第6話:異常は歩くだけで騒ぎになる
ギルドの扉をくぐった瞬間、空気が変わった。
──静まり返る受付。
──振り返る人々。
──ざわめきと、視線の集中。
(あー……もう、嫌な予感しかしない)
「お、おかえりなさいませ、リリアーナ様っ」
受付嬢が慌てて立ち上がる。
なぜか、他の職員まで整列していた。
「先ほどの任務、報告は受けております。
魔獣討伐、確認済み。……ですが──」
「ですが?」
「……“本当にお一人で”?」
「うん。獣と、あとちょっと木を倒したくらい」
ギルド全体がざわついた。
「やっぱバグだろ……」「魔法陣、3枚重なってたぞ」
「俺のとこ、ランクBですらパーティ4人でギリだったのに……」
そのとき。
奥の部屋から、ギルド長らしき男性が現れた。
「戻ったか。リリアーナ=ユスティーナ嬢──いや、“Ωコード”」
言葉の選び方が、妙に慎重だ。
でも、敵意はない。
ただ、困っているだけだ。
「君の存在は、今やギルド内の危険警戒リストと、注目推薦枠の両方に載っている。
我々としても、どう“扱う”べきか困っていてな……」
「じゃあ、普通でいいよ。
まだ新人だし、“元没落令嬢”だし」
その言葉に、なぜか一瞬、空気が緩んだ。
でもギルド長は、真剣なまなざしのまま言った。
「いや……君は“新人”ではない。
既に“世界の仕様を越えた存在”だ。
ゆえに、私から一つだけ確認したい」
その目は、探るような、しかしまっすぐな視線だった。
「君は、“復讐”のために動いているのか?」
空気が凍った。
受付嬢が顔を上げる。職員が息を飲む。
でも、私は笑って答えた。
「……いいえ。
“整えるだけ”です」
世界が少しだけ傾いた分を、元に戻すだけ。
奪われた分を、正当に回収するだけ。
壊された日々の“帳尻”を──静かに、静かに。
「……了解した」
ギルド長は深く頷いた。
「では、次の任務について相談しよう。
“偶然にも”──君のかつての婚約者が関係する土地で、
少々“動き”があったようだ」
(偶然、ね)
静かに、でも確実に。
次の舞台が、動き始めていた。
──同時刻、王都・アルノー邸。
「なに……? 討伐した……? アイツが……!?」
机を叩いた手が震えていた。
部下が一歩引く。
「現地ギルドでは、“Ωコードによる対応”との記録が。
討伐映像、確認されました。三重魔法陣──複合展開」
「……ふざけるな……なんなんだ、あの女は……!」
怒りとも恐怖ともつかない吐息。
でも、それはまだ“導火線に火がついた”程度。
彼はまだ知らない。
──“Ω”は、まだ本気を出していないことを。
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