第4章 準公共機関の再設計ー形骸化する公共性の再構築
2024年度、全国で発生した介護サービス事業所に対する指定取消・停止処分は139件(注1)にのぼった。介護事業所の総数が全国で約23万に及ぶことを踏まえれば、この数字は全体のごく一部に過ぎない。しかし同時に、行政処分に至るのは重大な法令違反や不正が確認された事案に限られることを考えれば、これは表面化した氷山の一角であるとも言える。
一方、障がい者就労支援施設に関する不正の摘発事例については、自治体レベルで10数件から数10件が報道されているものの、全国を横断した正確な統計は現在も公表されていない。全国で数万規模に及ぶとされる関連事業所の実態を把握するうえで、この「統計の欠落」そのものが、制度的な管理不全を示す重要な事実である。
これらの数字が示しているのは、単発的な不祥事の多寡ではない。日本の福祉現場において、「福祉」の名を冠しながら実態を伴わない支援や、不正・逸脱行為が各地で繰り返されていること、そしてそれを国家として一元的に把握・検証する仕組みが十分に機能していないという、構造的な問題である。
問題は、単に一部の事業所におけるサービスの質が低いことにとどまらない。支援の実態が長年にわたり外部から検証されることなく、形式的な「支援」の名のもとに公的資金が流れ続けているという構造そのものが、制度として固定化されてきた点にこそ、より深刻な歪みが横たわっている。福祉や障がい者支援、NPO関連分野に投じられている補助金・委託費は、全体として数兆円規模に達しており、その一部でも検証不能な領域が存在することは、公共財政の観点からも看過できない。
こうした状況は、特定の施設や分野に限定された問題ではない。NPO団体や福祉関連機関をはじめとする準公共機関全体に広がる、公共性の形骸化という病理である。
その背景には、行政側の「丸投げ体質」と、補助金交付にとどまる形式的な関係性が存在している。行政は制度の設計と財源配分を担いながらも、現場との距離を広げ、直接的な責任や関心を持たないまま外部委託に依存してきた。その結果、問題が生じても委託先を変更することで責任が分散され、構造的な検証や改善が行われないまま、「誰も責任を引き受けない公共」が常態化していく。この責任の空白こそが、準公共領域における不正や劣化を温存してきた最大の要因である。
本章では、こうした準公共機関における不正や形骸化の実態を踏まえ、単なる取り締まりや規制強化による「排除」ではなく、行政と民間が連携しながら健全な再構築を行う「共育型モデル」の確立を提案する。これは、制度の透明性を高めると同時に、地域の実情に即した支援体制を守り抜くための、現実的かつ持続可能なアプローチである。
現在、支援の受け皿となる施設数そのものが限られているなかで、過度な規制や一律的な排除は、かえって支援の縮小や施設閉鎖を招き、支援を必要とする人々を制度の外へと追いやる危険性を孕んでいる。
そのため本章では、行政と民間が協働する合弁型の運営体制や、段階的是正プログラムの整備を通じて、「信頼」と「持続可能性」を両立させる制度設計の必要性を論じていく。
こうした視点に立ちながら、形骸化した公共サービスのあり方を根本から見直し、市民と行政の関係性を再設計することが求められている。あわせて、別章で提案した監査機関や倫理審査体制といった制度的枠組みを活用しつつ、「現場と市民の目線に立った行政」へと転換するための具体的方策を提示する。
すなわち、本章の核心は、行政の役割を「管理と配分の主体」から、「共感と協働を基軸とするパートナー」へと進化させる点にある。
※ 注1 ー 厚生労働省が2024年度に公表した行政処分件数に基づく。
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【4.1 準公共機関の構造解明】
では、ここでいう「準公共機関」とは、いったい何を指すのだろうか。
この問いに、明確かつ一貫した定義をもって答えられる人は、決して多くないはずである。
一般に準公共機関とは、国や地方自治体から出資・認可・委託など何らかの関与を受けつつ、公共性の高い事業を担う団体を指すとされている。そこには、独立行政法人や特殊法人のように制度的に位置づけが明確な組織から、公益法人、社会福祉法人、さらにはNPO法人や各種非営利団体といった、性格も責任構造も大きく異なる組織群が混在している。
本来であれば、これらは制度上、明確に区別されるべき存在である。しかし現実には、「公共的な役割を担っている」「公金が投入されている」という一点をもって、極めて幅広い組織が「準公共」という言葉のもとに一括りにされてきた。その結果、公共性の度合いと、責任の所在、監査の厳格さが一致しないという、構造的な歪みが生じている。
本章において焦点を当てるのは、国の関与が制度上明確で、監督や評価の枠組みが整備されている組織ではない。むしろ、行政から一定の資金や権限を受けながらも、日常的な監視や実地検証が行き届きにくい、比較的「目の届きにくい」準公共機関である。福祉や就労支援、地域支援といった生活に密着した領域ほど、この傾向は顕著に現れている。
