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6-2甘い男《その後の話》悪夢。





◆◆


それでも、やはり夢は見てしまうのだ。

寝ている間のことだから自分ではどうにも制御できない夢を。


『カーマイン君、残念だよ…。』


かつての義父が悲し気な表情で俺を見ている。

ここはどこだ?

確か今日はユーレアを伴った初めての夜会だったはずだ。

両家の共同事業を停止してから初めて顔を合わせてしまう場面で気不味かったがあいさつをした後のことだ。

二三言葉を交わしその場を離れようとした俺に元義父が言ったのだ。


『たしかにメリアは貴族夫人として堪えが足りなかったのかもしれない。だけど入り婿の僕にはあの子の気持ちがわかるよ。結婚前から恋人がいる相手との未来に諦めを抱くのはしょうがないとおもうんだ。』


『……ユーレアとは、妻とは、メリアが消えてからのことです。』


ふるふると首を振り一層悲しそうな目で俺を見る。


『人の口には戸が立てられない、と言うだろう。バーレイズ伯爵家の使用人を辞した者たちがあちこちで話をしているのを知らないのか?』


『まさか…』


たしかにユーレアを妻に迎えた際に辞職したメイドは居た。辞職理由は『元メイドに仕える為に働きたくはない』というものだ。


『カーマイン君が出席しない社交場ではもう広まり切っている。もし事実が違っていたとしても他者の認識はそうなってしまっているよ。』


『そんな…』


『もしそれが誤解であるのなら()()()バーレイズ伯爵夫人は社交に出て噂を払拭する努力をしなくてはいけないけれど、先ほどの挨拶で彼女には無理そうなのはわかった。君は…困難な茨の道を選んだんだね。せめて婚約を解消してくれていればあの子にも君にも違った未来があったはずなのに。』


『それは…っ』


俺が最初からメリアに提案していた事でした。でもそれを拒否したのは彼女です。…だなんて言えるはずもない。

結局は彼女(メリア)の計画に乗りユーレアを妻に迎えた後なのだから。


世間の評判は失踪した彼女を悪妻とし俺に同情する声とユーレアを認める声だけが、俺の耳には入って来ていた。

けれども社交場とは多角的な見方をし意見交換する場でもある。

そこに職を辞したメイドが話をばら撒いていたなんて…もう、ユーレアは社交場で立場を失ったも同義だ。それでも出ていくのが元義父の言う噂の払拭に繋がるのだが、ただでさえ優しい彼女にそんな重責は負わせられない。なぜなら俺が彼女を愛したのはその心優しさだからだ。


『今の妻であるユーレアのことは関係なく、メリアに負担をかけてしまったのは私の不徳の致すところです。』


『模範解答だね。まぁ、いいよ。()()()は自力で生きていけるだけの力を僕らや亡くなった前バーレイズ伯爵夫妻から与えられているから心配はしていないしね。ただ、君にはどれだけ後悔しても一度捨てたあの子に縋るような真似はしないようにと、忠告だけはしておくよ。』


先ほどまでの悲し気な顔から一変してスッと貴族の顔に戻ったノクオリオ伯爵はもう父親の顔ではなかった。




◆◆


「ぅ…ぅう…っ」


まだまだ悪夢は続く。

場面は変わって、次は学生時代からの友人と酒を飲んでいる。



◆◆


『…なぁ、お前たちは俺の噂を知っているか?』


『うわさ?あぁ…アレか、まぁ、お前も運が悪かったよな。愛人が妊娠したんだろ。でもだからって正妻にするなんて責任感からかもしれんが、あまりよくないことしちゃってさぁ。』


『メリア嬢は愛人を受け入れたのに将来を憂いて逃げたんだろ?正妻になったのに馬鹿なことしたよな。』


『学園での成績も常に平均をキープしていたあたり、淑女としての立ち回りも上手かったはずなのになぁ。』


『どういうことだ?』


『どうって、男を立てる心得を知ってるってことだろう。上位に名を連ねる者に男が多いのは優秀な淑女が男を立てる為に手を抜いてるからさ。たまに上位に名がある女は、王族や公爵を婚約者に持つか逆に婚約者を持たない文官志望の後がない必死なやつらだけだろ。』


『そこそこの成績を見極めるってのは、案外トップを目指すより難しいしな。』


『そーそー、俺も上位貴族様への忖度で成績を下にしてたのにさ~』


『ばーか、お前はただ単に頭が悪かっただけだろ?』


友人たちは笑いながら気遣いなのか何なのか、これ以上は話題に触れる気がないように話が逸らされた。


◆◆


「は…っは、ぅうう…ぅ……っ!」


真夜中に途中覚醒した俺は汗びっしょりで目覚めの悪さにまた気分が悪くなった。

この悪夢に魘されるとあちこち掻き毟ってしまうから肌も爪もボロボロで夏でも普段から首元から肌を隠す服しか着れないしもう何年も手袋を外せなくなっている。

どちらの悪夢のようなあの場面で、俺は居た堪れなくなって逃げ出した記憶が身を竦ませるのだ。



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