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8話


応接室を出て、メイドの後ろについて廊下を歩きながら、悠斗はまだ少し緊張が解けずにいた。


屋敷の中は静かで、磨かれた床がきれいに光を反射している。

「ユート様、改めまして。私はセーラと申します」

前を歩いていたメイドが、立ち止まって振り返り、丁寧にカーテシーをした。

年は悠斗と同じくらいか、少し下だろうか。落ち着いた雰囲気の女性だ。

「旦那様より、ユート様が数日こちらにご滞在なさる間、身の回りのお世話をさせていただくよう、仰せつかっております。何かご入用の際は、お気軽にお申し付けください」

「え? 数日……?」

悠斗は思わず聞き返した。

主人からは「一晩休むように」としか言われていない。

「あの、俺は一晩だけお世話になるつもりだったんですが……」

セーラは少し驚いたような顔をしたが、すぐににこやかに微笑んだ。

「あら、そうでございましたか? 旦那様は、ユート様にゆっくりしていただきたいとお考えなのかもしれませんね。詳しいことは、また明日、旦那様にお尋ねになってみてはいかがでしょうか」

「……そうですね。そうします」

セーラの言う通りだ。

今は深く考えても仕方ない。悠斗は頷いた。

「では、まずはお風呂へご案内いたします。お疲れでしょうから、ゆっくりとお入りください」


セーラに案内されたのは、屋敷の奥まった場所にある浴室だった。扉を開けると、湯気がふわりと立ち上り、清潔な石鹸のような良い香りがした。

浴室はそれほど広くはないが、壁も床も磨かれた石材で作られており、清潔感がある。部屋の中央には、悠斗が一人で足を伸ばして入れるくらいの大きさの、木製の浴槽が置かれていた。

驚いたことに、その浴槽にはなみなみと温かいお湯が張られていた。湯気からは、ほんのりと薬草のような香りもする。

「これは……どうやってお湯を?」

思わず呟くと、セーラは不思議そうな顔をした。

「魔導具でございますが……何か?」

どうやらこの世界では、お湯を出す魔導具はそれほど珍しいものではないらしい。

今はその原理を深く考えるのはやめよう。悠斗は思考を切り替え、ただただ温かい湯に浸かれることに感謝した。

「ごゆっくりどうぞ。お着替えはこちらにご用意しております」

セーラは棚に置かれた清潔な寝間着を示し、静かに部屋を出ていった。

一人になった悠斗は、服を脱ぎ、まず備え付けの桶でお湯を汲んで体を洗った。石鹸のようなものも用意されており、泡立ちも良い。サハギンとの戦闘でかいた汗や、森を歩いた汚れを洗い流すと、さっぱりとして気分が良かった。

そして、いよいよ浴槽へと足を踏み入れる。


「はぁぁぁ~~~~……」

思わず、声が出た。全身を包み込む温かいお湯の感触。ほんのりと香る薬草。腰の痛みがない体で、広い湯船に手足を伸ばす。

夜勤明けに入っていたシャワーとは比べ物にならない、極上の心地よさだ。異世界に来てから、緊張と疲労の連続だったが、この瞬間だけは全てを忘れられた。少し長めに、悠斗はこの至福の時間を満喫した。


風呂から上がり、用意されていたゆったりとした寝間着に着替えると、体だけでなく心まで軽くなったような気がした。

セーラが待っていてくれ、今度は食事の用意された部屋へと案内してくれた。


部屋の中央にあるテーブルには、急ごしらえとは思えないほど、たくさんの料理が並べられていた。焼かれた肉、野菜のスープ、柔らかそうなパン、果物……どれも美味しそうだ。一人で食べるには多すぎる量だが、空腹だった悠斗はありがたくいただくことにした。


異世界に来て初めての、まともな食事だ。味付けはシンプルだが、素材の味がしっかりとしていて、どれも非常に美味しかった。


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