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第3章 経済主権の確立—ソフトパワーによる戦略構築

かつて日本の産業政策は、民間の創意と市場競争を基軸とし、国家はそれを補完する存在として位置づけられてきた。中小企業支援や研究開発投資は重要視されてきたものの、それらはあくまで個別施策の集合にとどまり、国家としての経済戦略や主権構造として体系化されることは稀であった。


一方、安全保障政策の分野では、安倍晋三元首相の主導のもと、「積極的平和主義」や「自由で開かれたインド太平洋構想」といった、国際秩序を視野に入れた地政学的構想が打ち出された。しかしその過程において、技術・経済・通貨といった非軍事的領域そのものを安全保障の中核に据えるという発想は、制度設計の主軸には置かれなかった。


経済政策において掲げられた「アベノミクス」の三本の矢――金融緩和、財政出動、成長戦略――は、短期的には国内経済に一定の活力をもたらした。しかしそれは、通貨依存構造の是正や、先端技術・制度を国家戦略として再配置する試みへと十分に接続されたとは言い難く、長期的な経済主権の確立という観点からは、構造的な空白を残したままであった。


こうした中で、高市早苗首相は、経済産業政策に携わってきた経験を背景に、先端技術、エネルギーインフラ、制度設計への国家関与の重要性を一貫して主張してきた。とりわけ現政権においては、積極財政を「短期的景気刺激」ではなく、「未来への投資」と位置づけ、非軍事領域を国家競争力の基盤として捉え直す姿勢が明確に示されている。


しかしながら、現在の政策議論の多くは、依然としてソフトパワーを「軍事抑止を補完する手段」として理解する段階にとどまっている。国家の主軸を非軍事領域へと本格的に移行させ、防衛を限定的機能とし、経済・通貨・制度こそを国家の主力とするという構想は、未だ制度として明示されたことがない。


なお、本計画においては、すでに序章において「平和宣誓国家」および「堅牢平和主義」の理念と制度的前提が示されている。本章は、それらを理念として再確認するためのものではない。むしろ、平和を宣言する国家が、いかにして現実の国際社会において自立し、持続しうるのか――その条件を、経済と制度の側面から具体化することを目的とする。


平和宣誓は、理念として掲げるだけでは成立しない。それは、通貨、技術、制度、そして国際的信頼という非軍事的基盤によって支えられて初めて、実効性を持つ国家戦略となる。本章は、堅牢平和主義を理想から構造へと移行させるための経済的裏付けを提示する章である。


本章では、この制度的空白に正面から向き合い、通貨、技術、制度設計、そして国際的信頼を通じて世界と接続する、新たな国家像を構想する。ここでいうソフトパワーとは、文化外交の補助手段ではなく、国家主権を実質的に支える非軍事型の防衛基軸である。


この視座に立ち、日本が「経済的独立国」として自立し、持続的に再生していくために必要な制度設計と戦略の全体像を、本章では多角的に検討していく。



 ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★


【3.1 現行政策の方向性とその評価】

― 経済産業省による先端技術支援の動きと、計画継続の前提としての位置づけ


2022年の経済安全保障推進法(注1)の施行は、日本の政策体系における技術・経済と国家安全保障の結合を、法制度レベルで初めて明示した画期的な転換点であった。国際的な技術覇権競争の激化、資源・通貨の地政学的リスクの増大、サプライチェーンの再編といった外部環境の変化に直面し、日本政府は従来の産業政策や市場主導モデルとは異なる次元の対応を求められるようになった。


この流れにおいて、経済産業省を中心とした先端技術支援政策は、国家の戦略的関与を段階的に拡大している。とりわけ以下の動きが顕著である:


1)重要技術の育成・保護

法制度に基づく戦略投資や人材育成支援を通じ、生成AI・量子技術・先端半導体などの領域が国家的重要性の下に位置づけられている。それは単なる市場支援ではなく、国家安全保障の一環として位置づける試みと見ることができる。


2)経済安全保障重点分野への財政支援

国家予算を基盤とした基金型支援や産学官連携プロジェクトは、技術の社会的実装と国際競争力の強化に向けた実効的な基盤を形成している。


3)国際連携・供給網強靭化の推進

半導体・バッテリー・データインフラ等を対象に、米欧との協調を含む供給網の多元化が政策の柱となり、外的ショックに対する脆弱性への対応が進んでいる。


これらの動きは、一定の先見性と実効性を備えており、本計画においてもその方向性自体は基本的に継続すべきものである。特に、従来の「産業育成」の枠を超え、先端技術と国家戦略の接続を試みている点は評価に値する。


しかしながら、こうした政治・政策動向には構造的な限界も存在する。


現行制度の多くは依然として、軍事的抑止力を補完する文脈での経済安全保障として機能している傾向が強い。ソフトパワーの強化が語られる場合でも、それは往々にして軍事力とのセットで理解され、非軍事的領域そのものを国家主体の主軸へと据える視座へと昇華していない。


また、法制度や予算が「保護」や「補完」に重点を置いている一方で、経済的独立性・主権という視点での通貨戦略、制度設計、国際的信頼形成の体系的な位置づけは未だ不十分である。


