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アイギスの歌姫2  作者: 星輪 慧


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12/13

危機

 冷たい感触が葵の額をにらむ。


「どういうつもりですか……」


 もはや逃げるすべはない。今更ごまかそうと目の前の男を欺くことはできないだろう。


「ここならお前を始末してもあの二人にはバレない。さあおとなしく死んでもらおうか」


「いつから気づいていたんですか?」


 葵は必死に考える。今ここでどうすべきか、目の前に立っているのは銃の達人だ。下手に抵抗すればメロフォージの力があれど無事では済まない。銃を奪うなどもってのほか、蹴り一発入れることすらままならないだろう。


「初めて会った時からさ、気づかれないとでも思ったか?」


 正直変装を凝っていたわけではない。だがここまで早く見つかるとは、見通しが甘かったと言わざるを得ない。


「さて、向こうも終わったみたいだ。時間稼ぎもここで終わりにしようか」


 要人がトリガーに指をかけた。


 ──バァンッ

 

 一発の銃声が鳴り響く。


「……?」


 確かに銃声はした。葵は死んだはずだった。だが葵が感じたのは痛みではなく、全身に何かがかかる不快感だった。


 葵が目を開くと、そこには倒れた要人の姿があった。


「な、何が……」


 葵はあたりを見渡す。そこにはよく知った人物がいた。


「二人まとめて殺すつもりだったんだけどね…君は実に運がいい。君にはメッセンジャーになってもらおう」


「カ、カナリア司令…?」


 そこに居たのはカナリアだった。手には一丁の単発式の銃が握られている。おそらくこれで要人を殺害したのだろう。


「しずかに……私はもうこれでお暇させてもらうから葵は私に襲われたことにしておきたまえ」


 あまりに頼もしい助っ人。葵の命を救ってくれた恩人。そして何より今まで共に過ごしてきた仲間。だというのになぜだろうか、葵の眼に映るカナリアはとても残忍で、恐ろしく見えていた。


「おまえ無事かッ!!」


 カナリアが去った直後、ライアが葵の元へ駆け寄った。


「さっき誰かに襲われてたが、なんもされなかったのか?」


「うん、向こうの仲間だったから」


 ライアはそういわれると納得したかのように、葵の手当てを始めた。


「そんで?いったい何があったんだ?」


「要人さんに襲われた……」


 ライアは驚く。


「襲われたってまさか!?」


「ち、違う違う!!そう意味じゃなくて……」


 葵は必死に否定する。確かにシチュエーション的にはあり得ないことでもないが、ここはそういうのじゃないから実質ありえないのだ。


「私が元々ウイングにいたってのがバレたみたいで……」


「あぁそういうことか、ウイングってのはあの横入りしてきた連中だろ?」


 ライアがヴァーグと戦っている間、カナリア含むウイングの三人組が横入りしてきたとのことだった。そう三人組である。


「奏ちゃん……」


 葵は自分の身よりも先に奏の心配をしていた。


「人のこと気にしてる場合じゃねぇ!どうすんだよあのおっさんにバレたってことはほかのやつにもバレたってことじゃねぇのか!?」

 

 葵は言われて気付く。ほかの基地の人間ならいざ知らず、少なくともここの長であるシノノメに情報が渡っていないわけはないのだ。


「ライアちゃん、シノノメさんは何処に!?」


「あいつは確か牡蠣食って──」


 刹那、葵の腹部に強烈な痛みがほとばしる。ほかに形容しがたい純粋な痛みだ。


「一匹かと思っていたが、ネズミは二匹いたようだ」


 背後からシノノメの声が響く。


「んなッ!?いつのまにそこに居たんだ!?」


 驚くライアをよそに、葵の意識はどんどん遠ざかる。腹部からは暖かい血がとめどなく流れ、立つこともままならなくなっていた。


「さてライア、君は一体どっちの味方なのかな?」


「初めて会った時とは随分と話し方が変わってるじゃねぇか?ニセモンか?」


 ライアはどうすべきか考える。目の前のシノノメが偽物である可能性。それは限りなくゼロに近い。仮に偽物だったとて状況が変わることはまずないだろう。


「時間稼ぎは無駄だよ、どの道神崎葵を始末したら上層部に報告する。私を止めない限り無駄よ」


 ライアはその言葉を聞いてほっと、安心した。


「降参だ降参。別に葵と肩組む義理もないからな」


 おとなしく手を挙げるライアに、シノノメは疑うこともなく近づいた。


「それでいいんだ。どうやら神崎葵と肩を組む必要がありそうだな」


 シノノメは倒れた葵の肩を乱暴に持ち上げ、ライアにもう片方を押し付ける。


「はいはい…」


 ライアは気だるげに葵の体を持ち上げ……。


「っと見せかけてのドーンッ!」


 ライアの完璧な不意打ち。しかし拳がシノノメにヒットすることはなかった。



「危ない危ない。所詮ネズミの小さな脳みそでは私らの素晴らしさを理解できなかったか……なぜお前はそこまでして神崎葵を守るのだい?」


「分からねぇよ!だが知り合いの言葉を借りるのなら……」


 ライアは一拍おいてから言った。


「星の呼び声、かな?」

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