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【感謝370,000pv突破】【完結】回復魔法が貴重な世界でなんとか頑張ります  作者: 水縒あわし
北方編

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60話


長い北方への遠征を終え、ユート達には数日間の休日が与えられた。

旅の疲れを癒し、アルテナでの日常を取り戻すための貴重な時間だ。その休日初日、ユートは新しく仲間になったユージーンに、アルテナの街を紹介することにした。


部屋を出る前に、ユートはユージーンに向き直り、いくつか重要なことを説明した。

「ユージーンさん、街へ出る前に、少し話しておきたいことがあります」

ユートは声を潜め、真剣な表情で続けた。

「俺は、表向きは火の魔法しか使えないことになっています。ですが、実は回復魔法も使うことができるんです。これは、会長やごく一部の人間しか知らない秘密です。この力が外部に漏れると、非常に厄介なことになる可能性があるため、基本的に常に護衛がついています」

ユートは、今日の扉の外にいる護衛を指し示した。


「彼らは、俺の護衛であると同時に、この秘密を守るための監視役でもあります。街中でも、不用意に魔法の話をしたり、目立つ行動は避けるようにしています。あなたにも、このことを理解し、協力してほしいのです」

ユージーンは、ユートの言葉を黙って聞いていたが、彼の真剣な眼差しを受け止め、静かに頷いた。

「……分かった。ユート様の秘密は、俺も命に代えても守ろう」


説明を終え、ユートとユージーン、そして護衛の4人は、連れ立って街へと向かった。



ユートたちが出発した後、セーラがユートの部屋を訪ねてきた。しかし、部屋はもぬけの殻。

廊下で偶然会ったメイドにユートの行き先を尋ねると、

「ああ、ユート様なら、ユージーン殿に街を案内しに行かれましたよ。護衛も一緒ですから、ご心配なく」

と教えられた。

「……そうですか」

セーラは、少しだけ唇を尖らせ、拗ねたような表情を見せた。自分も一緒に行きたかった、という気持ちが顔に出てしまっている。

自分の表情に気が付き、誰も見ていない事にセーラ小さく笑みを浮かべた。




ユートたちは、まず活気あふれる商業区を歩いた。様々な品物を扱う店が軒を連ね、多くの人々が行き交っている。

「ここがアルテナで一番賑やかな場所です。ハーネット商会の本店も、この一角にありますね」

ユートが説明すると、ユージーンは興味深そうに周囲を見回している。

フリューゲルとは全く違う、明るく開放的な雰囲気に、少し戸惑っているようでもある。

獣人の姿は、フリューゲルに比べると圧倒的に少なく、道行く人々の中には、珍しそうにユージーンをちらちらと見ている者もいた。

ユージーンは、その視線に気づいているだろうが、特に気にする素振りは見せず、堂々と歩いている。


次に、彼らは職人街へと足を向けた。鍛冶屋の槌音、木工所の木の香り、革製品の匂いなどが漂ってくる。

「ここでは、様々な武器や防具、日用品などが作られています。」

ユートは、腰に着けた巾着を見せながら説明した。ユージーンは、並べられた武具を興味深そうに眺めている。

彼も、槍の心得があると言っていた。何か気になるものでもあったのだろうか。


昼食は、市場近くの賑やかな食堂でとった。

アルテナ近郊で採れた新鮮な野菜を使った料理や、香ばしく焼かれた肉料理などを味わう。ユージーンも、最初は遠慮がちだったが、ユートや護衛たちが気さくに話しかけるうちに、少しずつ打ち解けてきたようだ。


午後は、行政区にある大きな図書館や、冒険者組合の支部などを外から眺め、それぞれの役割を説明した。そして、最後に街を見渡せる小高い丘へ登り、アルテナの街並みを一望した。

「ここが、これから俺たちが暮らす街です」

ユートの言葉に、ユージーンは黙って頷き、遠くの景色を見つめていた。その横顔には、まだ複雑な思いが窺えたが、フリューゲルにいた時のような絶望の色は消えているように見えた。


そんなことをしながら、ユートは数日の間、ユージーンに街を案内したり、商会の仕事について教えたりしながら、のんびりと休日を過ごした。セーラや他のメンバーとも、交代で街に出かけたり、食事を共にしたりして、旅の疲れを癒した。




休日も終わり、ユートは仕事に戻った。

ユージーンは、ユートの部下という扱いになったが、まだ具体的な仕事は決まっておらず、当面は商会の様々な部署の手伝いをしながら、アルテナでの生活に慣れていくことになった。


しかし、なぜか護衛部のエルザに目をつけられ、訓練と称して基礎体力作りや見回りの手伝いなどをこき使われているようだった。

彼女なりに彼を気にかけているのかもしれない。


ユートは、エレナの研究室で、スノーエイプの森を抜ける時に使った新しい魔法『ファイアーウォール』について、詳細を報告書にまとめていた。

使う際のマナ消費量、持続時間、威力、範囲など注意点や、炎の壁を維持するためのマナの流れなどのを理論を整理し、今後の訓練や実戦に活かせるようにするためだ。

途中で、北方での戦闘で少しくたびれた手甲のメンテナンスを、制作部の職人に頼んだりもした。


そんなことをしながら数日過ごしていると、再びダリウスから呼び出しがかかった。


前回の報告からそれほど時間は経っていない。何か急ぎの用件だろうか? ユートは少し緊張しながら、会長室へと向かった。


会長室の扉を開けると、そこにはダリウスだけでなく、商業部長のバルド、輸送部長のゴードン、護衛部代表のライオス、総務部長のアルバン、そして制作部のエレナまで、各部長たちが勢揃いし、真剣な顔をして椅子に座っていた。

部屋には、普段とは違う、重々しい空気が漂っている。


(これは……ただ事じゃないな……)

ユートは、何があるのか覚悟を決めつつ、静かに部屋へと入っていくのだった。


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