この点は、本計画が掲げる「経済的独立国(注2)」「非軍事型防衛の基軸(注3)」という理念と照らすと、本質的なパラダイムのズレとして認識されるべき要素である。現行の制度設計は、短期的ショックへの対応や供給網強靭化には一定の強化を実現している一方で、非軍事的基盤を国家主権の中心へと据える抜本的構造設計には未達である。


したがって、本章では、現行政策に内在する先進性と限界を評価しつつ、それらを「経済的主権」「制度的自立」「非軍事型防衛構想」へと昇華させるための再設計を提示する。ここでは、国家が経済圏・制度観の形成主体として機能し、その成果を軍事ではなく国際的信頼と影響力の源泉とする未来像の具体化が次節以降の論点となる。




※ 注1 ー 「経済安全保障推進法」とは、正式名称を「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」という、日本政府が経済活動と国家安全保障を一体的に扱うために2022年に成立・公布した法律であり、重要物資の安定供給、基幹インフラの安定提供、先端技術の開発支援、特許出願の非公開などの制度を創設している。


※ 注2 ー 「経済的独立国」とは、本計画において、通貨・財政・技術・制度設計の面で過度な対外依存を避け、国際社会と接続しつつも国家としての意思決定を自律的に保持し得る状態を指す。自給自足や孤立を意味する概念ではなく、選択可能性を持った相互依存を前提とする。


※ 注3 ー 「非軍事型防衛の基軸」とは、軍事力を全面的に否定するものではなく、防衛を限定的機能として位置づけた上で、経済、通貨、技術、制度、国際的信頼といった非軍事領域を国家防衛の中核に据える構造を指す。



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【3.2 歳入主義モデルと国家経営の自律化】

―― 国家運営の「中小企業的感覚」と持続可能性


現行の日本の国家財政は、税収の枠を超えた「借金依存型モデル」によって成り立っている。2025年度当初予算においては、歳入総額約115.5兆円のうち、税収は約78兆円(約68%)にとどまり、新規国債発行は約28.6兆円(約25%)を占めている。経済対策や防衛費増額を理由に、国債発行額が歳入の4分の1を占める構造はすでに常態化しており、財政の持続性には深刻な懸念が生じている(注1)。


実際、国の長期債務残高(国債等)は2024年度末時点で約1,060兆円に達し、GDPの約2倍という水準にある(注2)。一方、政府が保有する総資産も1,000兆円を超えているが、その多くは年金積立金、社会保険準備金、行政用施設など、流動性に乏しい資産で構成されている(注3)。


このため、一見すると「資産と債務のバランスが取れている」ように見えても、これらの資産を直接国債返済に充てることは制度的にも現実的にも困難であり、債務解消には結びつかない。求められているのは、現行モデルの延命ではなく、財政構造そのものの見直しである。


一時期、MMT(注4)が注目され、「自国通貨建てであれば財政破綻しない」とする見解も広がった。しかし現実には、インフレ抑制や通貨信認維持との均衡が重要な争点となり、理論的可能性と政策実務の間には乖離が存在する。この前提に立つ限り、財政規模を急激に変更することは社会的混乱を招きかねず、現実的な選択肢は漸進的改革に限られる。


確かに、借金による景気刺激策は短期的には一定の効果を持ちうる。だが長期的には、国債市場への依存拡大、通貨信認の低下、財政破綻リスクの顕在化といった副作用を免れない。加えて、新規国債発行による歳出膨張は政治的判断を曖昧にし、予算編成における説明責任や歳出の優先順位の明確化を妨げてきた。


この構造的課題を前に、近年の財務省による「増税路線」は官僚主導の財政健全化策として一方的に非難されがちである。しかし実際には、支出増に伴う財源確保という政府全体の方針が背景にあり、財務省は執行機関として前面に立たされているに過ぎない。むしろ本質的な問題は、支出拡大の意思決定を行っている政権側の責任が十分に問われていない点にある。


そこで本計画では、この構造からの脱却を目指し、「歳入主義」――すなわち、税収や公的収入の範囲内で国家予算を編成するという原理に基づき、国家経営の見直しと健全化を提案する。これは、中小企業が自己資金と健全な借入の範囲で事業を展開するのと同様に、国家もまた自らの実力に見合った規模で運営されるべきだという発想に立脚している。


この「国家運営の中小企業的感覚」は、単なる倹約主義ではない。歳入の裏付けに基づいて歳出を制御し、「何に使われ、どのように還元されるか」を厳正に審査・明確化することで、不要不急の支出を抑制する。これは、持続可能性と納得性の確保を目的とした構造改革である。


同時に、税と公共サービスの接続性を強化し、予算の可視化と追跡性を高める改革が不可欠となる。マイナンバー制度の再設計によって、納税額と行政サービス利用状況を個人単位で関連づけること、税の使途に対して意見提出や投票が可能な仕組みを整えることなど、民主的予算編成の新たな試みも検討に値する。


