第1話:世界バグ、目覚めて歩く
目が覚めた時、私は森の中にいた。
服は破れて、地面は冷たくて、周りには血の跡があった。
でも、不思議と痛みはなかった。
(……あれ? 私、死んだんじゃなかったっけ?)
たしか、狼みたいな魔物に襲われて──
鋭い牙が肩を貫いて、地面に叩きつけられて。
そのあと、意識が遠のいて──
「生きてる……? いや、生き返った……?」
身体を起こす。
不思議なほど軽かった。
肩の傷も、もう塞がっていた。
魔力が……体の奥から溢れている。
(ていうかこれ、常時回復? マナポーション飲んでる状態?)
頭の中では、例の“騒がしい面々”が健在だった。
「目覚めたか、我が契約者よ」
「おっはよー! 朝から魔力全開だねー!」
「我の理を使いたければ、いつでも呼べ」
「早く暴れようぜー!」
「支配力、増幅しておいたぞ」
「今朝の加護は“運勢大吉”だ」
(うるさいな!?)
起きたばかりの脳に、情報が多すぎる。
でも、状況はだいたい理解できた。
──私は、死にかけた。
──そのとき、世界中のとんでもない連中と契約した。
──結果、私は“存在コード:Ω”、分類:バグとされた。
(うん、わけがわからないけど、たぶんヤバい)
でも。
今さらどうにかできる話でもない。
だったら、やることはひとつ。
「……とりあえず、生き延びる」
「で、**全部に“けじめ”をつけに行く**」
森を抜ける方向に向かって、歩き始める。
体は軽い。魔力は溢れてる。回復も無限。
たぶん、もう普通の人間じゃない。
そのとき──前方から魔物の気配がした。
狼。
昨日と同じ種類。でも、数が多い。
(あ、これ……普通の冒険者なら詰むやつ)
でも、私は──
「“精霊王の風”、借りるよ」
ひとこと呟いた瞬間、
風が弾けた。
大気がうねり、魔力が空を裂いた。
一瞬で森の一帯が、まるごと吹き飛ぶ。
狼たちは、見る影もない。
地面には、深くえぐれたクレーターが残っていた。
(……やりすぎた)
頭の中で、精霊王が大爆笑している。
「いえーい☆ 一撃ぃ!」
「うむ、これぞ精霊王の力」
「控えめに言って規格外」
「……木々の魂には後で謝っておこうか」
「いや、マジでうるさいってば……」
そう、私はバグ。
神も悪魔も精霊も、その他もろもろも契約済みの、
“全盛り”状態の没落令嬢。
これからどうなるかはわからないけど──
とりあえず、次はギルドだ。
カードを再発行してもらって、
冒険者として登録して、
それから、元婚約者を──
「土下座させに行こうか。……世界バグの名にかけて」
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