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73話


ミストヴェイルでの滞在を終えた特別調査部は、数日かけてアルテナへと帰還した。

街の門をくぐり、見慣れたハーネット商会の屋敷に到着すると、皆の顔に安堵の色が浮かんだ。


帰還の報告を終え、特別調査部の執務室で片付けや報告書の整理をしていると、執事がユートを呼びに来た。

ダリウス会長がユートに会いたいとのことだった。


ユートはセーラを伴って会長室へ向かった。扉をノックし、入室の許可を得て中へ入る。


「失礼します、会長」


「ユート、セーラ殿。よく来てくれた。座ってくれ」



「ミストヴェイルからの帰還、ご苦労だった。ロベルト重役も無事アルテナに到着出来たし、ネトルシップ商会との話し合いも滞り無く終わった。今回の任務も、君のおかげで無事に終わった」


ダリウス会長はユートの功績を改めて称えた。


「ありがとうございます、会長。皆がそれぞれの役割を果たしてくれた結果です」


ユートは謙遜して答えた。


ダリウス会長は、少し表情を崩し、本題に入った。

「さて、ユート。実は、一つ頼みたいことがある」


「なんでしょうか?」


「リリアのことなんだが…」


ユートはリリアの名前を聞いて、少し意外に思った。リリアがダリウス会長の娘であることは知っていたが、彼女に関する任務とは。


「リリアが、海を見たいと言っていてな」


ダリウス会長は苦笑いした。

「どうやら、以前ユートに助けられた時に、海の話を聞いたらしい。それで、一度でいいから海を見てみたいと、私に頼み込んできたんだ」


ユートは、リリアが会長室を訪ねてきた時のことを思い出した。

あの時、彼女がダリウス会長に相談していたのは、このことだったのか。


「リリアは、まだ学校に通っている身で、普段はあまり自由に外出できない。だが、どうしてもというので、許可を出した。そこで、君たち特別調査部に、リリアの護衛と案内役を頼みたいんだ」


ユートは頷いた。リリアは、自分が異世界に来て初めて助けた人物だし、ダリウスの娘でもある。

彼女の願いを叶える手伝いができるなら、喜んで引き受けたいと思った。


「承知いたしました、会長。リリア嬢の護衛と案内、お引き受けします」


「ありがとう、ユート。学校のことは心配しなくて良い。こちらで手配しておく。リリアには、お付のメイドも同行させるから、その者も一緒に頼む」


ダリウス会長は続けた。

「行き先は、アルテナから南東に三日ほどの港街、ポートベストルを予定している。海を見るには、そこが一番近いだろう」


ポートベストル。ユートは地図を思い浮かべた。アルテナからは比較的近い港街だ。


「リリアは、初めての海だから、色々と買い物などもするだろう。その辺りも、よろしく頼む」


「はい、承知いたしました」


ユートは、リリアの護衛任務を引き受けた。


会長室を出て、執務室に戻ると、特別調査部のメンバーが待っていた。ユートは皆に、ダリウス会長から受けた新たな任務について報告した。リリアの護衛として、港街ポートベストルへ向かうこと。リリアのお付のメイドも同行すること。


皆は、リリアの護衛という、これまでの任務とは少し違う内容に、少し戸惑いながらも、ユートの指示に頷いた。


準備に取り掛かろうとしたその時、執務室の扉がノックされ、リリアが姿を見せた。彼女は、嬉しそうな、そして少し緊張した面持ちだった。


「ユートさん、皆さん…」


リリアは部屋に入ってきた。


「リリアさん、ちょうど話していたところです。ポートベストルへの護衛、お引き受けしましたよ」


ユートが笑顔で迎えた。


「ありがとうございます! ユートさんたちに同行していただけるなら、安心です! 海を見るのが、ずっと楽しみだったんです!」


リリアは目を輝かせながら、ユートたちに感謝の言葉を述べた。特別調査部の面々も、リリアの純粋な喜びに触れ、和やかな雰囲気になった。


リリアがユートたちと話していると、今度は執務室の扉が勢いよく開き、ゴードン輸送部長が飛び込んできた。


「ユート部長! 緊急だ!」


ゴードン部長は、日に焼けた顔に焦りの色を浮かべていた。


「どうしました、ゴードン部長?」


「緊急で、どうしても運びたい物があるんだが、輸送部の手が足りない! 護衛も必要でな! 悪いんだが、特別調査部からミアと、護衛を数名貸してもらえないか!?」


ゴードン部長は息を切らしながら訴えた。


ユートは眉をひそめた。リリアの護衛任務が決まったばかりだ。しかし、輸送部の緊急依頼も断るわけにはいかない。ハーネット商会の各部署をサポートすることも、特別調査部の重要な役割の一つだ。


ユートは、リリアの護衛任務のメンバーと、輸送部の緊急依頼に必要なメンバーを頭の中で振り分けた。特別調査部全員でリリアの護衛に行くには、輸送部の依頼に対応できない。かといって、リリアの護衛を減らすのも不安だ。



しばしの沈黙のあと、ユートは決断した。



「ゴードン部長、分かりました。輸送部の緊急依頼、お引き受けします。特別調査部を二手に分けましょう」


ゴードン部長は安堵した表情を見せた。


「リリアさんの護衛班は、俺とセーラ、エルザ、バルカス、ユージーンで行きます」


ユートはリリア班のメンバーを指名した。リリアの護衛には、戦闘能力の高いバルカス、エルザ、ユージーンをつけ、セーラには自分の補助とリリアのお付のメイドのサポートを頼む。


「輸送班は、ミア、カイン、エマ、ドラン、三つ子だ」


ユートは輸送班のメンバーを指名した。ミアは輸送のエキスパートであり、カインは情報管理、エマは事務処理、三つ子とドランは護衛として適任だ。


「輸送班の班長は…カイン、頼めるか?」


ユートはカインを見た。カインは真面目な顔で頷いた。

「はい、ユート部長。お任せください」


「ありがとう、カイン。輸送班には、護衛部から、追加で護衛を出してもらうことを俺からお願いしよう。ゴードン部長、それでよろしいでしょうか?」


ユートはゴードン部長に確認した。


「ああ、助かる! それで十分だ!」


ゴードン部長は力強く頷いた。


「急な展開で申し訳ないが、皆、すぐに準備に取り掛かってくれ。リリア班はポートベストルへ、輸送班はゴードン部長の指示に従ってくれ」


ユートの指示に、特別調査部のメンバーは一瞬慌てた様子を見せたが、すぐにそれぞれの任務に向けて準備を開始した。リリアは、自分が原因で皆が二手に分かれることになったことに、少し申し訳なさそうな顔をしている。


「ユートさん…私のせいで…」


「いや、リリアさん。これは特別調査部の仕事ですから。それに、輸送部の緊急依頼も、商会にとっては重要な任務です。気にしないでください」


ユートはリリアを安心させた。


特別調査部は、二つの異なる任務に向けて、急ぎ準備に取り掛かった。リリアの海への旅、そして輸送部の緊急依頼。新たな仕事が待っている。


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