そのため本章では、便宜的にではあるが、準公共機関を三つのグループに分けて整理し、議論を進めていく。この分類は、単に理解を容易にするためのものではない。準公共領域において、なぜ不正や形骸化が繰り返され、なぜ「誰も責任を取らない公共」が生まれてきたのか――その背後にある、見えにくい責任構造を浮かび上がらせるための手がかりでもある。
この「分ける」という作業を通じて、本章は、個別の不祥事や逸脱行為を超えた制度そのものの限界と、そこから導かれる是正の方向性を明らかにしていく。
■ A類群:制度執行型
A類群とは、法律や政省令に基づいて設立され、国や自治体の政策を実行段階で担う組織群である。
独立行政法人、特殊法人、官民合弁による公社的組織などがこれに該当する。
これらの機関は、所管官庁が明確であり、予算・中期目標・業績評価といった制度的枠組みが一応は整備されている。その意味で、公共性と制度的正統性は高い。
しかし一方で、評価が形式化しやすく、現場の実態よりも「計画達成」や「数値目標の充足」が優先される傾向がある。また、天下りや責任の官僚的分散によって、失敗や不具合が組織内部で吸収・不可視化されやすいという問題も抱えている。
A類群の問題は、公共性の欠如ではなく、公共性が制度疲労を起こしている点にある。
■ B類群:委託・補完型
B類群とは、行政組織ではないものの、補助金や業務委託を通じて、行政の役割を現場で代替・補完している組織群である。
NPO法人、社会福祉法人、障がい者就労支援施設、各種地域支援団体などがこれに含まれる。
この類型の最大の特徴は、現場への近さと柔軟性である。行政が直接手を伸ばしにくい領域において、個別事情に即した対応や人間的な関係性を築いてきたのは、まさにこのB類群である。
しかし同時に、公共性の定義、責任の所在、監査基準が曖昧なまま拡張されてきた領域でもある。
補助金依存、形式的な事業報告、実態と乖離した成果指標、さらには「支援の名を借りた事業化」など、不正や形骸化が最も生じやすいのもこの層である。
B類群の問題は、善意と公共性が制度的に守られていないことにある。
■ C類群:評価・認証型
C類群とは、行政や準公共機関そのものを評価・認証・監査する立場にある第三者的組織群である。
第三者認証機関、評価委員会、外部監査団体、各種審査機関などが該当する。
本来この類型は、公共性を担保するための「制度のブレーキ」として機能すべき存在である。しかし現実には、委託元との距離が近すぎる、評価基準が不透明、形式的なチェックにとどまるといった問題を抱え、十分な抑制力を発揮できていない例も少なくない。
ときにC類群は、監視者であるはずの立場から、制度を正当化するための「免罪装置」へと転化してしまう危険性すら孕んでいる。
C類群の問題は、中立性と独立性が制度的に保証されていない点にある。
この三類型は、それぞれ異なる役割と課題を抱えている。しかし共通しているのは、公共性の度合いと、責任の明確さが一致していないという構造的問題である。
公共的機能が拡張される一方で、誰がどこまで責任を負うのかが制度上曖昧なまま放置されてきた結果、準公共領域では不正や形骸化が繰り返され、「誰も責任を取らない公共」が常態として温存されてきた。
この問題は、特定の組織や個人の倫理欠如によって生じたものではない。むしろ、制度そのものが、責任の所在を分散・希薄化させる構造を内包してきたことに起因している。
善意で始まった取り組みであっても、検証と是正の回路が組み込まれていなければ、やがて制度疲労を起こし、公共性は形だけのものへと変質していく。
以降の節では、この三類型が実際の運用現場においてどのように絡み合い、どの段階で責任が曖昧化し、あるいは消失していくのかを、現場の視点から具体的に検証していく。
個別の不祥事を糾弾するのではなく、その背後にある構造的欠陥を炙り出すことが、本節の目的である。
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【4.2 準公共機関が抱える問題の炙り出し】
準公共機関において繰り返されてきた不正や機能不全は、しばしば「一部の悪質な団体」や「現場のモラル欠如」として語られてきた。しかし、そうした説明は問題の本質を捉えていない。
本節で明らかにするのは、善意と制度がすれ違う構造、責任が分散・希薄化する仕組み、そして検証が形式化していく過程である。準公共領域に潜む問題を、個別事例ではなく制度構造として炙り出すことが、本節の目的である。
先に分類した B類群 には、NPO法人、社会福祉法人、障がい者就労支援事業所など、行政から一定の資金や認可を受けつつ、多様な公共サービスを提供する組織が含まれる。これらは本来、行政の手が届きにくい生活現場を補完する公共的担い手として位置づけられるべき存在である。
しかし現実には、その一部において、「支援」という名目が制度的な免責装置として機能し、補助金や委託費を中心とした利権構造が形成されてきた。さらに、検証と是正の回路が十分に組み込まれていないまま事業が継続されることで、公共性は徐々に形骸化し、最終的には不正や逸脱行為を内包する構造へと変質しつつある。
