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23話


アルテナの街を出発したハーネット商会の商隊は、ゆっくりと隣町シルヴァンへと続く街道を進んでいった。

荷馬車4台のうち、前の3台には売却予定の農作物や日用品、そしてエレナが開発した魔道具などが満載されている。そして最後尾の1台には、総務部の職員3名と、道中で消費する食料や水、その他の物資が積まれていた。


ユート、バルカス、ドラン、そしてセーラとレナータは、その最後尾の馬車の周辺に位置取り、列についていく。最初はセーラもユートたちと一緒に歩いていたが、長距離を歩くことには慣れていないのか、昼前には少し息を切らせてしまい総務部の職員に声をかけられ、途中で馬車に乗せてもらうことになった。

レナータは変わらずセーラの近くに付き添っている。


道中は比較的穏やかだった。

護衛部のメンバーや輸送部の御者たちが、時折ユートに声をかけてくる。

「あんたがユートか! 前にガルドを助けてくれたって聞いたぜ!」

「制作部では何をしてるんだ? エレナ様の助手だって?」

「魔法が使えるって聞いたが、どの程度なんだ?」


好奇心からの質問が多い。ユートは当たり障りのない範囲で答えつつ、最後の質問には、ライオスの許可を得て、指先に小さな火球を灯し、それをコントロールして見せた。完全に消したり、少しだけ大きくしたりする程度のものだったが、魔法を間近で見たことのない者たちからは「おおっ!」という感嘆の声が上がった。バルカスとドランは、そんなユートの様子を頼もしそうに見守っている。


一日目は特に大きな問題もなく無事に進み、日が暮れる前に、一行は街道から少し外れた開けた場所で夜営の準備を始めた。

総務部の職員たちと共にセーラは、手際よく食事の準備に取り掛かる。干し肉と野菜を入れたスープ、硬いパンを水で戻したものなど、野営にしてはしっかりとした食事が用意された。

ある程度の規模の商隊になると、こうして総務部の担当者が同行し、食事の準備やその他雑務を請け負ってくれるため、他のメンバーは自分の仕事に集中できるのだという。

輸送部の御者たちは、大切な馬の世話に余念がない。


一方、護衛部は、周囲の警戒を怠らず、三人一組のチームを組んで夜警のシフトを組んでいた。

ライオスは、ユート、バルカス、ドランを呼び寄せた。

「ユート殿、君たち3人も、特別に夜警のローテーションに入ってもらう。実戦経験を積むという意味もあるし、自分の身は自分で守るという意識も持ってもらいたい」

もちろん、最初はライオス自身が一緒につくことになった。


焚き火の明かりが揺れる中、ユートはライオスと共に最初の夜警についた。周囲の闇に耳を澄ませ、時折吹く風の音や虫の声に緊張しながらも、ライオスは初めての商隊同行について、ユートに色々と話を聞かせてくれた。

商隊の仕事の厳しさ、魔物との遭遇経験、護衛としての心構えなど、その言葉は経験に裏打ちされた重みがあった。


夜が更け、交代の時間まであと少しという時、見張りのために灯していた松明の一本が、風でふっと消えてしまった。予備の火種はあったが、暗闇の中で火をつけるのは少し手間がかかる。

「……ユート殿、頼めるか?」

ライオスが静かに言った。ユートは頷き、集中して指先に意識を向ける。《灯れ》。小さな火球が現れ、慎重に松明の先に近づけると、再び頼もしい炎が燃え上がった。

「助かる」

ライオスの短い言葉に、ユートは少しだけ誇らしい気持ちになった。


何事もなく夜が明け、交代の護衛たちが戻ってきた。夜明けと共に、総務部とセーラが用意してくれた温かいスープとパンで朝食をとり、手早く支度を整えて、一行は再び出発した。


二日目の道のりも順調に進み、昼過ぎには、前方に隣町シルヴァンの城壁が見えてきた。

アルテナとはまた違う、落ち着いた雰囲気の街並みだ。無事に目的地にたどり着いたことに、商隊の誰もが安堵の表情を浮かべていた。

ユートにとっても、初めての商隊任務の第一段階が無事に終わった瞬間だった。


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