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51話


フリューゲルでの滞在が続き、ユートたちは『緋色の爪』一族の末裔に関する手がかりを探して、地道な調査を継続していた。街の古老に話を聞いたり、古い記録を漁った。

時には裏通りの情報屋に金を掴ませたりもしたが、有力な情報はなかなか得られずにいた。


そんな中、一つの進展があった。冒険者組合で『山鳴り石』の採取依頼を出していた件で、依頼を受けてくれるパーティーが現れたのだ。ユート、カイン、そして護衛のエルザが代表して、組合の個室で彼らと顔合わせを行った。


現れたのは、中堅クラスと思われる男女混合の冒険者パーティーだった。リーダーらしき屈強な戦士、軽装の斥候、ローブを着た魔術師、そして後方支援を担当する神官と弓使いの5人組だ。

「依頼主のハーネット商会のユートだ。今回は依頼を受けてくれて感謝する」

ユートが挨拶すると、リーダーの戦士が答えた。


「おう、俺たちは『銀狼』だ。よろしく頼む。しかし、『山鳴り石』の採取依頼とは珍しいな。あれは、天気が良くなりゃ、そこまで希少なもんでもない。今の高値は、あくまで天候不順のせいだぜ? 下手すりゃ、俺たちが採取してる間に天気が回復して、無駄金になるかもしれんが、それでもいいのか?」

彼は、確認するように尋ねてきた。

「ええ、構いません。我々は急ぎで『山鳴り石』を必要としています。危険な場所であることは承知の上です。報酬は約束通り支払いますので、どうかよろしくお願いします」

ユートがきっぱりと答えると、戦士はニヤリと笑った。

「話が早くていいな。分かった、引き受けた。せいぜい期待に応えられるよう、頑張らせてもらうぜ」

こうして、『山鳴り石』の調達は、ひとまず冒険者たちに託されることになった。


その日の午後、ユート、セーラ、レナータの3人は、街の中心街から少し離れた、獣人たちが多く暮らす居住区画を探索していた。『緋色の爪』一族に関する聞き込みのためだ。


すると、偶然にも、先日迷子になっていた狐耳の子供と、その母親に遭遇した。

「あら、この間の……!」

母親の方が先に気づき、笑顔で駆け寄ってきた。

「先日は本当にありがとうございました。この子も、すっかり元気になって」

子供も、セーラの顔を覚えていたのか、少し恥ずかしそうにしながらも、ぺこりとお辞儀をした。


「いえいえ、お元気そうでよかったです」セーラも笑顔で応える。

少し世間話をした後、ユートは意を決して尋ねてみた。

「実は、お母さん。少しお聞きしたいことがあるのですが……この辺りに、『緋色の爪』と呼ばれていた獣人の一族について、何かご存知ありませんか?」


その名前を聞いた瞬間、母親の表情がわずかに曇った。そして、それまで母親の後ろに隠れていた子供が、突然ユートたちを睨みつけ、怒ったように叫んだ。

「『緋色の爪』のおじさんのこと!? もしかして、おじさんを捕まえに来たの!? やだ、行かないで!」

子供は母親にしがみつき、警戒心を露わにする。


「ち、違うんです! 私たちは、その方を捕まえに来たわけでは……!」


ユートは慌てて否定し、母親に事情を説明した。自分たちがハーネット商会の者であること、仕事で『陽炎石』という特別な石を探しており、その石について詳しい『緋色の爪』の一族の方を探していること、決して危害を加えるつもりはないことなどを、丁寧に伝えた。


母親は、ユートたちの話を黙って聞いていたが、まだ警戒を解いてはいないようだった。

子供も、ユートたちをじっと見つめている。


「……『緋色の爪』の一族は、昔、この街で大きな力を持っていましたが、今は……。彼らに関わるのは、あまりお勧めできませんよ。色々と、複雑な事情があるようですから……」

母親は、何かをためらうように言った。


「そこをなんとか……! どうしても、その方にお会いして、お話を聞きたいのです。決してご迷惑はおかけしません。どうか、紹介だけでもしていただけないでしょうか?」

ユートは、真剣な表情でお願いした。セーラとレナータも、隣で静かに頭を下げる。


母親はしばらく考え込んでいたが、ユートたちの真剣な様子と、先日子供を助けてくれた恩義を感じたのか、小さく溜息をついた。


「……分かりました。ただし、相手の方が会ってくれるかどうかは分かりませんよ。明日の夕方、街外れにある古い石橋のところへ来てください。相手の方に、一度確認してみますので」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

ユートたちは、思わぬ手がかりに感謝し、改めて礼を言ってその場を立ち去った。


宿に戻り、他のメンバーに今日の出来事を報告すると、皆、驚きと期待の表情を見せた。

「ついに、『緋色の爪』の手がかりが……!」

「明日、会えるといいですね……」

一歩進んだかもしれないという事実に、調査隊の間に安堵と興奮が広がった。


その夜は、皆で夕食を囲みながら、明日の面会への期待と、これまでの調査の労をねぎらい合った。

まだ確実ではないが、陽炎石入手の道が、ようやく少しだけ見えてきたような気がした。


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