【プロローグ】全勢力と契約したら世界がエラー吐いた件について
──世界が、バグった。
契約の神殿に警告が走る。
「存在しないはずの多重契約」が検出された。
魔王城の大図書室に炎が吹き上がる。
禁断の契約式が、同時に六系統発動していた。
天空の竜巣が揺れる。
古の守り手が、契約の“重複干渉”に目を見開いた。
──誰が、何と、いくつ契約した?
神が動き、悪魔が笑い、精霊王がはしゃぎ、竜王が目覚め、
勇者が賛辞を送り、魔王が静かに頷いた。
全ては、一人の“死にかけの少女”を巡って起きた現象だった。
王都の片隅。
捨てられた没落令嬢。
婚約破棄の汚名を着せられ、財産も家名も奪われ、
身ひとつで追放された娘。
森の奥、魔物に襲われ、血に染まり、息も絶え絶え。
そのとき、
空間が軋んだ。
──誰が最初だったのかは不明。
ただ確かなのは、“世界中の主権級存在”が、
同時に彼女と契約を結んだという事実。
通常、契約は一対一。
複数の存在が交差すれば、**世界法則が干渉し、契約は破棄される。**
しかし──
【全契約、完了】
神が彼女に加護を与え、
悪魔が魂の力を貸し、
精霊王が全属性を授け、
竜王が防護と変化の権能を渡し、
勇者が理を分け与え、
魔王が支配の牙を譲り渡した。
世界は、正常に処理できなかった。
結果として。
──世界は、彼女を“存在コード:Ω”として扱った。
「異常個体」
「干渉不可」
「バグ」
それが、彼女の“新しい名前”になった。
──そして、目が覚めた。
「……うん。死んだと思ったけど、生きてるっぽい」
森の中。血の跡。冷たい地面。
でも、体は軽い。
魔力が、体の中心から吹き上がっている。
「ていうか、なにこの“流れてくる感じ”。自動回復してない? コレ」
「いや待って、なんか声するし。え、何人いるの? 五、六……もっと?」
頭の中がざわめいている。
しかも、誰も彼もが“自分の契約者”を主張してくる。
「やあ! 私が精霊王だよーん!」
「ふん。我こそが真なる契約の担い手、魔王である」
「神の加護はすでに与えられている。お前は選ばれし者だ」
「おーい、契約完了おめでとー!」
「魂はいただいた、けど返しといた。気にすんな」
「よき器だな。我が理を授けよう」
「……うん。話が見えない」
とりあえず、私は生きてる。
でもそれは、
**“世界がエラーを吐くほど契約された”結果**らしい。
だから私は今、
“神と悪魔と精霊王とその他もろもろに契約された、世界のバグ”になっていた。
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