さらに歳入主義は、議員数の適正化や官僚組織の見直しといった行政改革とも連動しうる。削減による行政機能低下への懸念はあるものの、納税者の理解と信頼を得るためには、政府自らが負担の見直しに踏み出す覚悟が不可欠である。


限られた歳入の中で、国家として何を優先し、いかに効率的に機能を果たすか。この問いに真摯に向き合うこと自体が、政治と行政の質的転換を促す起点となる。


国民が「税を取られている」と感じるのではなく、「未来に投資している」と実感できる制度こそが、経済的自立と政治的信頼の土台となる。歳入主義はその第一歩であり、国家と国民の関係性を「共に運営する共同体」として再定義する構想でもある。



■ 歳入主義に接続する(議員定年制)

歳入主義が問うのは、中小企業的感覚に基づく税収と支出の物理的均衡だけではない。

それは、国家運営に関わる意思決定そのものが、中小企業が日々直面する現実的な経済制約と同様に、現実の経済感覚と整合しているかどうかという問題である。

この条件が制度の基礎に置かれなければ、歳入の裏付けを重視する原理そのものが空洞化する。


現状の国会議員の年齢構成(注5)は50代後半から60代前後に集中し、若年世代の比率は低い。一方、社会は少子高齢化と技術変化の加速に晒され、物価感覚、労働市場観、将来リスクの捉え方は世代によって大きく異なる。これは個々人の尊厳や経験を否定する趣旨ではない。むしろ、異なる世代がそれぞれの直面する条件を政策決定に反映しやすい制度上の回路が必要だという指摘である。


この観点から、政治の時間軸と社会の時間軸を近づける措置として、議員定年制の導入は合理性を持つ。例えば70歳を定年とし、それ以降は顧問・助言機関・審議会等で経験を制度的に活かす形であれば、経験の保持と世代交代を両立しうる。これは経験を排除するのではなく、経験を「助言資源」として保持しつつ、最前線の意思決定に現実の経済感覚をより反映させるための仕組みである。


歳入主義の実効性は、財政原則の提示だけで完結しない。意思決定主体の時間軸と世代構成の偏りを是正し、現実と乖離した感覚が国家運営に影響することを防ぐ。この制度的補強によってこそ、持続可能で納得性の高い国家経営が成立する。




※ 注1 ー 財務省「令和7年度(2025年度)予算案の概要」


※ 注2 ー 財務省「国の長期債務残高の推移」/内閣府「国民経済計算(GDP)」


※ 注3 ー 財務省「国の貸借対照表バランスシート


※ 注4 ー MMT(現代貨幣理論:Modern Monetary Theory)とは、自国通貨を発行する主権国家においては、政府支出の制約は財政赤字や国債残高そのものではなく、インフレや実体経済の供給制約にあるとする経済理論である。MMTは財政破綻論への反証として一定の理論的支持を得ている一方で、インフレ制御や通貨信認の維持、政治的規律の確保が困難である点については、主流経済学および政策実務の立場から慎重な指摘がなされている。本計画では、MMTを政策原理として全面採用するのではなく、通貨主権の存在を前提としつつ、制度的な財政規律を重視する立場を取る。


※ 注5 ー 近年の統計では、国会議員の平均年齢は50代後半から60代前後に集中しており、50歳以上の議員が多数を占める傾向が続いている。数値の細部は調査時点により異なるが、世代構成の偏りという傾向自体は一貫して確認されている。




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【3.3 通貨主権の再構築】

——ステーブルコインによる新たな金融基盤


現在の日本経済は、円という法定通貨の信用を基軸として成り立っている。しかし同時に、その通貨体制は、グローバルなドル支配構造の中に深く組み込まれており、通貨主権を完全に自立した形で保持しているとは言い難い。とりわけ、金融政策の国際的連動性や資本移動の自由度が高まる現代において、円の為替水準や購買力は、国内要因のみならず外的要因に大きく左右される構造に置かれている。


こうした状況に対し、本計画では「通貨主権の再構築」を主要課題として位置づける。その中核となるのが、「国家発行型ステーブルコイン(National Stablecoin)」の導入である。これは、日本政府が発行・管理主体となるデジタル通貨であり、日本円と1対1で価値を連動させることによって、価格の安定性と国家的信用を同時に担保する仕組みである。


この構想は、単なる理論的提案にとどまらない。2025年秋には、日本初の円建てステーブルコインである「JPYC」が金融庁の登録を受け、電子決済手段としての発行・流通が正式に開始された(注1)。JPYCは資金移動業者として登録された民間ステーブルコインであり、日本円と1対1の価値を維持しつつ、個人・法人がブロックチェーン(注2)上で決済に利用できる仕組みを実装している。これは、日本においてステーブルコインが実験段階を越え、実際の決済インフラとして社会に組み込まれ始めたことを示す、重要な転換点である。


国家発行型ステーブルコインは、こうした先行事例を踏まえつつ、ブロックチェーン技術を基盤として発行・流通させるものである。その特徴は、既存の金融機関を必ずしも媒介とせず、個人・法人・政府機関の間で直接的な決済や資金移転を可能とする点にある。これは、通貨を「民間取引の手段」にとどめず、国家が提供する公共インフラとして再定義する試みでもある。