ここで問題となっているのは、B類群そのものの存在意義ではない。むしろ、善意と柔軟性に支えられてきたこの領域が、制度的に守られず、公共性と責任の対応関係が曖昧なまま拡張されてきたことこそが、今日の歪みを生み出しているのである。
特に近年、障がい者就労支援施設などにおいては、補助金獲得を目的とした事業化の傾向が顕著になっている。実態の伴わない作業、形式的な支援計画、利用者実績の水増しといった“支援のフリ”が横行し、書類上では成果が上がっているように見えても、現場では実質的な自立支援が機能していない例が後を絶たない。
こうした状況を許している大きな要因の一つが、行政のいわゆる「丸投げ体質」である。中央政府は制度の骨格を設計するものの、実際の運用や監査の多くを地方自治体に委ねている。その地方行政においても、評価・改善・再認定といった重要なプロセスが形式的に処理され、指定を一度取得すれば、更新や実地監査のない“無風地帯”が生まれてしまう。結果として、数年間にわたり事業実態が外部から把握されないケースも少なくない。
さらに、自治体によっては、外部委託や民間団体に対する過度な信頼と依存により、事業内容へ踏み込んだ検証を行わず、問題発覚後には委託先を変更することで責任を回避する構造すら見られる。こうして、「誰も責任を取らない公共」が常態化し、現場には利用者と職員の疲弊だけが残されていく。
現行の補助金制度が前提としているのは、就労率、訓練日数、支援計画の遂行率といった数値化可能な成果主義である。しかし、この評価軸のもとでは、本来重視されるべき「支援の質」や「利用者の実質的変化」が可視化されにくい。むしろ、数値目標の達成そのものが目的化されることで、“偽装的な支援”が制度内で合理化される逆転現象が生じている。支援対象者が「実際に働けるようになったか」ではなく、「働いているように見せられたか」が評価基準となる本末転倒の構造である。
こうした制度的歪みは、福祉分野に限られた問題ではない。環境、まちづくり、教育、医療など、NPO法人が関与する多くの分野において、活動実態の不明確な団体、補助金依存型の団体、さらには実質的な天下りの受け皿として機能しているケースも散見される。とりわけ、知的障がい者支援など、支援の難易度が高く営利性の低い分野では、誠実に取り組む団体ほど制度疲労に晒され、形式を整えるだけの“補助金ビジネス型”団体が温存されるという、深刻な逆選択が生じている。
このように、準公共領域における問題は、個々の現場の倫理や努力だけでは解決し得ない。制度そのものが、公共性と責任を分断する構造を内包している以上、求められるのは、監視と排除の強化ではなく、制度設計そのものの再構築である。
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【4.3 倫理と監査による是正】
―― 第三者評価体制の制度化
準公共機関に対する倫理的再評価とは、単に不正を摘発し、助成金の適正使用を確認するための作業ではない。それは、制度が本来担うべき公共性が、現場においてどのように実装されているのかを、国家理念の水準から問い直す行為である。
本計画において国家が掲げる理念は、「実存」「自律」「民主」「相互」「慈愛」「錬成」という六つの原理群に集約される。倫理的再評価とは、これらの理念に照らし、各準公共機関が公共的役割を果たしているかどうかを検証する制度的プロセスである。
たとえば、従来しばしば用いられてきた理念語である「自由」を取り上げてみよう。自由とは、本来、支援する側の裁量や解釈の自由を意味するものではない。しかし現実の現場では、「自由な公共性」や「柔軟な判断」といった名目のもと、支援内容が提供者側の都合によって拡大解釈される余地が生じてきた。
ここで問われるべきは、福祉の受益者と提供者が、対等で相互に尊重された関係にあるかどうかである。すなわち、利用者が自らの人生を選び取る機会が制度として保障されているのか、それとも支援する側が一方的に権力化し、支援される側を管理・支配する構造に陥っていないかという点である。
しかし現実には、こうした理念が現場に十分浸透しているとは言い難い。「言論の自由」や「多様性の尊重」といった言葉が、自己都合的に解釈され、検証を免れるための免罪符として機能してしまう風潮も少なからず見受けられる。
こうした状況を踏まえ、本節では、理念に基づく倫理的再評価を制度として実装する手段として、第2章で提案した「国家オンブズマン制度」と連動する、独立した第三者監査体制の構築を提案する。その中核となるのが、新たな常設評価機関「準公的団体管理局」である。
この制度構想は、本計画が掲げる「実存」「自律」「民主」「相互」「慈愛」「錬成」という六原理群に照らしたものであり、なかでも「慈愛」という原理が示す――支援を管理や統制の手段ではなく、人の尊厳を守り育てる営みとして捉える視座を、公共制度の中核に据える試みである。
