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7話


ライオスに先導され、悠斗はハーネット商会の屋敷へと足を踏み入れた。

門をくぐると、そこは想像していたよりもずっと広々とした空間だった。石畳の中庭を囲むように、同じ様式で作られた複数の建物が並んでおり、商会の規模の大きさを物語っている。

使用人らしき人々が忙しなく行き交い、活気がありながらも整然とした雰囲気があった。


ライオスは迷うことなく中庭を横切り、一番奥にあるひときわ立派な二階建ての建物へと向かった。重厚な木の扉の前で、ライオスは軽く身なりを整え、悠斗に目配せしてから扉をノックした。

「旦那様、ライオスです。ユート殿をお連れしました」

「うむ、入りなさい」

中から、落ち着いた男性の声が響いた。同時に、リリアの少し高めの声も微かに聞こえる。ライオスが扉を開け、悠斗とガルドを促して中へ入った。

部屋は応接室のようで、豪華ではないが趣味の良い調度品が置かれていた。窓からは夕暮れの光が差し込んでいる。部屋の奥には、心配そうな表情のリリアと、革張りのソファーに腰掛けている一人の男性がいた。


長身痩躯で、歳の頃は五十代だろうか。

白髪混じりの髪を後ろで短くまとめ、落ち着いた雰囲気でありながら、その目には鋭い光が宿っている。

彼がこのハーネット商会の当主、リリアの父親なのだろう。

「おお、ライオス、ガルド、無事であったか。よく戻った」

主人はまず、二人の護衛に労いの言葉をかけた。その声は穏やかだが、威厳を感じさせる。

「はっ。申し訳ありません、旦那様。我々の不手際で……」

ライオスが頭を下げると、主人はそれを手で制した。

「いや、今は無事を喜ぼう。それで……」

主人の視線が、ライオスの後ろに立つ悠斗に向けられた。


「君が、ユート殿か。娘のリリア、そして我が商会の者たちを救ってくれたと聞いた。心から感謝する」

彼はソファーから立ち上がり、悠斗に向かってわずかに頭を下げた。

「特に、娘が無事だったのは、ひとえに君の勇気と、ライオスたちの奮闘のおかげだと聞いている。本当に、ありがとう」

娘を思う父親としての、偽らざる感謝の念が伝わってきた。

「いえ、俺はたまたま通りかかっただけで……」

悠斗が恐縮して言うと、主人は穏やかに微笑んだ。

「リリアから、おおよその話は聞いた。だが、ライオス、ガルド、君たちからも詳しく報告を聞かせてくれ。そして、このユート殿についても」


ライオスとガルドは、サハギンに襲われた状況、護衛たちの負傷、そして悠斗が駆けつけ、不意打ちでサハギンの一体を倒し、その後、見慣れない方法ながらも的確な応急処置を施してくれたことを詳細に報告した。ライオスは最後に、改めて悠斗を紹介した。


「このユート殿がいなければ、負傷者は出血で命を落としていたかもしれません。我々だけでは、お嬢様を守りきれたかどうかも……」

報告を黙って聞いていた主人は、深く頷くと、再び悠斗に向き直った。

「事情はよく分かった。ユート殿、重ねて礼を言う。君の勇気と機転、そしてその見事な手当てがなければ、事態は最悪の結果を迎えていただろう。この恩は、決して忘れん」

その言葉には、確かな重みがあった。


「今日は大変な一日だったろう。さぞ疲れているはずだ。まずはゆっくりと休んでほしい」

主人はそう言うと、部屋の隅に控えていたメイドに声をかけた。

「風呂と食事を用意させている。部屋も、この屋敷の一室を使ってくれ。さあ、ユート殿を案内して差し上げなさい」

「はい、旦那様」

メイドは恭しく一礼すると、悠斗に向き直った。

「ユート様、こちらへどうぞ」


悠斗は主人とライオスたちに一礼し、メイドの後について部屋を出た。

予想外の厚遇に戸惑いながらも、温かい風呂と食事、そして安全な寝床への期待が、疲れた体にじんわりと広がっていくのを感じていた。

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