これにより、以下のような制度的革新が期待される。


・金融取引の効率化および決済コストの削減

・地方自治体や省庁間における予算執行の透明性向上

・マイナンバー制度との連携による、個人単位での税・給付の一体管理

・将来的には、対外貿易における多通貨決済手段としての活用


ステーブルコインは、暗号資産とは異なり、価格変動性ボラティリティを排除し、日本円と等価に保たれることを前提とするため、通貨価値の不安定化リスクは最小限に抑えられる。一方で、そのプログラマブルな性質を活用することにより、教育、医療、地方活性化といった目的に限定した給付や支出管理など、柔軟かつ高い透明性を備えた政策実装も可能となる。


こうした動きは、JPYCに限られたものではない。SBIホールディングスは、シンガポールのStartale Groupと協業し、2026年中の円建てステーブルコイン発行を視野に入れたプロジェクトを公表している(注3)。この構想は、単一企業による試みを超え、金融セクター全体を巻き込んだ国際的決済インフラの形成へと発展する可能性を持つものであり、国内外の資金決済システムに与える影響は小さくない。


さらに、三菱UFJフィナンシャル・グループ(注4)、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループといった大手銀行グループも、ステーブルコインの共同発行に向けた動きを見せており、日本政府および金融庁もこれを制度面から支援する方針を示している。これらの動向は、円建てステーブルコインを社会的決済基盤として定着させるための環境整備が、着実に進みつつあることを示している。


もっとも、通貨主権の最終的な担保主体は、依然として中央銀行にある。日本銀行は現在、いわゆるデジタル円(CBDC)について、発行、流通、制度設計に関する調査および実証を継続しており、将来的な導入可能性を排除していない。一方で、金融仲介機能や金融システム全体の安定性への影響を重視し、現時点では発行判断に対して慎重な姿勢を維持している。


この結果、日本の通貨政策は現在、民間によるステーブルコインの社会実装が先行し、中央銀行がその影響を検証・評価するという、二層的な構造の下に置かれている。これは、拙速な通貨制度変更を回避しつつ、技術革新への対応余地を確保するという点において、一定の合理性を有する制度配置である。


しかし、この状態が長期化した場合、通貨の制度的位置づけや役割分担が曖昧なまま分散し、国家としての通貨戦略が後追いに回るリスクも否定できない。民間ステーブルコインの急速な普及、国際的なデジタル通貨競争の進展、さらには地政学的リスクの高まりを踏まえれば、通貨主権の将来像をいかなる制度として描くのかについて、政府が明確な方向性を示す必要性は、今後ますます高まると考えられる。


通貨は市場原理のみに委ねてよいインフラではない。それは国家の信頼と主権の中核をなす制度であり、その最終的な設計責任は政治に属する。本章で提示した国家発行型ステーブルコイン構想は、その判断を促すための現実的な選択肢の一つであり、通貨主権を将来にわたって確保するための、戦略的決断が政府に求められている所以である。




※ 注1 ー JPYC株式会社は、2025年8月18日付で、関東財務局より「資金移動業者(登録番号:関東財務局長 第00099号)」として正式に登録されました。


※ 注2 ー ブロックチェーンとは、取引履歴やデータを「ブロック」と呼ばれる単位にまとめ、それらを時系列に連結して複数の参加者が共有・検証する分散型台帳技術である。特定の中央管理者を必要とせず、複数のノードによる合意形成によって記録の正当性が担保される点に特徴がある。


※ 注3 ー SBIホールディングスは、グループ傘下のSBI VCトレードを中核として、2026年までに日本円および米ドル建てステーブルコイン(Ripple社・Circle社の発行基盤を含む)を対象とした国内決済・流通インフラの整備を進めている。本構想は、暗号資産取引にとどまらず、規制準拠型ステーブルコインによる決済・送金・国際資金移動を可能とする実務的基盤の構築を目的とするものである。


※ 注4 ー 三菱UFJ信託銀行が中心となって開発を進め、現在は独立した事業体として運営されている株式会社Progmatは、日本発のデジタルアセット発行・管理基盤である。同社は、ステーブルコインやセキュリティトークン等の発行・管理・流通を想定したインフラを提供しており、大手金融機関によるデジタル通貨・デジタル証券の制度的実装を支える基盤の一つとして位置づけられている。





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【3.4 仮想通貨が支配しえる経済圏】

―― ステーブルコインの必要性


従来、通貨とは国家が主権のもとで発行し、その価値と信頼は、軍事力や経済力、さらには中央銀行による金融政策によって裏付けられてきた。しかし、ブロックチェーン技術の発展とともに登場した仮想通貨は、こうした中央集権的枠組みを超え、国家の外部で機能する通貨体系として、新たな経済圏を形成しつつある。


とりわけビットコインは、国家や企業といった中央の発行体を持たず、その希少性と分散性によって、国境を越えた信頼を獲得してきた。国家に依存しない価値保存手段としてビットコインが選好されてきた背景には、米ドルを基軸とする既存通貨体制への構造的不信、ならびに地政学的リスクを回避しようとする行動原理が存在する。