■ 国家オンブズマン制度の制度的位置づけと構造(補足)
国家オンブズマン制度とは、行政機関から独立した常設の第三者監査機関として中央政府に設置される制度であり、従来の地方オンブズマン制度とは、その設置目的および対象範囲において明確に区別される。
本計画において国家オンブズマンが対象とするのは、単一の組織群ではない。第4.1節で整理したとおり、準公共領域は以下の性格の異なる組織群によって構成されている。
・A類群(制度執行型)
・B類群(委託・補完型)
・C類群(評価・認証型)
国家オンブズマン制度は、これら三類群に対して一律の介入を行うものではなく、類群ごとに異なる距離感と権限配分をもって統括監督を行う制度として設計される。
A類群に対しては、直接的な事業管理ではなく、制度運営や評価構造そのものが適切に機能しているかを監督する。
B類群については、地方オンブズマンを母体として再編される準公的団体管理局が実務的な監査・評価・是正支援を担い、国家オンブズマンはその判断と運用が全国的基準に照らして妥当であるかを統括的に監督する。
C類群に対しては、評価・認証という立場そのものが形骸化していないかを点検するため、国家オンブズマンが直接的な監督対象とし、倫理審査会との連動による二重チェックを行う。
このように、本制度は、準公共機関を一括して管理する仕組みではない。三類群それぞれの役割と脆弱性を踏まえ、監督の強度と責任の所在を意図的に変化させることで、公共性と責任の不一致を是正する構造を採用する。
準公的団体管理局は、とりわけB類群を中心とした実務的再生装置として機能する。その役割は、処罰ではなく、公共性を制度として回復させるための是正・支援・再評価にある。
国家オンブズマンは、これらの運用全体を俯瞰し、三類群を明確に分類・把握したうえで、「公共性が正しく循環しているか」を監督する統治構造上の要石として位置づけられる。
■ 国家オンブズマン制度との連動と「準公的団体管理局」の役割
国家オンブズマン制度の実務を担うのが、専門機関として再編・設置される準公的団体管理局である。同局は、準公共機関に対して、倫理・財務・制度運営の三つの観点から継続的な監査と評価を行い、制度の健全性を維持・再生する役割を担う。
ただし、ここでいう倫理評価は、倫理審査会による価値判断を代行するものではない。倫理審査権は、制度運用に直接介入する権限ではなく、判断が越えてはならない倫理的限界を示す抑制的な位置に置かれる。準公的団体管理局は、その枠内で制度運用の適合性を検証する実務機関として機能する。
① 年次評価とランク付け制度
指定NPO法人および福祉関連団体を対象に、活動実態、財務の透明性、市民満足度、現場職員の倫理環境などを多角的に評価し、結果をスコア化・公表する。評価が低い団体には、助成金配分の調整、是正命令、再訓練義務といった段階的措置を適用する。
② 解体勧告・指定取消に関する是正手続
重大な違反が認められた場合には、解体勧告または指定取消に至る是正手続きを制度的に明確化し、最終判断は国家オンブズマンの統括監督のもとで行う。
③ AI分析と市民通報を組み合わせた連動監査
会計帳簿や支出構造等に異常が検出された場合には、AIによる自動フラグを活用して調査を行う。加えて、市民・職員からの匿名通報制度と連携し、監査体制の自浄性と透明性を高める。
準公的団体管理局は、地方に分散するB類群を網羅的に把握し、その公共性を評価するとともに、必要に応じて再教育・是正支援まで担う実務組織である。この任務は、単なる監査機関や認証機関では遂行できない。
そのため本計画では、地方オンブズマン制度を準公的団体管理局の実務的な入口として位置づける。地方オンブズマンは、地域事情に精通し、市民との接点を有する存在であり、分散するB類群の把握と初動対応を担う。
同時に、公共性の評価や専門的審査を担ってきたC類群については、その機能を準公的団体管理局へ段階的に取り込み、再編する。評価機能は残しつつ、組織の固定化を避けるためである。
この再編により、評価機関の自己目的化や組織肥大を抑制し、公共性の評価と再教育を、責任構造の明確な制度内に組み込むことが可能となる。
準公的団体管理局は、国家オンブズマン制度の統括的監督下に置かれ、権限の集中や逸脱が生じないよう抑制される。
このように本構造は、
地方オンブズマンを実務の入口とし、
C類群の機能を吸収・再編し、
国家オンブズマンによって全体を抑制する
という三層構造によって、分散する準公共領域を持続可能に再編することを目指す。
■ 支援的な制度へ ― 段階的是正プログラムの導入
倫理的再評価と監査体制の目的は、処罰の強化ではなく、信頼の回復と制度の再生にある。不適格団体を即時に排除することは、現場の空洞化や支援対象者の孤立を招きかねない。
そのため本制度では、倫理基準を下回った団体に対しても、即時的な除外ではなく、段階的是正プログラムへの参加機会を提供する。
是正プログラムには、以下を含む。
・外部専門家による指導・再訓練
・倫理指導員の派遣
・市民・利用者によるヒアリング
