第二次試験
葵のゴールから一時間後、60人目の踏破者が現れ、一次試験が終了した。
「皆さま、一次試験突破おめでとうございます。しかしここから先は己の命運をかけて戦っていただきます。第二次試験に関してはここの施設で行っていただきます」
そういって試験監督が指したのは一次試験のゴールのすぐそばの建物だった。
「ここは……」
建物は巨大で、中世を感じさせるような風情ある闘技場だった。葵もこの建物に覚えがあった。数年前に話題にもなったが、理由も明かされずに建造された建築物であった。
「おぉ!あんたはさっきのじゃねぇか!!」
再び葵に声をかけた人物がいた。一次試験でスタートした時にいた男だった。
「いやあ、あんたが真っ先に走っていったときどうなるかと思ったさ。あんたみたいな若い女の子には負けらんねぇってやる気になったわ。ありがとな」
「こっちこそありがとうございます」
正直、葵は男がゴールするなどとは微塵も思っていなかった。だが今の状況を見て、少しだけ見直したのも事実だ。
「どうやら試験は二次までしかないらしいな。どうだ餞別にこれでも受け取ってくれ」
男はそういうと、一つの髪飾りを渡してきた。
「娘にあげるつもりだったんだが、こんな状況じゃあもう会えそうにないからな。あんたみたいな若くて可愛い子にあげりゃあ髪飾りも報われるってもんだ」
「ありがとうございます!…私からもこれあげます!!」
葵はポケットを弄って一つのものを取りだした。
「なんじゃこりゃ?」
葵が取りだしたのは一つの石だった。石といってもただの石ではない。魔術結晶である。それもまだ術式の焼き付いてない状態のものだ。
「お守りです。もしかしたらいざという時に守ってくれるかもしれませんねっ!!」
術式の焼き付いていない魔術結晶は何の能力も持たない。だからこそのお守りだ。
「はっはっは!こりゃおもしろい。互いに合格してヴァンダルで会おうな!!」
二人は握手を交わしてその場を去った。
「これより二次試験の説明を開始します」
だだっ広い闘技場の真ん中で60人が一斉に話を聞いていた。この闘技場全体を使う競技なんてあるのだろうか。
「貴方達に行っていただくのは一対一の格闘戦。ただし勝つためにはどんな手段も問いません」
ここにきての原始的な決闘方式。だが60人を半分の30人ほどにするのには最適だ。
「対戦相手は各々のスマートフォンに送信します。本日は疲れを十分に癒してください」
そういうと今日は解散となった。二次試験が始まるのは明日の朝から。試験監督曰く、参加者は闘技場の観客席での観客が許可されているらしかった。
「なんにせよ、今日は対戦相手を確認して寝よう……」
葵は眠い目をこすりながらスマホを開いた。
「……は?」
対戦相手、そこに記されていたの名前には全く見覚えのないものだった。……そう名前には。
「これって……」
名前とともに表示された顔写真には、よく知った顔。さっきの男の顔が映っていた。
「試験番号91番神崎葵vs試験番号54番篠田彰人。これより試合を開始するッ!!」
そうして葵対男の戦いは幕を開けるのだった。
「いやあ、運命ってあるみたいだな」
「まさかあなたと戦うなんて……」
互いに見合う。その目は昨日とは大きく異なっていた。
「ともに合格しようと言ったが、こうなったらしかたがないな」
「自分の道の為に、この手で勝利をつかみます!!」
その瞬間、葵と男の拳が交差する。威力、速度、ともに葵のほうが格上。だというのに葵の拳は空を切り、男の拳は葵の腹に深く突き刺さった。
「……ぐっ!?」
「マラソンじゃあ負けたが、こっちじゃまだあんたには負けらんねえな」
男は二度、三度と拳を打ち込む。葵も負けじと拳を突き出すが、一向に当たる気配はない。
「……なんでっ」
葵は考えた。雫ならどうしているだろうか。得物に頼った戦い方をしてきた葵には到底たどり着けない差を、目の前の男にも感じていた。
「にしても、随分と固いな。そろそろくたばってもいい頃合いだとおもうんだがな」
一発。一発でも入れれば形勢逆転は容易だ。だがそこまでにどれほどの拳を受ければいいのだろうか。アイギスを纏えないだけでここまで無力なのだと、葵は痛感した。
「あんた、そろそろ諦め時じゃないか?この試験はどっちかが倒れるか降参するまで、だ。俺も年端のいかん女の子をいたぶる趣味はない。だからもうやめようぜ?」
男は上から、諭すようで、少し嘲るようにそう言った。
「まだあきらめない……起死回生の一手は、まだあるッ!!」
葵は立ち上がると、拳を一気に突き出した。だが拳は当たらない。
「なら見せてみろ、その一手とやらを!!」
男の拳を葵は寸前で避ける。だが体勢を崩した葵に容赦なく次の手が迫る。
「うおおおぉぉぉぉぉぉおおっ!!」
葵は手を振り上げ、拳ではなく剣の型を意識して振り下ろした。
「……あがッ!!」
不意の一撃だったのか、男は苦悶の表情を浮かべる。
「私のこの手は拳じゃない……私の手は剣だ!!」
「ふざけたことをッ!」
葵は剣を振るうかの如く、手刀で攻撃する。日頃の鍛練のおかげか、葵は男を圧倒していた。
「……はあッ、降参だ降参。勝てる気がしないな」
男はそう言って白旗を上げた。気づけば男はボロボロで、戦闘の続行は不可能だった。
葵はふらふらと歩いて男の元に寄る。男もそれに気づいたのか葵のほうへ歩いた。
「今回は運が悪かったけど、貴方なら次回こそ受かると信じています!一足先に行って待ってますね」
「あぁ……俺はツイてないな。相手があんたじゃなきゃ、勝ってたろうにな」
男はそう言い残して闘技場を後にした。闘技場には歓声だけが激しくこだまするのだった。