なお、ビットコインの創始者とされるサトシ・ナカモトの正体はいまなお不明であり、実在の個人か、複数人の集合体かすら確定していない。しかし、その名が日本的な表記を持ち、創始当初から「日本人ではないか」と言及され続けてきた事実は、単なる偶然として片付けるには象徴的である。


それは、日本が仮想通貨という非国家的通貨体系と、思想的・文化的にまったく無縁な存在ではないことを示唆している。通貨制度が国家の独占物でなくなりつつある転換点において、日本的な名を冠した仮名が創始者として選ばれたこと自体が、結果として日本と仮想通貨経済圏とのあいだに、一種の象徴的な接点を形成しているとも解釈できる。


もちろん、この象徴性は、ビットコインの思想的正統性や所有権を日本が占有することを意味するものではない。しかし、国家制度と仮想通貨経済圏とを接続しうる立場に、日本が比較的自然に位置づけられていることを示す背景の一つとして、慎重に受け止める価値はある。


こうした環境変化の中で、日本が従来どおり円建て経済圏の内部にのみ依拠し続けることは、国際競争力や資本流入の観点から見て、次第に戦略的制約を伴うようになりつつある。世界が、仮想通貨圏と現実経済圏とを横断する二重構造の経済体系へと移行しつつある現在、日本がどの位置に立つのかが、あらためて問われている。


もっとも、現時点において仮想通貨は価格変動が大きく、国家財政や社会保障といった高い安定性が求められる領域において、直接的な決済通貨として用いることは現実的ではない。しかし同時に、仮想通貨圏が生み出す経済規模や技術革新性を全面的に排除することは、国家としての成長機会そのものを放棄する選択にも等しい。


この、一見すると両立困難に見える条件を制度的に接続するために必要となるのが、「国家準拠型ステーブルコイン」である。これは法定通貨(円)と価値を連動させたデジタル通貨であり、国家が責任主体として価値の安定性を担保することで、仮想通貨圏と既存経済圏とを橋渡しする役割を果たす。


国家準拠型ステーブルコインは、仮想通貨圏と円建て経済圏をつなぐインターフェース、すなわち接続通貨として機能する。ボラティリティの高い暗号資産と、国家経済に求められる安定性とを両立させるためのゲートウェイであり、金融インフラが成熟した日本が担うにふさわしい制度設計である。


さらに、日本が仮想通貨圏において不可欠な存在となるための具体的戦略として、「ビットコイン誘致構想」を位置づけることができる。これは、マイニング(注1)に必要な安定電力、冷却設備、分散型データセンターといったインフラの提供、ならびに仮想通貨関連企業に対する制度整備を通じて、日本を暗号資産分野における国際的ハブとして確立しようとする構想である。


多くの国家が仮想通貨に対して規制強化へと傾く中、日本が一定の制度的開放性を維持することで、資本、人材、技術の流入を促進する余地が生まれる。ビットコイン・マイニングに不可欠な高度な冷却技術、安定した電力供給、信頼性の高い運用環境という観点において、日本は「適地」となりうる条件を備えている。


こうした環境整備と制度設計を前提に、日本が国家発行ステーブルコインのプラットフォームを保持し、ビットコインをはじめとする仮想通貨との接続性を制度的に担保するならば、日本は仮想通貨経済圏における「中立的ゲート国家」としての役割を果たしうる。その立ち位置は、特定の陣営や覇権構造に与することなく、異なる経済圏を接続する媒介として機能する点において、かつてスイスが国際金融において担った中立的地位を、デジタル通貨時代に再構成する試みと位置づけることができる。


この構想は、本書が掲げる「平和宣誓国家」という理念とも本質的に整合する。軍事力による抑止や威圧ではなく、制度、通貨、信頼を通じて国際秩序に関与するという姿勢は、非軍事的手段による安定化と仲介を国家の役割として明確化するものであり、通貨主権を外交および安全保障の基盤へと昇華させる発想である。


この潮流を見据え、日本が先手を打って制度を整え、国家ステーブルコインと仮想通貨経済圏との接続を図ることは、単なる経済戦略にとどまらない。それは、通貨を媒介とした新たな外交手段であり、非軍事的安全保障の具体的基盤を構築する試みでもある。資本とデータが国境を越えて移動する時代において、信頼される決済・接続基盤を提供する国家は、軍事的抑止とは異なる形の影響力を持ちうる。


もっとも、この構想を実体として成立させるためには、仮想通貨経済圏を支える大規模データセンターと、それを恒常的に稼働させる強靭な電力基盤が不可欠である。本計画では、その解として、洋上プラントへの設置を含む分散型エネルギー基盤の構築を構想する。将来的には水素エネルギーによる自律的運用を視野に入れつつ、現段階においても、深層海水を用いた冷却、洋上風力、波力発電といった自然エネルギーの並列利用、さらには陸上電力網との接続による冗長性確保など、複数の手段を組み合わせた運用が現実的に想定される。


