40話中編2
ロンドベルの街の宿に落ち着き、一息ついた後、ユートはメンバー全員を誘って、宿の食堂でささやかな宴会を開くことにした。
長旅の疲れを癒し、予期せぬ追加の任務に対するチームの結束を高めるためだ。バーナード支店長が手配してくれた宿は、清潔で居心地が良く、食堂の料理も地元の食材を使った美味しいものだった。
「さあ、皆さん、今日は無礼講です! 旅の疲れを癒しましょう!」
ユートが音頭を取り、皆で乾杯する。久しぶりの宿での食事と、気兼ねない雰囲気に、メンバーたちの表情も和らいでいく。
お酒も入り、宴が進むにつれて、それぞれの個性もよりはっきりと見えてきた。
意外なことに、輸送部のミアは、普段のビビリな様子とは裏腹に、かなりの酒豪だった。エールをジョッキでぐいぐいと飲み干し、「ぷはーっ! やっぱり仕事の後はこれですね!」と快活に笑っている。
護衛部のエルザも、顔色一つ変えずに淡々と杯を重ねており、相当強いことが窺える。三つ子たちも、姉に負けじと(あるいは絡む口実に)酒を飲み、リックとロイは陽気に騒ぎ、無口なレックスも少しだけ表情を緩めている。彼らも酒には強いようだ。
一方で、商業部のカインは、最初の乾杯のビール一杯で顔を真っ赤にしており、明らかに酒には弱いタイプだった。それでも、場の雰囲気を壊さないように、ちびちびと飲み進めている。
セーラとエマは嗜む程度、レナータ、バルカス、ドランはほどほどを守りながら、和やかに談笑している。
宴が少し落ち着いた頃、ユートは隣に座るカインに、そっと声をかけた。
「カインさん、さっきは反対意見を言ってくれて、ありがとうございました。俺も、リーダーとしてまだ未熟なので、カインさんのような冷静な意見は助かります」
「いえ、リーダーの決定に異を唱えるような形になり、申し訳ありませんでした……」カインは恐縮したように頭を下げる。
「ただ……」ユートは続けた。「俺は、商機を掴むことと同じくらい、人との信頼関係を築くことも大事だと思うんです。バーナード支店長は、困っている状況で俺たちを頼ってくれた。そして、ダリウス会長の先輩でもある。ここで彼の頼みを無下に断ることは、長い目で見た時に、ハーネット商会にとってマイナスになるかもしれない、そう思ったんです。それに、交易の経験は、俺たちにとってもきっとプラスになるはずです」
ユートの真摯な言葉に、カインは少し驚いたような顔をしたが、やがて深く頷いた。
「……なるほど。ユート様のお考え、理解いたしました。確かに、目先の効率だけを追うのが商売の全てではありませんね。私の視野が狭かったようです。リーダーの決定に従い、全力でサポートさせていただきます」
カインは、少しだけ表情を和らげ、ユートに敬意のこもった視線を向けた。これで、チーム内のわだかまりも解消されたようだ。
その後は、ここまでの道中の振り返りの話で盛り上がった。
「いやー、最初のロックボアはデカかったよな!」リックが興奮気味に話す。「ロイの盾がなかったら、馬車ごとやられてたかも!」
「まあな! 俺の盾は最強だからな!」ロイが胸を張る。
「ナイトハウルの時は、ユート様の灯りが本当に助かりました。あの暗闇では、我々も苦戦していたでしょう」バルカスがしみじみと言う。
「レナータさんの弓もすごかったですよ! 暗闇でも正確に!」セーラが感心したように言うと、レナータは少し照れたように視線を逸らした。
「野盗の時は、ユート様のフレイムスピア、痺れましたね! まさか一撃であんな……」ドランが言うと、ユートは少し複雑な表情を浮かべたが、「皆さんが無事でよかったです」とだけ答えた。
「ミアさんの解体もすごかったよね! あんな大きな猪を、あんなに手際よく……」エマが言うと、ミアは「えへへ、それくらいしか取り柄がないですから……」と照れ笑いを浮かべた。
カインも、「道中の記録は順調です。特に、各地の植生や鉱石の分布には興味深い傾向が見られます。北方に近づくにつれて……」と、専門的な話を始め、皆を少しだけ退屈させたが、それもまたご愛嬌だ。
失敗談や、苦労したこと、楽しかったこと、それぞれの視点から語られる旅の思い出。長いようで短かったここまでの出来事を語り合ううちに、メンバーたちの間には、当初とは比べ物にならないほどの一体感が生まれていた。厳しい自然、魔物の脅威、そして予期せぬ出来事。それらを共に乗り越えてきた経験が、彼らを一つのチームとして強く結びつけているのだ。
宴は夜更けまで続き、最後は皆で肩を組んで(酔っ払ったリックとロイが中心になって)、商会の歌を歌ったりして、大いに盛り上がった。
久しぶりのベッドで眠りにつく前、ユートは今日の宴会を思い返していた。個性豊かで、時にはぶつかることもあるかもしれない。それでも、この仲間たちとなら、きっとどんな困難も乗り越えていける。
リーダーとしての責任は重いが、それ以上に、このチームで旅を続けられることへの喜びと期待を感じていた。明日1日は休息で英気を養い、追加の任務である輸送と交易に臨もう。ユートは、心地よい疲労感と共に、深い眠りに落ちていった。




