始まりの音
「星の呼び声、かな?」
ライアがそう言った瞬間、シノノメの背後から一発の銃弾が放たれる。
弾丸はシノノメの腕を貫き、ライアの頬をかすり、そのまま壁に埋もれた。
「ま、まさかメフィラス。君も敵だったとは……」
「許せ、星の導くままに従ったまでだ」
シノノメは腕を抑えながらもなんとか冷静さを保っていた。
「……交渉をしないか?」
葵の目の前に立つその今にも倒れそうな女は自分が経っている状況を理解してなお、身の程もわきまえず交渉を持ちかける。
「どういう…つもりですか」
葵はとめどなくあふれようとするものを少しでも漏らさんと、か細い声でそう問う。
「君たちの目的はヴァンダルを滅ぼすことだろう…?知っていたさ」
「だから何なんだってんだよ」
「私も協力する…だからここで私を助けてはくれないか?」
三人は驚愕した。それもそのはずだ。偉そうに交渉をしないかと持ち掛けてきたのにもかかわらず、その中身はなんとも醜いただの命乞いでしかなかったからだ。
「はッ!!なんだよみっともねぇ!」
ライアは嘲るようにうつぶせたシノノメの前にしゃがみ込む。
「少しあたしらのこと舐めてたみたいだなッ」
煽るようにデコピンをかましたライアにシノノメは腹を立てることもなく、ただただ沈黙を貫いていた。
「……なんとか言ってくださいよシノノメさん」
葵もシノノメに声をかける。
「私はそもそも誰も殺したくなんてありません!だから私にはあなたをどうこうすることはできない……」
葵自身もどうするべきか悩んでいた。ここで殺すのが最適解だというのは理解している。だがそれ以上に葵の人を殺したくないという優しさがそれを阻む。
なによりも葵の体もそろそろ限界を迎えているのだ。まともな思考力など今の葵に残ってはいなかった。
「……安心してくれ。君たちの裏切り行為については誰にも話していない。私を殺したら口封じにはなるだろうがいずれはバレのがオチだ。だったら私がその時は全力でサポートしよう」
シノノメの言葉を信じ切ることができるだろうか?否、あれ程ヴァンダルの思想に染まっていた人間が命の危機とはいえ、そこまで思想が舵を切ることはないだろう。
「…それでも私はあなたを信じたい」
「おいおい嘘だろ!?わかってんのか葵!こんなやつ絶対嘘ついてるに決まってるだろ」
「だったら…」
葵は静かに言った。
「だったらライアちゃんはここでシノノメさんを殺すんですか?殺せるんですか?」
少なくとも葵にそんなことはできない。だがライアは違った。
「葵がやんねえってんならあたしが殺るまでだッ」
ライアは灼熱の拳を思い切り振り上げる。それが振り下ろされたとき、シノノメは間違いなく死に至るだろう。
「待ってよライアちゃんッ」
だが葵の声もむなしく、ライアに届くことはなかった。
「アロケルッ!!!」
刹那、葵がアイギスを身に纏うと、すかさず二人の間に割って入り、その拳を受け止めた。
「落ち着いてライアちゃんッ!ここで殺しても何にもなんないよっ!!」
「で、でも…ここでやんなきゃあたしらが……」
「ライアちゃんはいつの間にそんな保身に走るようになったの?出会って間もないけど、私の知ってるライアちゃんはそんな子じゃなかったはずだよ!」
言われてライアはそっと手を引く。
ライアがいま戦っている理由はなんだ。それは「面白そう」という純粋な好奇心からだった。
「すまん、少し熱が入りすぎてたみたいだ」
「分かってくれて何よりだよ。ライアちゃんにもメフィーにも誰も殺してほしくないから……」
「あぁ、でもそのちゃん付はやめろ」
三人に笑いが起こる。一時はどうなるかと思ったが、何とか三人でやっていけそうだった。ちなみにシノノメはウイングに送り付けることとなった。
さあ始めるとしよう。ここがスタートラインだ。