・評価シートおよび改善計画の公開
一定期間の履行後に再評価を行い、改善の進捗と制度適合性を多角的に判断する。
このように、倫理的再評価と監査体制は単なるチェック機関ではない。それは、公共の信頼と制度の持続可能性を回復するための再生装置であり、制度的コミュニケーションの場として機能することが求められる。
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【4.4 準公共庁と評価特区の制度設計】
——地方主導による再構築と生活接点の強化
本節で提案する「準公共庁」は、第4.3節で設計した準公的団体管理局を中核機能として内包する、地方単位の統括ハブである。準公的団体管理局が、監査・評価・是正・再教育といった実務機能を担うのに対し、準公共庁は、福祉・教育・医療・災害対応といった複数領域を横断し、登録・再編・統廃合・資源配分の調整を行う。すなわち、管理局は「機能ユニット」、準公共庁はそれらを束ねる「組織枠組み」であり、両者は役割を異にしつつ、入れ子構造として接続される。
とりわけ災害対応の分野において、この構造的整理は決定的な意味を持つ。従来想定されてきた防災庁のような独立省庁モデルは、指揮系統の明確化という点では一定の合理性を持つ一方で、実際の災害現場が有する複雑性と多主体性を十分に捉えきれていない。現実の初動対応を担っているのは、行政機関のみならず、防災NPO、福祉団体、医療・介護ネットワーク、地域ボランティア、自治会といった、準公共的主体の集合体である。
こうした主体は、災害時に突然出現するのではなく、平時の生活支援・福祉・医療・地域活動の延長線上に存在している。にもかかわらず、災害対応のみを切り出し、独立した省庁として制度化することは、平時と非常時の断絶を制度の中に埋め込むことに等しい。結果として、情報の断絶、動員の遅れ、責任の錯綜が繰り返されてきた。
このため本計画では、防災庁を単独の縦割り組織として新設する道を採らない。代わりに、準公共庁の内部に「防災・危機対応部門(注1)」を常設し、準公共機関としての防災・減災・復旧支援機能を一体的に再編する構想を採用する。この部門は、平時から地域内の準公共機関を把握・評価・訓練し、有事の際には内閣府災害対策本部と直結した指揮・通信系統のもとで、即時に現場資源を動員・調整する役割を担う。
ここで重要なのは、災害対応を「例外的な行政行為」として扱うのではなく、「生活接点に根ざした公共性の極限状態」として位置づけ直す点にある。福祉・医療・教育・地域支援と連続した制度構造の中に防災機能を組み込むことで、平時の信頼関係とネットワークが、そのまま非常時の即応力へと転化される。これは、単なる組織再編ではなく、公共性の捉え方そのものを更新する試みである。
すなわち本構想は、防災庁構想が志向してきた「迅速性」や「統合性」を否定するものではない。それらを、より現実的で、より人の生活に近い制度構造の中へと再配置する制度的アップデートである。準公共庁という枠組みのもとで、防災・危機対応機能を内包的に再編することにより、平時と非常時を分断しない、持続的かつ実効性の高い災害対応体制が初めて実装される。
■ 準公共庁の主な機能と役割:
1)準公共機関の包括的な登録・監督・再評価
準公共庁は、市町村単位に分散して存在するNPO法人、福祉団体、教育支援団体などを包括的に把握・登録し、継続的な監督と再評価を行う中核機関として機能する。
これにより、従来は個別行政や委託関係の中で断片的に管理されてきた準公共機関の全体像を可視化し、活動実態に応じた制度的支援、是正措置、さらには解体勧告に至るまでを、統一された判断基準のもとで調整することが可能となる。
2)NPO・福祉法人の統廃合による財源・機能の最適化
準公共庁は、支援実態の乏しい団体や、機能が重複する法人を制度的に整理・再編する役割を担う。これは単なる削減や排除を目的とするものではなく、限られた行政資源および助成金を、より公共性の高い活動へと再配分するための構造的調整である。
統廃合を通じて、地域内の支援機能を集約・強化し、持続可能な準公共サービスの基盤を再構築する。
3)専門的評価チームの常設化と伴走型支援
準公共庁の内部には、福祉、教育、まちづくり、医療など分野別の専門的評価チームを常設する。これらのチームは、単なる監査や点検にとどまらず、現場に伴走しながら制度的課題を抽出し、改善に向けた指導と支援を行う。
評価を「裁定」ではなく「再設計の起点」として位置づけることで、現場の疲弊や形骸化を防ぎ、公共性の質的向上を図る。
4)国家オンブズマン制度との連動による分権型統治
準公共庁は、国家オンブズマン制度と連動しながら運用される。中央は全国共通の基準と監督を担い、地方は地域固有の課題に応じた裁量的対応を行う。
この分権型協働体制により、監査と支援、統制と柔軟性という一見相反する要素を両立させ、制度運用の持続可能性を確保する。
■ 評価特区の導入と制度プロトタイプの創出:
