。まあ分かる通り本名じゃないわ。ここのリーダーをやっている少しだけえらい人間よ。気軽によろしく頼むわ」
「あたしの名前はライア。ヴァンダルに来た理由は……まあ暇つぶしみたいなモンだ」
シノノメの自己紹介を皮切りにその場にいた人間の自己紹介大会が始まる。
「俺の名前はメフィラス。ここに来た理由は星の導きだ。メフィーとでも呼んでくれ」
星の導き。聞きなれない言葉にその場にいた全員が困惑していた。
「俺には星の呼び声が聞こえる。それに従って生きているんだ」
メフィラスは空に手を翳した。特段何かが起こるわけでもなかったが、メフィラスは満足げに天を仰いだ。瞬間、葵は察した。この二人は関わってはいけないタイプの人間であると……。
「わ、私の名前は神崎葵。ここに来た理由は……自分探しです!よくアイドルと間違えられるけど全然他人なんで!よろしくお願いします」
我ながらあまりにも雑なごまかし方に思わず心の中で笑ってしまう。特に変装せず、偽名でもない。潜入をなめているとしか思えないが、実際にバレていないのだから驚きである。
「あっはっはっ!暇つぶしに星の呼び声とやらに自分探しか!!強者の気持ちは分からんなぁ!!」
シノノメはまるで狂気を宿しているかのように高らかに笑った。手を大きく広げ、大げさに笑い声をあげる。葵はその姿を見て少しだけ恐怖を覚えるのだった。
「それじゃあ私たちは少し仕事があるから、三人は適当に休憩室で休んでてちょうだい」
シノノメはそう言い残すと、他の人たちを連れてどこかへ去ってしまった。
「なあ、あの女なんかやばくねぇか?」
三人取り残された状況でそんなセリフを吐いたのはライアだった。
「ま、まあ確かにちょっとおかしな人かも?」
「あぁ、あれは完全に異常者のそれだ」
こうして入隊一日目にして早速部隊のリーダーが三人の要注意人物リストの一人目になるのだった。
「いやはや、三人とも元気そうで良かったよ」
シノノメはモニターと睨めっこしながらも三人の話をほかの隊員と話していた。
「いいんですか?シノノメさん絶対あの三人のファーストコンタクト最悪ですよ」
「まあ舞い上がってしまったのは認めざるを得ないわ……でもまああの子たちはいづれ本部に異動する器、仲良くせずとも何とかなるわ」
そう言ったシノノメは再びモニターにかぶりついた。
休憩室にて、葵達三人はサンドイッチをほおばりながら話していた。
「なあ葵?お前そういえば例のアイドルと名前同じだよな。偶然か?」
「……当たり前だよね?タイムスリップでもしない限り今話題のアイドルと一緒になんてならないよ」
出会ったときの敬語はすっかりとなくなって、今は三人の間に壁を感じることも減っていた。
「…そう言うことじゃないんだけどなぁ、まあいいか……」
何故か納得していないライアをよそにもう一人の合格者、メフィーはまた天に手を翳していた。
「メフィーは何処からやってきたの?メフィラスって名前日本じゃ聞かないけど……」
「俺は自分の出自については詳しくわからん、ただ星の呼び声にだけ従う使者だからな」
一見、不思議で不気味なように見えるこの男だが、話してみると意外と話しやすく、不思議キャラだと思えば葵も案外仲良くできそうだった。
「はっはっはっ!出自が不明って、お前こそ自分探しするべきじゃねぇの?」
「ちょ、ライア??流石に失礼じゃ……」
だがライアのその言葉にメフィーは不快になるどころか、ニコッと微笑んだ。
「俺は自分のことよりも使命を果たすことが大切だからな。だがいつかは自分探しをしようか……」
メフィーは難しそうに腕を組んだ。どうやらこの悩み事に星は答えてくれないようである。
「ここで少し二人に聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
葵は話を切り出した。
「なんだ?聞くだけならタダだからな。話してくれ」
「ありがとう、二人はまだヴァンダルに心酔している様子はないから今しか聞けないんだけど……ヴァンダルが今何をしようとしているか知ってる?」
葵のそれは、賭けでもあった。何らかの形でシノノメにばれでもしたら葵はもう潜入はできないだろう。二人目を送るにしてもそれは一年以上先のことだ。それでは計画に間に合わない。
「何しようって……正義執行とやらじゃないのか?ここなりの正義とやらを押し付けるやつだろ」
葵はその言葉で確信した。ライアは確実に仲間に引き込めると。だがメフィーだけは未知数だった。星の呼び声とやらがどっちの見方をするのか……それだけが不安要素でもある。
「二人に頼みがある……どうか真剣に聞いてほしい。あと絶対に他言しないでほしい」
「なんかただ事じゃなさそうだな?いいぜ、聞いてやるよ。考えるのはそれからだ」
「俺も聞きたい。星の呼び声もきっと答えてくれるだろう」
二人の心の準備ができると、葵はその衝撃的な一言を放った。
「私と一緒に、ヴァンダルを滅ぼさない?」