このように、通貨制度、エネルギー基盤、データインフラを一体として設計することで、日本は仮想通貨経済圏において不可欠な「制度と基盤の提供者」となりうる。それは、軍事的優位に依存することなく国家の存在感と信頼を確立する道であり、平和宣誓国家としての理念を、抽象論ではなく構造として実装する試みにほかならない。




※ 注1 ー 暗号資産において、取引が正しく行われているかを多数の参加者が計算によって確認し、その記録を確定させる仕組み。国家や銀行のような管理主体を必要とせず、参加者の合意によって通貨の信頼性を保つための基盤技術である。

日本では、P2P技術をめぐる社会的・法的葛藤を描いた映画 Winny が制作されており、分散型技術と国家責任の関係は、すでに現実の問題として顕在化している。




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【3.5 ソフトパワー国家の骨格】


国家の存立を軍事力のみで支える時代は、水面下ですでに転換点を迎えている。経済ブロック化の進行は、国際通貨をめぐる覇権構造の変化として顕在化し、ドル基軸体制に対して、BRICSやグローバルサウスの台頭が現実的な圧力を加えつつある。


同時に、サイバー空間や宇宙空間を舞台とした新たな覇権構造が形成され、現代の国際社会において「戦場」はもはや物理空間に限定されない。そこでは領域支配そのものに加え、次世代エネルギー(例:ヘリウム3)を含む資源、技術、制度をめぐる競争が重層化している。軍事領域だけではなく、制度設計、技術標準、通貨信認、価値の共有といった非軍事領域こそが、国家の影響力と持続性を左右する主戦場となりつつある。


この環境下において「ソフトパワー国家」とは、単に文化的魅力を発信する国家を意味しない。それは、世界から信頼される制度と機能を提供し、国際秩序の中で不可欠な役割を果たし続ける国家の在り方である。さらに重要なのは、他国の延長線上ではない、日本固有の独立性と差別化を制度として確保することにある。


本節では、そうした国家像を実体として成立させる制度的骨格として、以下の四つの構想を提示する。



(1)国家機能の洋上分散 ― フロートプラント構想

第一の柱は、国家機能を物理的・地理的制約から解放する「フロートプラント構想」である。これは、再生可能エネルギー(洋上風力、太陽光、波力、水素)と、水素精製・輸送、海洋通信、分散型データセンター、海洋資源開発、さらには仮想通貨関連インフラまでを統合した、自律運用可能かつ移動可能な洋上拠点を構築する構想である。


資源制約と国土制約を同時に抱える日本にとって、「場」に依存せず国家機能を展開できる柔軟性は、主権の在り方そのものを拡張する意味を持つ。実際、商船三井による「水素をつくる船」の開発など、風力と水素を組み合わせた洋上自律生産の実証はすでに始まっており、本構想は単なる技術的空想ではない。


将来的には、宇宙インフラや無人ステーションとの接続も視野に入れ、物理的主権と仮想的主権を連動させた新たな国土概念の形成へと接続する。不侵略を前提とする堅牢平和主義の下では、限られた領土から最大の価値を創出するという制約を、創造性によって乗り越えることが国家的課題となる。



(2)官民連携型のファンドと合弁モデル

第二の柱は、「利益を生む国家構造」の構築である。

ここでいう利益とは、国家が利潤を目的として市場競争に参入することを意味するものではなく、国家運営の持続性を確保するため、税収や国債に過度に依存しない補完的な歳入基盤を制度的に形成することを指す。


従来の国家運営は、主として税収と国債に依存する財源モデルによって支えられてきたが、本構想ではそれらを否定するのではなく、税収のみでは担保し得ない中長期・高リスク・基盤的領域を補完する限定的な収益構造を付加することで、国家の制度的自立と経済主権を強化することを目的とする。


具体的には、各省庁が専門分野ごとに制度設計上の責任を持ち、先端技術や次世代産業において、民間単独では担いきれない基礎研究や長期投資領域に国家が関与する枠組みを構築する。その中核として、公共目的に拘束された国家関与型ファンドの設立および分野別官民合弁会社の創設を位置づける。


想定分野には、再生可能エネルギーおよび水素供給網、量子通信と次世代インターネット、冷却・電力技術を含む計算基盤、医療情報処理やゲノム解析を含む先端バイオテック、セキュアクラウドおよび分散型データ管理基盤など、国家の関与が不可欠である一方、市場原理のみに委ねることが適切でない分野を含む。


これらの分野においては、国家と民間が制度的に役割分担し、投資・研究・開発・知財管理・販売戦略を共同で担うとともに、売却・再編・撤退を含む出口戦略を制度段階から組み込む。これにより、補助金や一時的な財政投入に依存しない、限定的かつ循環的な歳入補完構造を形成する。


なお、ここでいう「利益」とは、株主配当や資本蓄積を目的とするものではなく、国家財政の歳入の一部として公共目的に組み入れられるものを指す。その用途は制度上厳格に拘束され、運営に携わる構成員は、公務員に準ずる責任と倫理規範を負う存在として位置づけられる。これにより、国家が利益主体とならないための透明性と検証可能性が制度的に担保される。



