38話
出発前日。ユートは、今回の任務に同行するメンバーとの顔合わせのため、商館内の少し広めの個室に昼食の席を設けた。
部屋にはすでに、ユート、セーラ、レナータ、バルカス、ドランの5人が集まっている。新しい仲間たちとの共同任務に、期待と少しの緊張が入り混じる。
やがて、扉がノックされ、ぞろぞろと新しい顔ぶれが入ってきた。自然と、各部門ごとに席が固まっていく。
ユートは立ち上がり、集まったメンバーを見渡した。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今回の調査隊のリーダーを務めさせていただくことになりました、ユートです。まずは、自己紹介をお願いできますでしょうか」
最初に口を開いたのは、商業部から来たカインという名の若い男性だった。背筋を伸ばし、眼鏡の位置を直しながら、話し始めた。
「商業部のカインです。今回の北方地域市場調査において、記録及び現地での情報収集補佐を担当いたします。規定に基づき、ユート様の指示に従い、任務を遂行する所存です。よろしくお願いいたします」
言葉遣いは完璧だが、どこか事務的で、感情が読みにくい印象だ。
次に、輸送部から来たミアという名の女性が、少しおどおどしながら立ち上がった。小柄で、大きな瞳が不安げに揺れている。
「あ、あの、輸送部のミアです……! えっと、馬車の管理とか、荷物の運搬とか……やります! あの、高いところとか、暗いところとか、虫とかは苦手なんですけど……が、頑張りますので、よろしくお願いします……!」
声が小さく、語尾が消え入りそうだ。ビビリな性格が前面に出ている。大丈夫だろうか、と少し心配になる。
続いて、総務部のエマという女性が、謙虚な様子で挨拶した。
「総務部のエマと申します。セーラさんには、いつもお世話になっております」彼女はセーラに優しく微笑みかけた。
「今回の遠征では、経費の管理や記録、皆さんの身の回りのお世話などをさせていただきます。至らない点も多いかと存じますが、精一杯努めさせていただきます」
物腰が柔らかく、気が利きそうな雰囲気だ。セーラと顔見知りというのも心強い。
最後に、護衛部の4人の姉弟が立ち上がった。
まず、姉のエルザが、凛とした態度で名乗った。
「護衛部のエルザです。今回の任務では、護衛チームの現場指揮を補佐し、ユート様の安全を確保いたします。弟たちがご迷惑をおかけするかもしれませんが、その際は私が責任をもって指導いたします」
しっかり者で、頼りになりそうな雰囲気が漂っている。
続いて、その後ろから三つ子の弟たちが前に出た。
「イェーイ! リックでーす! 槍担当! ユート様って、出世めっちゃ早いっすねー! 俺らより後に入ったのに、もう隊長とか!」
陽気なリックが、いきなり失礼なことを口にする。
「こら、リック! ユート様に失礼だろう!」エルザがすかさず弟を叱る。
「へへー、すいませーん! で、俺はロイ! 盾役でーす! エマさん、めっちゃ可愛いっすね! よろしくお願いしまーす!」
少しおっとりして見えるロイは、悪びれもなくエマに馴れ馴れしく話しかける。
「……チッ、ロイ! お前もか!」エルザの額に青筋が浮かぶ。
そして、三番目のレックスの番になったが、彼は黙って俯いているだけで、何も喋らない。
「……レックス! あんたも自己紹介しなさい!」
エルザが促すが、レックスはもじもじするだけで、一向に口を開こうとしない。
「この……!」
痺れを切らしたエルザが、レックスの頭に拳骨を落とした。
「いっ……!」
レックスは小さく呻いたが、それでも喋ろうとはしなかった。どうやら極度の無口らしい。
「はぁ……すみません、ユート様。こいつはこういう奴で……弓の腕は確かですので、ご容赦ください」エルザが代わりに謝罪した。
「ははは、こいつらは相変わらずだな……」
「昔から、レックスはああだったな……」
バルカスとドランは、顔見知りの三つ子の様子に呆れながらも笑っている。
「……実力はありますので」レナータが冷静に付け加えた。
ユートは苦笑しつつ、個性豊かなメンバーに少しだけ不安を覚えたが、これも旅の醍醐味かもしれない、と思い直した。
ユートは改めて今回の遠征の概要(市場調査と、実際の希少品調達、目的地、期間、指揮系統など)を説明し、全員に協力を求めた。
昼食が終わり、ユートは早速マルコの元へ行き、今回の遠征に必要な物品の手配を依頼した。
「マルコさん、明日出発の件ですが、いくつかお願いしたいことが……」
「はい、ユート様。お待ちしておりました。ある程度の準備は、すでに始めさせていただいております」
マルコはにこやかに答えた。さすが仕事が早い。
「まず、長距離で期間も長いので、荷馬車は少し大きめのものを用意していただけますか? それから、道中の食料や水、野営道具、予備の武器や防具なども……」
ユートは必要なものをリストアップしていく。
「承知いたしました。すぐに最終手配をいたします。それから、遠征資金ですが、ダリウス様より指示があり、同行される総務部のエマさんに、それなりの金額を預ける手はずとなっておりますので、ご安心ください」
「ありがとうございます、助かります」
諸々の手配をマルコにお願いし、ユートは自分の準備に戻った。
夕方、エレナがユートの部屋を訪ねてきた。
「よう、ユート。これ、持っていきな」
エレナは、畳まれた衣服の束をユートに手渡した。それは、ハーネット商会の紋章が入った、丈夫そうな素材のチュニック、ズボン、そしてマントだった。
「商会の新しい制服だ。まあ、まだ試作段階だがね。今回の商隊には、先行でこれを支給することになった。予備も含めて3着ずつあるから、汚したり破いたりしても大丈夫だろ」
「ありがとうございます、エレナ様!」
ユートは感謝を伝え、制服を受け取った。
部屋に戻り、ユートは5人で集まり、改めて新しい隊員達の印象を語り合った。
「商業部のカインさんは、真面目そうだけど、少し融通が利かないかもしれませんね……」セーラが少し心配そうに言う。
「輸送部のミアさんは、怖がりなご様子でしたが、一生懸命さは伝わってきました」レナータが冷静に評価する。
「総務部のエマさんは、気が利きそうで助かりますね。セーラさんと連携すれば、道中の生活も安心でしょう」ドランが言う。
「護衛部のエルザ殿は、信頼できそうだ。問題はあの三つ子だが……リックとロイはともかく、レックスは大丈夫なのか?」バルカスが溜息をつく。
「まあ、昔から口数は少ないが、弓の腕は確かだ。いざとなれば頼りになるはずだ」ドランが保証する。
「……連携が取れれば、ですが」レナータが付け加えた。
それぞれの個性は強いが、うまくまとめなければならない。ユートはリーダーとしての責任を改めて感じた。
出発前夜、ユートは配られた新しい制服に袖を通してみた。しっかりとした作りで、身が引き締まる思いがする。
地図を広げ、北方へのルートを再確認し、エレナに作ってもらった手甲を入念に手入れする。インベントリの中身も最終チェックし、薬草や道具を整理した。
隣の部屋からは、リックとロイの騒がしい声と、それを諌めるエルザの声が聞こえてくる。
明日から始まる長い旅に向けて、それぞれの準備が進んでいるようだった。期待と不安を胸に、ユートは眠りについた。
新キャラたくさんです。