第2話:バグ、ギルドでざわつかれる
森を抜けた先に、小さな街が広がっていた。
舗装されていない石畳の道に、古びた木造の建物。
人の気配はそこそこ。市場のような通りも見える。
冒険者と商人が混在していて、活気はある。
(田舎……だよね、これ)
ただ、通りを歩くたびに──
人々の視線が、静かに集まってきた。
見られているのは分かっている。
でも、そりゃそうだろう。
──髪は銀に淡く輝き、
──瞳は中心に魔法陣のような光紋が浮かび、
──頭には、狐か狼のような“耳”が生えている。
しかも、その耳は微かに魔力を放っていた。
(……ケモ耳、なんで生えてるんだろ)
答えは聞いた。
頭の中の声が、得意げに語っていた。
「契約の余波! 魔力受信のための進化的改変だよ☆」
「神の加護と精霊王の融合だな。我が加護の証でもあるぞ」
「悪魔の力もあるぞ。我の趣味も少々入っている」
「つまりは、全部盛りの外見、ということだ」
(“つまり”じゃないってば……!)
いまの私は、“人間”という枠を明確に逸脱している。
でも、魔物でもない。
その“中間”にいる何か。
……だからこそ、誰も声をかけてこなかったのかもしれない。
とりあえず、街の中央にある建物へ向かう。
扉の上には、冒険者ギルドの紋章。
剣と魔法と盾を模した、どこかで見たようなテンプレロゴ。
「失礼します……」
中に入ると、カウンター、受付嬢、
剣を背負った冒険者や、ローブ姿の魔術師が数人。
……一斉に、空気が止まった。
(え、なにこの“何者現る”感)
受付に立っていた女性が、職務的な笑みを崩さずに応対した。
「ようこそ、ミストリア支部へ。登録希望の方ですか?」
「はい。冒険者として、新規登録をお願いしたいです」
「かしこまりました。それでは──」
そこまでは、順調だった。
──登録用の水晶玉に触れるまでは。
「……っ!?」
水晶玉が、ピキッと音を立てて、光り出した。
「ま、まさか……!」
「魔力量計測不能!? オーバーフローしてる……!」
「いや水晶割れるって何!? なんでここでバグるのよ!?」
カウンターにいた全員が、同時に数歩後退した。
書類は宙に舞い、魔導ランプが爆光を発する。
(うわ、派手すぎ……!)
精霊王が「どっかーん☆」と嬉しそうに言ってるし。
神は「加護、過剰にしておいた」とか言ってるし。
悪魔に至っては「混ぜたら楽しそうだったから」とか言ってるし。
「全員黙れ!! 心の中でうるさいんだよ!!」
声に出てたらしい。
全員、びくっとなってこっちを見た。
やっちまった。
受付嬢が、全力で奥へ駆けていく。
「セルゲ様ぁあああ!! 緊急コードっ!!」
──数分後、裏手から管理官風の男性が登場。
眼鏡をかけ、冷静な顔をしているが……
私を見るなり、露骨に眉をひそめた。
「……登録の件、私が対応します。よろしければこちらへ」
応接室に通された私は、しばらく無言だった。
管理官が数枚の水晶板を操作し、情報を読み取る。
「確認ですが、“リリアーナ・ユスティーナ”様で間違いありませんか?」
「はい。たぶん」
「“たぶん”?」
「……死にかけてたら、世界の主役たちと契約させられて、
その副作用でケモ耳と光る目とエフェクトつき髪になった感じです」
管理官が、資料を伏せた。
「“バグ”ですね」
「えっ、公式でそう呼ぶの!?」
「はい。世界契約監視機構からの正式コードです。
あなたは現在、【存在コード:Ω】で管理されています」
「いや、なんでそんなXでトレンド入りしそうな単語が……」
「ですが、ご安心ください。当ギルドは“バグ対応”に慣れています」
「……慣れられても困るよ?」
「それと、もうひとつ……確認です」
管理官が別の資料を出す。
そこには一人の名前が。
『アルノー=シュトラウス』
現在:王都ギルド所属/Aランク冒険者
「この人物を、ご存知ありませんか?」
名前を見ただけで、胃がムカムカした。
「……ええ。人生ぶっ壊された原因ですね」
管理官は眼鏡を押し上げると、静かに頷いた。
「では、こう表現しておきましょう」
──彼は口にした。
「“帳尻合わせ”、ですね」
「え?」
「当ギルドの非公式スラングです。
……“正当な清算を求める意思”には、可能な範囲で配慮します」
少し、笑ってしまった。
ギルドって、案外フレンドリーなのね。
(いいよ。 まずは登録を終えて、力を使える場を手に入れて、 それから……帳尻合わせに行こうか)
世界がバグったその日から、“異常契約者”は、確かに動き出していた。
AIさんに作ってもらった主人公のイメージイラストです!めちゃくちゃ出来が良くて感動してるんですけど、某ブルー○ーカイブのシ○コやんけ!とかは言わないように。た、たまたま似ただけだから...
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