地域によっては、既存の制度枠組みでは対応しきれない複合的・先鋭的な課題が顕在化している。こうした地域に対し、本計画では特定の自治体や地域を「評価特区」として指定し、準公共庁のモデル運用や制度実験を集中的に行う仕組みを導入する。
評価特区は、規制の弾力的運用、民間との先進的連携、外部資源の積極活用を可能とし、将来的な全国展開を見据えた「制度プロトタイプ」を創出する場として位置づけられる。
災害対応や人口減少、地域課題の複合化が進むなかで、評価特区は次世代の公共モデルを試行・検証するための不可欠な実験空間となる。
なお、現行の構造改革特区や地方創生特区は、主として企業誘致や経済成長を目的として設計されてきた。本評価特区は、公共性・倫理性・透明性を中心価値に据える点で理念を異にするが、制度設計や運用手法の一部においては相互補完的な連携も可能である。制度の再定義を前提とすれば、既存特区制度の知見を活かした発展的統合も視野に入る。
■ 合弁モデルとの補完的な連動:
本計画は、中央政府主導による官民合弁モデルと、地方主導による準公共庁モデルを対立的に捉えない。
中央は広域的・制度横断的な支援を担い、地方は生活密着型で迅速な対応を担うという明確な役割分担のもと、両者が補完関係を形成する。
地方においては、地域の実情に即した地域合弁会社の設立を促進し、準公共庁が制度的ハブとして関与する。これにより、多層的かつ柔軟な公共支援インフラが形成され、地域社会の多様なニーズに応える実効性ある支援体制が構築される。
■ 民間専門機関との連携による柔軟性の確保:
準公共庁は、すべての評価・再訓練・是正指導を内部で完結させることを目的としない。専門性と信頼性を有する民間機関との連携を通じて、制度運用の現実性と柔軟性を確保する。
再訓練や倫理再教育の分野では、大学・研究機関・士業団体・専門NPO等との協働を積極的に進める。これにより、過度な行政肥大化を防ぎつつ、支援の質と透明性を高める運用が可能となる。
■ 災害対応の即時体制としての可能性――防災機能の準公共庁内統合
準公共庁の構想は、災害対応分野においてとりわけ高い実効性を持つ。災害現場では、防災NPO、福祉団体、医療・介護ネットワーク、地域ボランティア、自治会など、多様な準公共的主体が初動対応の中心を担っている。
この現実を踏まえれば、防災庁のような独立した縦割り省庁を新設するよりも、準公共庁の内部に「防災・危機対応部門」を常設し、平時から評価・訓練・連携を行う体制を構築する方が、制度的合理性と即応性の両面で優れている。
防災・危機対応部門は、準公共庁の内部局として位置づけられ、有事の際には内閣府災害対策本部と直結した指揮・通信系統のもとで、地域内の準公共機関および実務組織を即時に動員・調整する。これにより、投入すべき組織、連携系統、対応段階が明確化され、初動遅延や指示系統の混乱を制度的に防止することが可能となる。
すなわち本計画は、防災機能を独立した省庁として切り出すのではなく、生活接点に最も近い準公共庁の内部に統合し、平時から非常時までを一貫して運用する制度構造を採用する。これは、防災庁構想が掲げてきた理念を否定するものではなく、それを現場即応型・ネットワーク型の公共モデルへと再編・昇華させる制度的アップデートである。
■ 「準公共庁」と「評価特区」が示す、新しい公共モデル:
このように、「準公共庁」と「評価特区」は、単なる監督や規制のための制度ではない。生活に最も近い場所から公共性を再構築するための制度的装置である。
福祉、教育、まちづくり、災害対応といった複数領域にまたがる準公共機関を統合的に管理・支援・監査することにより、中央と地方、行政と民間、制度と現場が分断されることなく結び直される。
本構想が目指すのは、公共を「管理する対象」から「共に維持し、鍛え続ける仕組み」へと転換することである。ここに、新しい公共モデルの核心がある。
※ 注1 ー 準公共庁の内部に「防災・危機対応部門」を常設し、平時から内閣府災害対策本部と直接連絡可能な指揮・通信系統を制度的に接続する。これにより、有事の際には、当該地域において動員すべき準公共機関・実務組織および連携系統が即時に特定され、初動対応の遅延や指揮命令系統の混乱を制度的に防止する。
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【4.5 制度設計における留意点と課題】
―― 公共性の再編に立ちはだかる壁と、その克服に向けて
準公共機関の再設計、倫理監査体制の導入、地方主導の「準公共庁」、そして「評価特区」といった構想は、制度として革新的である一方、現場への導入段階では複数の摩擦を不可避に伴う。
本節では、制度の実装を阻む“現実の壁”をあらかじめ整理し、持続性と実効性を損なわないために、制度設計の段階から織り込むべき留意点を示す。
■ 【1】統廃合による現場の混乱と、サービス後退への懸念
制度的な整理統合や不適格団体の排除は、短期的には福祉・就労支援の受け皿を減少させる危険を伴う。とりわけ知的障がいや重度障がいを抱える人々にとって、受け入れ先はもともと限られており、拙速な是正は「制度難民」を生みうる。