(3)国際的信頼と通貨基軸 ― 平和宣誓国家と仮想通貨戦略

第三の柱は、「堅牢平和主義」の理念を通じて国際的信頼を集積し、それを制度と通貨へ接続する国家ブランディングである。


その中核にあるのが、「非核兵器・専守防衛・不侵略」を基礎とする「平和宣誓国家」である。軍事的中立性を保ちつつ、自衛に限定された抑止力を維持する姿勢は、多くの国際機関や新興国に対し、日本を「信用に値する国家」として位置づける資産となり得る。


この「平和」と「信用」は、国家発行型ステーブルコイン構想と連動することで、デジタル経済圏における独自の通貨基軸形成へと接続される。将来的には、フロートプラント上での貿易決済、国家ファンド運用、仮想通貨市場における接続通貨としての活用も視野に入る。


さらに、日本がビットコイン・マイニングのための環境インフラや中継拠点(海洋データセンター等)を提供することで、分散型通貨ネットワークにおける重要ノードとなり、「自由で安定した仮想通貨市場の守護者」としての役割を担いうる。



(4)超先進的産業

第四の柱は、日本固有の独立性と差別化を「既存の産業領域」に限らず、より長期的な未来投資として拡張する構想である。ソフトパワーは文化領域に象徴されやすいが、実際には「未来に向けた挑戦」を国家が保持し続けること自体が、国際的信頼や人材吸引力の源泉となる。未来投資は、短期的な実現が確約された技術に限定されるものではなく、一定の飛躍を含む「思考実験」として、将来の選択肢を拡張しておく意義を持つ。


ここではその一例として、未来型医療の候補に「未来予防医療」を挙げる。本構想は、将来的にはすべての国民を対象とする制度として位置づけられるが、実装は、これから誕生する子どもたちの世代から段階的に開始されることを想定している。出生時に胎盤細胞を採取・保存し、それを基に個々人に最適化された血液構成を解析するという考え方である。

解析結果に基づき、幼児期に予防的医療介入を行うことで、寿命の増幅や特定疾患による早期死亡の抑制を目的とする。また、解析にはホヤなど海洋生物が持つ再生・分化機構の知見を応用することを想定している。


得られた最適化データおよび血液情報は、専用のブラッドセンターにおいて長期保管される。生命情報を扱う以上、その保管環境には、国家・企業・軍事的利害から可能な限り距離を取った空間が求められる。本構想では、このブラッドセンターを地上ではなく、政治的・軍事的介入が困難な領域である「月」に設置し、医療・生命情報を扱うデータセンターとしての機能も併せ持たせる。すなわち、月を平和的象徴として位置づける聖域化構想である。


この構想と連動するのが、「LUNAブースト計画(Linear–Unit for Non-explosive Ascent Booster)」である。本計画は、従来の爆発的点火方式に依存せず、滑走加速型によって初期運動エネルギーを獲得する非爆発型打ち上げ補助システムを目指すものである。

地上(仮:種子島宇宙センター)に設置された約20km規模のリニアレールを円環状に配置し、その上にロケット本体およびリニアタービン推進ユニット(注1)を搭載した滑車ユニットを設置する。レールは半円状(スキージャンプ形状)に立ち上げられ、滑走体は水平加速を維持したまま、連続的に上昇角を得る設計とする。

ロケット本体は、約700km/hで約60度前後の上昇角に達した段階で切り離され、慣性飛行によって地上インフラから十分な離隔距離を確保する。その後、姿勢および飛行状態が安定したことを確認した段階で、主エンジン点火へと移行する。

一方、リニアタービン推進ユニットおよび滑車ユニットは、半円状レールを円環構造へと接続することで減速・回収フェーズへ移行し、再利用を前提とした循環型運用を可能とする。

初期段階で求めるのは軌道到達ではなく、飛行可能な速度と姿勢を維持したまま、地上インフラから安全に離脱できる状態の確立である。

この円環接続型リニアレール構造は、初期加速の効率化に加え、機材回収・再利用・安全性確保を同時に成立させる設計思想を内包している。打ち上げを一方向的で消費的な行為としてではなく、地上インフラと連続した循環プロセスとして捉える点に、本構想の特徴がある。



以上の構想に共通する軸は、「軍事力を用いない新たな国家主権の確立」である。制度と理念、技術と経済を統合し、国家が倫理的かつ機能的ハブとして国際秩序を支える。これこそが、21世紀型ソフトパワー国家の骨格であり、日本がめざすべき未来像の中核である。





※ 注1 ー 「リニアタービン推進ユニット」

本計画における「リニアタービン推進システム」とは、従来のジェットエンジンにおけるタービン推進原理を地上インフラ側へ拡張・分離した進化型推進方式である。

推力を連続回転運動から生成するという点において、ジェットエンジンのタービン推進原理と構造的な連続性を持つが、本方式では爆発的点火を用いず、外部から供給される電力または圧縮エネルギーによって、回転機構そのものにリニア構造を組み込んだタービンを連続的に駆動し、その推力をリニアレール上の滑走体に伝達する点に特徴がある。

