第3話:世界がざわめく、彼女の一歩で
ギルド登録から一夜明けた。
案の定、私は街でめちゃくちゃ目立っていた。
「……あの、昨日の子じゃない? ケモ耳の……」
「いや耳だけじゃないだろ。髪の先、発光してたぞ」
「てかあの目、魔法陣じゃね?」「バグじゃん、ガチで」
街の雑踏を歩くだけで、人垣ができる。
ギルドから“存在コード:Ω”がリークされたらしい。
(※非公式に。たぶん誰かが喋った)
「変に騒がれても困るんだけどな……」
(でも、注目されるのは慣れてる。
元は貴族だったしね、表情と姿勢を崩さずに視線を浴びるなんて、日常茶飯事だったから)
(……だから、これくらいの騒ぎじゃブレない)
……まあ、耳と目と髪が発光してなかった時代の話だけど。
いや、違うか。
あの頃の“私”とは、もう別物だ。
──今の私は、神と悪魔と精霊王とその他もろもろと契約して、
“世界そのものからバグ認定された”存在。
派手なのは仕方ない。
ギルドに入ると、すぐに受付嬢が手招きしてきた。
「リリアーナ様、昨日のお話の件……“任務”、ご用意できました」
「お、初仕事?」
「いえ、あくまで通常依頼です。“たまたま”王都方面での案件がありまして」
(たまたま、ね)
受け取った依頼書には、こう書かれていた。
【王都近郊の魔獣調査】
【対象地域:レイデン街道・北東帯】
【報酬:上位換算】
【同行者:任意】
場所、タイミング、報酬。
どう見ても“特例案件”だった。
「ちなみに……」
受付嬢が、声を潜める。
「この任務の周辺には、王都ギルド所属のAランク──
“アルノー=シュトラウス”が定期巡回しているそうです」
「……そう、偶然ってやつだね」
彼の名前が出るたびに、胸の奥が熱くなる。
婚約破棄の裏で手を回し、
家を潰し、名誉を奪い、追放まで仕立てた男。
当時は手も足も出なかったけど、今は違う。
(今度は──こっちが“バグ”だ)
──そのころ、王都ギルド。
アルノーは報告書に目を通していた。
「……異常契約者、存在コード:Ω?」
肩書きが目に入るたび、
なぜか胸騒ぎがした。
そこに、部下の冒険者が駆け込んでくる。
「アルノー様、件の“元ユスティーナ家令嬢”、
地方ギルドで登録済みとの報告が」
「……は?」
「“特例観察対象”。それと……近くに向かっている、かと」
書類を見た瞬間、手が止まる。
そこには、
依頼名:王都近郊・レイデン街道の魔獣調査。
依頼人名:ギルド本部、観察官経由。
「……何のつもりだ、これは」
思わず、拳で机を叩いた。
(あの女……何をしてきた?)
けれど、それはまだ“始まり”にすぎなかった。
──そして、別の場所。
天空。
神の座から、一柱の女神がその様子を眺めていた。
「おやおや、早くも動き出したのですねぇ。Ωの契約者様」
空間に浮かぶ視界には、リリアーナの姿。
彼女の魔力が街に漂い、精霊たちが騒ぎ、
悪魔が微笑み、竜が羽ばたく気配すらある。
「これは……面白くなってきました。
そろそろ他の神々も気づく頃でしょう。
そして、“あの連中”も──」
空間が震えた。
それは、神の領域にすら届いた“契約の異常干渉”。
バグ令嬢が一歩動くたびに、
世界がざわめく。
そして、
誰もがまだ知らない。
──彼女はまだ、本気を出していない。
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