したがって統廃合は「縮小」ではなく「健全化」と「再配置」として扱い、移行期間・代替先の確保・伴走支援を制度として明文化する必要がある。評価は排除の道具ではなく、移行を安全に行うための手続でなければならない。
■ 【2】財源・人材・職場環境――制度運用を支える基盤整備
準公共庁は、評価・支援・調整という広範な業務を担う以上、安定財源と専門人材の確保が前提となる。しかし自治体間には財政格差があり、地方ほど専門人材の確保が困難である。
この課題に対応するため、中央政府による基盤的交付金の整備に加え、大学・専門機関との連携による研修プログラムの構築、外部専門機関との協働による補完体制の確立を制度設計に組み込む必要がある。
また、倫理評価や監査の導入が現場では「監視」や「負担増」として受け取られるリスクも想定される。過酷な労働環境や人手不足の現場では、制度改正が“上からの押しつけ”と映り、士気低下や反発を招きかねない。
ゆえに、制度趣旨の周知だけでなく、現場の声を反映する協議プロセスを制度化し、さらに評価結果を職場環境改善へ接続するインセンティブ――例えば高評価団体への人員増強・設備投資支援――を併設することが不可欠となる。
■ 【3】開かれた制度設計と複眼的評価体制――AIと人間、そして“揺らぎ”
準公共庁が扱う領域は、福祉・教育などの生活接点に加え、地域事情に応じて常に変化する。ゆえに、画一的基準の押し付けではなく、一定の余白と揺らぎを許容する柔軟性が求められる。評価指標や支援基準も固定物ではなく、地域の合意形成と試行錯誤を通じて成熟していくプロセスを制度に組み込むべきである。
一方で、AIによる帳簿分析や異常検出は、効率化と透明性の確保に有効であり、制度運用を支える基盤となる。しかし、信頼形成や関係性の質といった定性的要素をAIのみで捉えることには限界がある。
したがって評価体制は、AIによる定量的分析と、人間による定性的判断を補完的に組み合わせた“複眼的構造”とし、市民代表や外部有識者を含む仕組みで硬直化と一元化を回避する必要がある。
■ 【4】準公共庁設計における核心課題――政治的影響と中立性の担保
準公共庁が地方行政の枠内に設置される場合、首長や行政機構との距離が近くなり、政治的影響を受けやすい。助成金配分や指定取消といった強い権限を扱う以上、評価の中立性と監査の独立性をどう担保するかは最重要課題となる。
このため、手続の透明化、根拠の公開、外部監視の常設化といった“運用の可視化”を制度の必須要件として組み込む必要がある。加えて、一定の競争原理や民間委託の活用は検討され得るが、過度な成果主義や効率重視は「弱者切り捨て」や硬直化を招く。制度原理として、市場倫理ではなく公共倫理――人間の尊厳と信頼を基礎に置く評価軸――を明確に据えなければならない。
■ 【5】再評価による制度整理と「準公共」の定義づけ
本制度の導入により、福祉・教育以外の既存NPO等も評価対象として整理・統合が進む可能性がある。これは、公共財源に依存しながら実質的活動を欠く団体の排除と、健全な公共連携の再構築を目的とするが、分野によっては反発も想定される。
したがって、即時排除ではなく、再評価・再登録制度と段階的移行期間を設け、機能の持続性と多様性に配慮した再編を行う必要がある。
同時に、準公共機関は行政でも民間でもない中間領域であり、柔軟性の源である一方、責任不在や権限の過不足を招きやすい。ゆえに「準公共とは何か」という法的・制度的定義を先行して明確化し、その定義に基づき準公共庁との権限関係・評価基準・連携方針を体系的に整理することが不可欠である。
■ 【6】生活接点型の危機対応――防災機能をめぐる位置づけ
準公共庁の枠組みは、福祉・教育に限らず、危機時に地域を支えるネットワークの統合にも適用可能である。災害対応の初動は、行政単体では完結せず、NPO、福祉団体、医療・介護ネットワーク、地域ボランティア等の準公共的主体が実務を担ってきた。
この現実を踏まえれば、防災機能は“縦割りの新設”として切り出すよりも、生活接点を束ねる制度枠の中で、平時の把握・訓練・連携から非常時の動員までを一貫させる方が、制度としての合理性と即応性を確保しやすい。
■ 【捕捉】倫理審査会(第2章)との関連性
本章で示した「準公共庁」および「準公的団体管理局」は、地域における実態把握・是正・再評価を担う中核装置である。しかし、その運用が恣意的・政治的にならぬよう、制度全体に倫理的中立性と正統性を保証する機構として、第2章で提示した「倫理審査会」の役割が決定的に重要となる。
倫理審査会は、評価機関そのものを点検する“メタ評価機関”として機能し、制度全体の中立性と倫理的正当性を担保する。これにより、現場職員や市民の信頼を支え、制度が押しつけとして受け取られる危険を緩和する。
また、国家オンブズマン制度は、準公共庁の運用を統括的に監査しつつ、必要に応じて倫理審査会と協議する。重大な不正が生じた場合、オンブズマンが調査し、倫理審査会が処分の妥当性と制度改善の提言を行う、といった連動が想定される。
