第4話:バグの力、初任務で漏れ出す
「……ここが任務対象地、レイデン街道北東帯か」
地図通りに進んで、王都の手前にある森に到着した。
木々は高く、湿った空気が漂い、視界は悪い。
魔獣が潜むにはちょうどいい環境だった。
(でも──空気が違う)
街とは明らかに違う“気配”。
肌にピリつくような魔力の濁りが、地面を這っている。
これはただの“魔物の巣”じゃない。
「っ……近い」
次の瞬間──
草むらから飛び出してきたのは、
黒い鎧のような外殻を持った、巨大な四足獣。
目が合うなり、全速力で突っ込んでくる。
(まあ、こうなるよね)
叫ぶ暇もない。
動くより早く、私は手を前に出していた。
「“風の盾”、展開」
パシュッという軽い音。
でもその直後、衝突音はなかった。
獣の巨体は、見えない壁に跳ね返され、
逆方向に吹き飛ばされていく。
木々をなぎ倒して、土煙とともに転がった。
「……思ってたより強いな、これ」
精霊王の力。
風の結界は、意識するだけで自動発動する。
しかも常時展開型。要は──**“攻撃が当たらない”**状態。
「接近戦、成立しないんじゃ……」
そのとき、頭の中の声が響く。
『この地、魔獣の根が走っておるな』
『悪魔の視点を送ろうか? 隠れてるやつ、丸見えだよ』
『では我の理を──魔力式展開解析、投入するぞ』
(うん、わかったから一人ずつ喋って!!)
全員が力を貸す気満々なのはいいとして、
情報が渋滞してる。
でも、そのおかげでわかった。
この森の“主”は──さっきの魔獣じゃない。
(中心部に、もっとヤバいやつがいる)
──そんなとき。
背後から、複数の足音が聞こえた。
「……っ、こっちに魔力の反応が──!」
現れたのは、4人組の冒険者パーティー。
装備も揃っていて、明らかに経験者。
彼らの目に、私の姿が映った瞬間。
「……おい、あれ、銀髪の……ケモ耳……!」
「光ってる……なんか、いろいろ……!」
「っていうか、倒れてる魔獣、あれ一撃か!?」
「なにあれ、バグ?」
──うるさいわ!!
「えっと……通りすがりの新人です」
嘘は言ってない。登録してまだ数日だし。
でも、彼らは明らかに引いていた。
「ちょ、おま……レイデン街道、魔物Bランクって聞いてたけど」
「お前、これソロでやってんの? 本当に人間?」
「ていうか、依頼これだけじゃなかったぞ。森の奥、まだ魔力濃いぞ」
(……やっぱり、いるんだ)
「君たちは下がってて。
この先、ちょっと空けてくる」
そう言って、私は一歩、森の奥へ足を踏み入れた。
(試してみようか。どこまで通用するのか──この“バグ”が)
──同時刻。
ギルド・ミストリア支部、観察室。
「リリアーナ様、先ほど第一目標を無力化。 現在、中心部への接近を確認」
「記録、継続。 ……“Ωコード”初任務としては、順調すぎるくらいですね」
机上には、リリアーナの魔力推移グラフが浮かんでいた。
明らかに、常識を超えた“異常値”。
(このまま行けば……“本件”にも触れられるかもしれない)
観察官は、王都方面の任務リストをちらりと見る。
そこに記された、ある名前。
──“アルノー=シュトラウス”。
……もうすぐだ。
バグは、ただの現象じゃない。
世界に、正当な清算をもたらす意志そのものだ。
気に入っていただけたら、ぜひ評価・ブクマしてもらえると続き書く元気が出ます!