このタービンは、中心軸および外郭部の双方に磁力支持構造を備え、機械的接触を伴わない磁気浮上・磁気拘束によって、摩擦損失を極小化した回転状態を実現する。あわせて、磁力配置そのものが回転トルクを発生させる構成となっており、タービンの自転を生み出す駆動構造を形成している。

この磁気駆動原理は、リニアモーターやレールガンと同系統の電磁力学に基づくものである。レールガンが「リニアモーターを弾体に用いた直線加速装置」であるのに対し、本構想はこれをリニアモーターを円環構造に折り畳み、回転・循環系として再構成したものとして位置づけられる。

この構成により、従来ロケットや航空機が機体内部に抱え込んできた初期加速のための燃料および推進機構を、地上インフラ側へ移管することが可能となる。ロケット本体は、地上加速によって十分な速度と姿勢を獲得した後に切り離され、飛行体として必要最小限の推進および制御機能に専念する。

また、推進ユニットはロケット本体とは独立した再利用可能装置として設計され、円環接続型リニアレールと組み合わせることで、加速・減速・回収を含む循環運用を前提とする。

これは、打ち上げを一方向的で消費的な行為としてではなく、航空機の離陸支援装置を高度化・地上化した連続運用インフラとして再定義する試みである。





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【3.6 価値転嫁と自律型国家の原像へ】


本章では、財政構造の転換を起点として、「歳入主義」への移行、通貨主権の再構築、仮想通貨圏の構想、さらにはソフトパワー国家としての新たな国家像に至るまで、経済的自立を支える多層的な制度設計を提示してきた。これらはいずれも、単なる収支の均衡や効率性の追求にとどまらず、国家の存在意義そのものを問い直す試みである。


従来の日本は、「経済は民間、外交は軍事同盟、制度は前例主義」という、いわば“委任型の国家運営”を長く続けてきた。この構造は、一定の安定と繁栄をもたらした一方で、国家自らが意思と責任を引き受ける領域を狭めてもきた。しかし、グローバル資本主義の飽和と地政学的緊張が同時進行する今日において、もはや他者への依存を前提とした国家運営は、持続可能とは言い難い。


いま求められているのは、「自律する国家」である。それは、国家が自らの意思で歳入を生み出し、通貨を設計し、価値の流れを組み立て、技術と制度を媒介として国際社会と接続していく存在である。言い換えれば、国家を受動的な調整装置ではなく、自ら循環を生み出す「能動的経済体」として再定義することにほかならない。


このような国家像において決定的に重要なのは、制度の表層的な組み替えではなく、思考の前提そのものを更新することである。従来の延長線上で「成長」を語り続けるのではなく、その前提を一度切り離し、必要に応じて再接続できる柔軟性を国家が備えることが求められる。また、「規模」を縮減して「質」に置き換えるといった単純な転換ではなく、規模と質の双方を同時に成立させるという、一見すれば矛盾を孕む発想へと踏み出す覚悟が不可欠となる。


経済はもはや、量的拡大を競い合い、資源や市場を奪い合うための装置ではない。その役割は、必要な場所へ、必要なものを、必要な分だけ届けるという、狙いを定めた循環へと移行しつつある。そこに求められるのは、すべてを囲い込み独占する構図から脱し、国際社会と能動的に関係を結びながら、役割を分担し、適材適所の連携を築いていく交易のあり方である。成長の速度や総量ではなく、どれほど的確に、どれほどの信頼をもって機能しているか――その点こそが、経済の価値を測る基準となる時代が到来している。


この文脈において、仮想通貨やフロートプラント、合弁型国家ファンドといった「制度的革新」は、単なる新技術や新制度ではない。それらは、価値の流れそのものを再設計するための基盤であり、国家が直接支配するための装置ではなく、信頼が自律的に循環するためのインフラとして機能することで、新たな経済秩序を下支えする可能性を持っている。


国家とは、単に統治と徴税を行うための制度集合ではない。それは、社会に共有されるビジョンを提示し、そのビジョンが循環として機能し続けるための「器」である。経済政策とは、短期的な数値目標を達成するための技術ではなく、「何を大切にし、いかに循環させ、それをどのように次世代へ引き継ぐのか」という根源的な問いに応える思想でなければならない。


本章で示してきた制度群は、いずれも「国家を一つの生命体として捉える」という視座に貫かれている。収奪と拡張によって成長を遂げる旧来型モデルから、共生と循環を前提とした“自律進化する国家”への転換――それこそが、本計画の経済政策が目指す究極の方向性である。


もっとも、本構想は完成された解ではない。そこには、制度上の論理的矛盾や、現実的な実現可能性をめぐる困難が内包されている。だからこそ本構想は、固定された青写真ではなく、社会環境の変化や技術革新の進展に応じて、不断に修正され、更新され続ける「開かれた設計図」として位置づけられるべきなのである。


そして経済を考えるときには、短期的な効率や数値の積み上げに先立ち、人と社会を支える生存基盤という概念を出発点として、思考を巡らせる視座が共有されることを期待したい。


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