このように、準公共庁・国家オンブズマン・倫理審査会は、現場監査・制度監査・倫理監査という三層の相互補完によって、公共性の再構築を制度的信頼性の上に支える。
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【4.6 公共性の再構築にむけて】
―― 制度と倫理を織りなす地域社会
本章では、これまで制度の周縁に置かれてきた「準公共領域」に焦点を当て、NPO法人、社会福祉法人、財団法人、第三者認証機関など、公共的機能を担う多様な主体に対して、新たな統合的制度設計の必要性を論じてきた。
福祉、教育、まちづくり、防災支援といった人の暮らしに直結する領域は、行政のみでも、市場原理のみでも完結しない。そこには常に、制度と生活、原則と現実のあいだを媒介する存在が求められてきた。その役割を担ってきたのが、「準公共」と呼ばれる中間的主体である。
しかし、その重要性とは裏腹に、準公共機関は制度的に曖昧な位置づけに置かれ、責任の所在、財源の安定性、倫理的基準の担保といった点で、構造的な脆弱性を抱え続けてきた。
こうした問題意識を踏まえ、本計画では「準公共庁」の設置を通じて、地域に根ざした準公共機関を制度的に再定義し、評価・支援・監査を一体的に担う分権型の運用体制を構築することを提案してきた。さらに、「評価特区」の導入、官民合弁モデルや民間専門機関との連携、災害対応機能の横断的統合といった構想を重ね合わせることで、従来の制度の隙間に埋もれてきた公共性を可視化し、再構築する道筋を示してきた。
しかし、公共性とは本来、制度によって一方的に与えられるものではない。それは、人々の内面に根ざす倫理観や相互関係によって支えられる、きわめて不安定で動的な概念である。いかに精緻な制度設計がなされても、第1章で示した理念群――「実存」「自律」「民主」「相互」「慈愛」「錬成」――が共有されなければ、信頼、尊厳、対話、共感といった非数値的価値は失われ、制度は容易に形骸化へと向かう。
その意味で、2026年1月2日付で報じられた政府による「防災庁」設置の基本方針は、本章の問題意識を象徴的に照らし出す事例である。想定される組織規模は約350人、年間予算は約200億円とされている。十分な財政的余力と制度全体の整合性が確保されているのであれば、新設そのものが直ちに否定されるべきものではない。
防災庁の設置は、防災・減災という社会的に極めて重要な課題に対し、政府が正面から向き合おうとする意思の表明でもある。本計画としても、新設される防災庁が実効性を持ち、その機能が十分に発揮されることを否定するものではなく、むしろ強く願う立場にある。
しかし同時に、制度設計の観点から見れば、防災庁が直面するであろう困難も、あらかじめ見通しておく必要がある。災害対応という領域は、単一の行政機関によって完結するものではない。現場では、NPO、福祉団体、医療・介護ネットワーク、地域ボランティアといった準公共的主体が、初動対応の中核を担ってきた。だからこそ本計画では、防災機能を独立した縦割り組織として切り出すのではなく、準公共庁の内部に「防災・危機対応部門」を常設し、平時から非常時までを一貫して運用する構造を提案してきた。
制度が新設されても、公共性と責任の配置が再設計されなければ、機能不全は形を変えて再現される。防災庁がいかに理念的に正当であっても、やがて縦割り構造の問題が再浮上する可能性は否定できない。本章で提示してきた「準公共庁」構想は、防災庁に代わる対抗案ではなく、そうした制度的リスクを回避するための補助線として位置づけられるべきものである。
防災庁が今後どのように運用され、どのような成果と課題を示すのかは、今後の検証に委ねられる。本計画は、その成否を断じる立場には立たない。ただし、制度が再び機能不全に陥るとすれば、その原因は災害そのものではなく、公共性と責任の配置を問い直さないまま、組織の新設によって課題を包摂しようとする制度運用のあり方にあるだろう。
その意味で、防災庁の設置は、日本の統治構造が自己修正能力を取り戻せるかどうかを測る、一つの試金石でもある。本章で示した問題意識が、将来的に制度検証のための視座として生かされることを期待したい。
私たちが目指すべきは、制度による「管理の強化」ではない。制度を通じて「信頼を可視化する」ことである。評価制度も監査機構も、排除や統制のために存在するのではなく、本来の支援を正当に評価し、善意の行動が持続可能となる環境を整えるためのものであるべきだ。
公共性とは、完成された概念ではない。常に未完成であり、時代とともに更新され続ける、生きた関係性である。準公共庁と評価特区の設計を通じて、本計画が試みているのは、「制度と生活」「原則と柔軟性」「中央と地方」「倫理と技術」のあいだに、新たな橋を架けることである。
それは公共性の再定義であると同時に、私たち一人ひとりが、どのように公共に関与するのかを問い返す試みでもある。この問いを社会全体が共有し、熟議し、更新し続けていくことこそが、持続可能な公共の再建に向けた第一歩となるだろう。




