20話
その夜、エレナが指定したハーネット商会経営のレストランの個室には、すでにユート、エレナ、セーラ、バルカス、ドラン、そして手配役のマルコが集まっていた。落ち着いた雰囲気の店内は、普段の商会の喧騒とは違い、リラックスした空気が流れている。
「よし、とりあえず揃ってるメンバーで始めちまうか!」
エレナが待ちきれないといった様子でグラスを高々と掲げた。
「バルカス、ドランの全快と、ユートの歓迎、そしてまあ、日頃の労をねぎらって! 乾杯!」
「「「乾杯!」」」
それぞれのグラスが軽やかに打ち鳴らされ、懇親会が始まった。
料理はどれも美味しく、アルテナの新鮮な食材が使われているのだろう。ユートは異世界に来てからの目まぐるしい日々を思い返しつつ、目の前の温かい雰囲気に心地よさを感じていた。
しばらくして、個室の扉が開き、ライオスと、ガルド、そしてその妻のミーナが顔を出した。
「すまん、遅くなった!」
ライオスが少しバツが悪そうに言う。
「いやいや、ちょうど良かったところですよ」
ユートが声をかけると、三人は席に着いた。
改めて全員で乾杯し、近況報告などで話に花が咲いた。バルカスとドランは、回復後のリハビリの様子や、これからユートの護衛として働く意気込みを語った。ユートも、魔法訓練の進捗や、制作部の手伝いの様子などを話した。
ガルド夫妻からは、改めてあの時の治療費の件で、ダリウスが配慮してくれたことへの感謝の言葉が述べられた。
「ユート殿と旦那様には、本当に頭が上がりません」
ミーナが感慨深げに言った。
宴が進むにつれて、それぞれのペースでお酒も進んでいく。
怪我から復帰したばかりのバルカス・ドランとガルドは、大事を取ってお酒はほどほどに、ソフトドリンクや軽い果実酒を楽しんでいる。
マルコとセーラは、どうやら二人ともお酒には弱いらしく、すぐに顔を赤くして呂律が怪しくなってきた。一方、ガルドの妻と、護衛のレナータは、談笑しながら適度に杯を重ねている。レナータは普段の冷静な表情を少し崩し、柔らかな笑みを見せていた。
そして、対照的にめちゃくちゃ飲んでいるのが、ライオスとエレナの二人だった。
「おいエレナ! まだ飲めるのか!」
「あたりまえだろライオス! あんたこそ、年のせいかペースが落ちたんじゃないのかい?」
二人は大きなジョッキでエールのようなものを煽り、互いに挑発し合いながら豪快に飲み進めている。長年の付き合いなのか、気心の知れた様子だ。
やがて、マルコとセーラは完全に出来上がってしまい、テーブルに突っ伏したり、意味不明なことを口走ったりと、管を巻いている状態に。
「もー、まるこさん、しっかりしてくださいよー」
「せーらさんこそ、ふにゃふにゃじゃないですかー」
そんな二人を見て、バルカスとドランは楽しそうに笑っている。
「やれやれ、この二人は……」
ミーナが呆れたように言い、夫のガルドとレナータが協力して、潰れた二人に水を飲ませたり、介抱したりし始めた。
その傍らで、ライオスとエレナは、まだ飲み比べを続けていた。しかし、ただ騒いでいるだけでなく、時折真剣な表情でこれからのこと……ユートの育成方針や、商会の警備体制、そして警戒すべき外部の動きなどについて、なんとなく意見を交わしているようだった。
賑やかで、少し騒々しくて、でも温かい。
ユートは、この異世界で得た仲間たちとの時間を、心から楽しんでいた。
彼らがいれば、これからどんな困難が待ち受けていようとも、きっと乗り越えていけるだろう。そんな確かな手応えを感じながら、ユートもまた、穏やかな笑みを浮かべてグラスを傾けるのだった。
飲み会のことを書いていたらお酒が飲みたくなりました。。。
私は外で飲むのが好きです。。




