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62話


ユートの宣言に、部屋は一瞬の静寂の後、驚きと興奮の声に包まれた。

「部長!? ユート様が!?」

「特別調査部……なんだかすごそうだな!」

「俺たちも、ユート様の部下に!?」

皆、予想外の展開に戸惑いながらも、どこか嬉しげな表情を浮かべている。


ユートは、皆が落ち着くのを待って、どんな仕事になるのかを簡単に説明した。

情報収集、特殊な物品の調達、時には秘密裏の輸送や交渉など、商会の表立った活動とは少し違う、特殊な任務を扱う部署になるだろう、と。


「へぇー、なんかスパイみたいでかっけー!」ロイが目を輝かせながら言った。「でもさ、ユート部長! そういう特別な仕事がない時は、俺たち何するんすか?」

ロイの素朴な疑問に、ユートは苦笑いを浮かべながら、きっぱりと答えた。

「正直に言うと……分かりません!。俺も今日、任命されたばかりなので。これからダリウス会長や皆と相談しながら、決めていくことになると思います」


ユートは続けた。

「後日、専用の執務室が用意されるそうです。それから、この件は改めてダリウス会長から皆に通達されるはずですので、それまでは他言無用、内密にしておいてください」

そして、皆に仕事に戻るよう促した。


メンバーたちは、まだ興奮冷めやらぬ様子で、部屋から退出していった。その際、それぞれがユートに声を掛けていく。

「ユート様、おめでとうございます! 私も精一杯サポートさせていただきます!」

「部長か! ま、あんたならやれるだろ!」

「期待してるぜ、ユート部長!」

「……(ぺこり)」

「……リーダーとして、ご活躍を期待しております」

「大変でしょうけど、頑張ってくださいね!」

「……ユート様の下で働けること、光栄に思います」

「弟たちがご迷惑をおかけしないよう、私がしっかり監督しますので」

「……ユート様、改めて、これからよろしくお願いします」


部屋にはユートとセーラ、なぜかまだ残っているユージーンだけになった。

セーラは、ユージーンも部屋から出たと勘違いしたのだろう。扉が閉まった瞬間、彼女はユートに駆け寄り、勢いよく飛びつくように抱きついた!

「ユート様! おめでとうございます! すごいです! 私、自分のことのように嬉しいです!」

普段は見せないような、満面の笑みで、心からの祝福の言葉を伝えてくれた。ユートも驚きながら、しっかりと彼女を抱きしめ、その喜びを分かち合った。


ガシャン

「……お、お取り込み中、悪いな」気まずそうなユージーンの声。

彼が部屋の隅で、こっそりと部屋を出ようとして、わずかに物音を立ててしまったのだ。その音に、二人はハッと我に返り、顔を真っ赤にしながら慌てて離れた。ユージーンは、バツが悪そうに視線を逸らしている。



数日後、ユートたち特別調査部のメンバーは、全員がダリウス会長のもとへ集められた。

会長室には、程よい緊張感が漂っている。


ダリウスは、集まったメンバーの顔を一人一人見渡し、厳かな口調で話し始めた。

「本日、ここに集まってもらったのは他でもない。ハーネット商会の新たな未来を切り拓くための、重要な決定を伝えるためだ」

彼は一度言葉を切り、宣言した。

「ハーネット商会は、本日をもって新しく『特別調査部』を開設する! そして、その初代部長として、ユートを任命する!」

ダリウスの言葉に、メンバーたちの間にどよめきが起こる。

「同時に、ここにいる皆には、本日付で特別調査部へ移籍してもらう。さらに、ユージーン・メニ・イェルフ殿を、特別調査部所属として正式に雇用する!」


ダリウスは、改めて特別調査部の業務内容を説明した。

「特別調査部の主な任務は、通常の商業活動では対応が難しい、特殊な案件だ。同業他社の動向調査や機密情報の収集、希少な物品の迅速な確保、時には秘密裏の輸送や、外部勢力との折衝交渉も含まれる。そして、会長である私や、各部長からの特殊な依頼にも対応してもらうことになる」

彼は続けた。

「この部署は、ハーネット商会の『目』となり、『耳』となり、時には『手足』となって動く、極めて重要な役割を担う。そのため、各専門部署には及ばないものの、任務遂行に必要な相応の権限と、独自の活動資金を与える。ユート部長の判断の下、柔軟かつ迅速に動ける体制を期待している」

その言葉は、特別調査部への大きな期待と、それに伴う重い責任を示唆していた。


ダリウスは、部署内での当面の役割(ユートが部長、エルザが護衛チームのリーダー格、カインが情報分析・記録担当、エマが経理・事務担当など、大まかな役割)を説明した。

「執務室については、現在、急ぎ準備中だ。申し訳ないが、完成が間に合わなかった」ダリウスは少し申し訳なさそうに言った。

「当面は、会長である私からの指示があるまでは、各部署の手伝いをしながら、新しい部署での連携訓練などを行っていてほしい。追って、正式な初任務を与えることになるだろう」


最後に、ダリウスは立ち上がり、メンバー全員に向けて、力強い激励の言葉を送った。

「特別調査部の諸君! 君たちには、ハーネット商会の未来がかかっていると言っても過言ではない! 未知の領域に踏み込み、困難な任務に立ち向かうことになるだろう。だが、君たちなら必ずやり遂げられると信じている! 互いに信頼し、助け合い、それぞれの力を最大限に発揮して、この商会に新たな風を吹き込んでくれ! 君たちの活躍に、大いに期待しているぞ!」

ダリウスの熱い言葉に、メンバーたちの士気は高まり、その目には決意の光が宿った。


会議の後、ユート達は、執務室になる予定の場所を見に行くことにした。

道中、他の部署の従業員たちから「ユート部長、おめでとうございます!」「特別調査部、期待してるぞ!」「頑張ってください!」など、様々な人から祝福や頑張るようにと声をかけられた。新しい部署への期待と注目が集まっているのを感じる。



案内されたのは、商会敷地内の一角にある、少し古いがしっかりとした建物だった。現在は改装中で、中からは職人たちが忙しなく作業をしている槌音や鋸の音が聞こえてくる。

「ここが、俺たちの新しい職場か……」

ユートは、感慨深げに呟いた。


ユート達は、改装中の建物を見上げながら、これから始まるであろう新たな任務、仲間たちとの連携、そして自分自身の成長に、新しい門出への期待で胸を膨らませるのだった。


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