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アイギスの歌姫2  作者: 星輪 慧


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11/13

灼熱と歌と流星と……

「これより初めての任務の詳細を説明するッ」


 ブリーフィングルーム。葵達の目の前に立っていたのはシノノメではなく一人の男だった。


「シノノメは現在生牡蠣に当たって病院にいる。だから今作戦は俺が指揮を執ることになった。霧島要人きりしまかなめだ」


「生牡蠣ィ!?あたしらが訓練してるときに何喰ってやがるんだ!?」


「シノノメは超が付くほどの海鮮好きだからな。無理もない。……話を戻すが今回の任務は東京で発生した地球外特異生命体ヴァーグの始末だ」


「ヴァーグッ!?」


 驚きの声をこぼしたのは葵……ではなくライアだった。


「どうしたライア、不満でもあるのか?」


「不満ってワケじゃないが、どうもヴァーグは嫌いだ」


 普段御茶らけているライアの顔には恐怖とも怒りともとれる表情が浮かんでいる。どうやらライアにとってヴァーグはあまりいいものとは言えないらしい。


「戦闘狂のライアが怯えるとは珍しい」


「何言ってんだおっさんッ!やらねぇだなんて言ってないぜ!!」


「あぁ、それでいい。まあもとより拒否権はないから変わらんがな」


 霧島はライアを説得した後、今度は葵とメフィーを説得しようとした。


「あのじゃじゃ馬と違って二人は心配ないな。もちろん来てくれるよな?」


 もちろん葵に拒否する理由はなかった。ヴァーグはこの世に存在してはならない侵略者なのだ。「任せてください!」葵は言った。「俺は星に従うだけだ…」メフィーも首を縦に振る。


「ならいい、じゃじゃ馬は乗りこなすのは困難だがうまく使えば相当強力だ。初任務、健闘を祈るぞ」


 霧島は資料を持って部屋を立ち去る。その場に残っていた三人は作戦会議をしていた。三人は互いの実力を認識していないがゆえに、それは日が暮れるまで続いたのだった。




 ウイング本部。


「葵……どんどん遠くにいっちゃうなぁ」


 窓からその手を握ろうと手を伸ばす。届くはずのないそれは虚しく、愚かであったろうか。


「琴音じゃないか、珍しいな学校はどうしたのだ?」


「雫さん、学校は今日は振替休日でやってないです」


「そうか……。葵が居なくなって寂しいだろう。だが今はただ待ってやるのが一番だろうな」


 雫は伸ばされたその手を握り締める。


「私、思うんです。もし自分がセイレンだったらって……」


 雫は目を丸くした。


「琴音がか?」


「雫さんも葵もカナリア司令も奏ちゃんでさえも皆世界のために戦ってるんです……私だけ指をくわえているのはなんだか悔しいです」


 雫は琴音のその言葉を聞いてから、琴音を人気のないところへ連れて行った。


「これは極々一部の間でしか共有されていないことだ。神崎には言わないと約束はできるだろうか」


「も、もちろんです。葵には絶対に言いません」


「そうか、ならばいいだろう。単刀直入に言うぞ、少し前に行った身体検査の結果、白川琴音…君はわずかに、ほんの微かではあるがセイレンとしての兆候がある」


 琴音の額に汗が流れる。


「セイレンとしての兆候?」


「あぁ、とはいえこの程度であれば相当の訓練を積まない限りアイギスを纏うものにはなれないだろう」


 ほっ、と琴音は息をつく。戦い気持ち半分、だが琴音には戦いに身を置く覚悟ができていなかった。


「琴音はただの女子高生だからな。神崎が異常なのだろう」


 夏祭りの事件。あの一件がなかったら葵はいま何をしていただろうか。ウイングもアイギスもヴァンダルも無縁の場所で、琴音と仲良く暮らせていただろうか。否……、


「葵はあのお母さんの娘ですからね。きっと誰かのために戦う存在になってたと思いますよ。それがアイギスでなくても、です」


「ほう、随分と知ったように言ってくれるな」


「分かるんです。葵のことなら……」


 そう言った琴音の顔には不安の感情がうかがえた。大好きな葵が居なくなってしまう。そう考えただけで琴音にとっては不安で、恐怖を抱くものだった。


「……ッ!?」


 雫が何かに気づいたように即座に構えを取る。


「琴音、近くでヴァーグが発生したようだ。すまないがすぐに向かわせてもらうぞ」




 銃声が鳴り響く。数多の人間がいともたやすく目の前のヴァーグに薙ぎ倒される。


「なんだぁこりゃ?ヴァンダルにもこんな腑抜けがいるなんて驚いた」


 遅れて到着したライアがそんなことを言った。


「ライア!いったい何処に……って銃はどうしたッ!?銃は何処に置いてきたんだッ!!!」


 要人は腕を負傷したのか、血の滲んだ包帯を巻き、患部を抑えていた。いや、今はそれよりもライアだ。先んじて戦闘に参加していた葵とメフィーのおよそ五分後に参加したライアの姿は、そこに居る誰よりも目立っていた。


「あたしに銃は似合わねぇ!食らいやがれェ~ッ!!」


 銃を持たずにヴァーグに突進していくライア。よく見ると拳に炎のようなものを纏っていた。


「……あれはッ!?」


 葵は驚いた。バエルと乙女人形、そしてあの源流の魔女以外にも魔導士がいるとは思わなかったからだ。


「…魔術。お前らみたいな一般人は見る機会はないと思うが、ごく一部の才能を持った人間が持つ特殊な力だ」


「魔術…フィクションの世界だけじゃなかったんですね」


 葵は適当にしらばっくれる。勿論知らないはずはない。寧ろ葵は魔術の存在などあの魔女の次に知っている存在であるのだ。


「あぁ、ヴァンダルが二番目に追っている力だ」


「二番目?じゃあ一番は?」


 葵は要人がこの後何というのか、察しが付いていた。


「…アイギスだ。バエル事変、というのは知っているだろう?」


「はい、あの世界を揺るがした事件ですよね」


 バエル事変。それは世界を揺るがす大ニュースになった。中継の直後は考察で世間が騒然としていたものだ。自分勝手な憶測が神崎澄音を辱めていた。


 葵は要人もそんな人間の一人なのかと、嫌悪感を一握りの葵は抱いた。


「バエル事変の時、俺は遠くからではあるが彼女のその勇姿を見ていたんだ」


「だから、どうしたんです?」


 ……嫌な予感。


「遠くだが、中継で見ていたやつらとは違う……」


 葵の額に汗がにじむ。これ以上何もしゃべるな、葵がそう思っても要人は止まることをしらない。


「ずっと思ってたんだ、なぜお前がここにいるんだと──」

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