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28話


アルテナへの帰路、商隊の雰囲気は行きとは少し違っていた。

昨夜の激戦の興奮と疲労、そして安堵感が入り混じっている。道中、他の商隊員たちは口々にユートの魔法の凄さを褒めた。

「ユート殿のあの火がなけりゃ、もっとやられてたぜ!」

「まさか魔法を間近で見られるとはな!」

彼らにとって、魔法はやはり特別なものなのだろう。ユートは照れながらも、自分の力が認められたことに喜びを感じていた。


もちろん、各々が昨夜の自分の手柄について語り、武勇伝を披露し合う光景も見られた。

輸送部の屈強な男がホブゴブリンを殴り倒した話、護衛部のベテランが巧みな剣捌きでゴブリンを翻弄した話など、皆、死線を乗り越えた高揚感に包まれている。


護衛部の中には、昨夜の戦闘で怪我をしている者もいたが、幸い荷馬車は荷物を降ろして空いていたため、負傷者は馬車に乗って移動することができた。

ユートが施した応急処置と、神官の治療のおかげで、命に別状のある者はいなかったのが不幸中の幸いだった。


夜の野営では、見張りも普段とは違うローテーションで、より厳重に行われた。昨夜の襲撃を受け、誰もが警戒を強めていた。

ユートは、負傷した隊員の代わりを買って出て、他の隊員よりも長めに見張りを行った。戦闘時に何発もの魔法を使い、回復魔法まで使ったが、膨大な魔力量のおかげで体力的な負担は少ない。

その分、移動中はバルカスとドランに周囲を任せ、荷馬車の中で休憩させてもらいつつ過ごした。


幸い、帰り道は何事もなく無事に過ぎ、数日後、一行は懐かしいアルテナの街に戻ってきた。


ハーネット商館に戻り、中庭でライオスが今回の商隊の解散を宣言した。

「皆、ご苦労だった! 今回は大変な任務になったが、よくぞ無事に帰還した! しばらくはゆっくり休め!」

ライオスの言葉に、隊員たちから安堵の声が上がる。


解散とは言っても、すぐに休みに入れるわけではない。商会の仕事は山積みだ。隊員たちはそれぞれの部署に戻り、後片付けに取り掛かる。

総務部員は、今回の商隊で使った物品や経費の計算。護衛部員たちは、戦闘で傷んだ武具の保守点検。

輸送部員たちは、酷使した馬車の整備と、馬たちの念入りな世話に追われていた。


ユートは、ライオス、そしてセーラと共に、ダリウス会長の元へ報告に向かった。執務室に入ると、ダリウスは早馬による報告しか受け取っておらず、宝石の産出とその対応までしか知らなかったため、やや心配そうな表情で彼らを迎えた。


「おお、ライオス、ユート殿、セーラ、無事に戻ったか! 道中、何か変わったことはなかったかね?」


ライオスが代表して、シルヴァンでのゴブリン襲撃の件を詳細に報告した。鉱山と巣穴が繋がったこと、商会員の死傷者、その後の対応、戦闘の結末、そしてユートとバルカス・ドランの目覚ましい成果。

併せて、今回の商隊では売却は延期、鉱石買い付けも中止した事を報告した。


報告を聞き終えたダリウスは、まず支店の被害を心配し、犠牲者が出たことに沈痛な表情を見せた。

そして、『深淵の涙』を入手できなかったことを残念がりつつも、ライオスたちの判断を労った。

「そうか……大変な事態だったのだな。支店長や残った者たちも心労が大きいだろう」

彼はすぐに総務部のアルバンを呼び出し、シルヴァン支店への見舞いの品と人員の手配、そして『深淵の涙』を競り落とした謎の商人についての調査を命じた。


「ライオス、イレギュラーが多かった今回の商隊だったが、よくぞ皆を率いて無事に帰還してくれた。ご苦労だった」

ダリウスはライオスを労い、次にユートに向き直った。

「ユート殿、君の活躍も、出発前には想像もできないほどだったと聞いている。本当に、よくやってくれた。今回の商隊員達には、臨時の手当と十分な休暇を与えることを約束しよう」


ダリウスは、部屋にダリウス、ライオス、ユート、セーラの4人しかいないことを確認すると、声を潜めて尋ねた。

「それで、ユート殿。魔法の腕前は、実践を経てどうだったかね?」


ユートは、ライオスとセーラに視線を送り、意を決して報告した。

「はい。攻撃魔法は、エレナ様にご指導いただいた通り、実戦でも使うことができました。そして……回復魔法ですが、こちらも上達したと思います。正直、手当ての最中に、他の者の目がない状況で、無意識に使ってしまっていたようで……」

ユートは打ち明けた。

「ですが、後で神官の方々にも、特に気づかれることはありませんでした。自分でも驚くほど、精密な制御ができていたようです」


ライオスはユートの告白に目を見開いて驚いた。

彼も回復魔法のことは知らされていなかったからだ。


一方、ダリウスは、ユートの報告にやや険しい顔をしたが、すぐに溜息をついた。

「……そうか。本来なら厳禁だが、今回の被害状況を考えれば、やむを得なかったのかもしれんな。結果的に多くの命が救われたのであれば、今はそれを良しとしよう。だが、今後はさらに慎重に行動するように」

ダリウスは改めて釘を刺した。


報告が終わり、ユートはセーラと共にエレナの研究室へと戻り、エレナに今回の任務について報告した。

「おう、無事に帰ってきたか。ご苦労さん」

エレナは、ユートの話を聞きながら、特に魔法を使った際の感覚やマナの流れについて詳しく質問してきた。

「ふーん、なるほどねぇ。土壇場で回復魔法の制御が上達した、と。火事場の馬鹿力ってやつかね? まあ、結果的に魔法の腕が上達している様子で何よりだ。褒めてやるよ」

いつものぶっきらぼうな口調だが、その声には満足感が含まれていた。


そこで、隣にいたドランが、ユートにそっと目配せした。例の魔法石のことだ。

「あ、そうだ、エレナ様。お使いの件ですが……」

ユートは懐から、あの透明な魔法石を取り出し、エレナに渡した。

「これは……!?」

エレナは魔法石を受け取ると、目を輝かせ、様々な角度から光に透かしたり、魔力を通したりして確認を始めた。

「……間違いない。かなり質の良い、無属性の魔法石だ! しかもこの大きさ! ユート、お前、どこでこんな上物を!?」

ユートは、ホブゴブリンが持っていた経緯を正直に話した。

「へぇ、ゴブリンがねぇ……。まあ、どんな経緯だろうと、結果オーライだ!」

エレナは魔法石を大事そうに握りしめた。

「これなら、かなり良い武器が作れるぞ! よし、先ずはこいつを加工する! ちょっと時間はかかると思うがね。出来上がるまでに、どんな武器の形がいいか、考えておきな!」

エレナはすっかり研究者の顔に戻り、手に入れたばかりの魔法石を手に、早々に研究室の奥へと籠ってしまった。


残されたユート、セーラ、バルカス、ドラン、レナータの5人は、エレナのあまりの没頭ぶりにやや呆れながらも、顔を見合わせて微笑んだ。


色々なことがあった初めてのキャラバンだった。危険な目に遭い、多くのことを学び、そして確かな成果も得た。

ユートは、無事に帰れたことを祝い、そしてこれからの日々に思いを馳せながら、自室でゆっくりと休むのだった。


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