15話後編
会議が終わると、ダリウスはエレナを伴って、再びユートの部屋を訪れた。
彼の顔には、先ほどの会議の疲労と、決断を下した後の覚悟が滲んでいた。
「ユート殿、待たせたな」
ダリウスは椅子に座るよう促し、会議の結果をユートに伝えた。
「先ほどの会議で、正式に決定した。ハーネット商会として、君を我々の庇護下に置く」
彼は、ユートの身分がエレナの直属の部下扱いになること、セーラが引き続き専属で世話をすることを説明した。そして、護衛体制について、さらに詳しく付け加えた。
「君の安全確保は最優先事項だ。そこで、まず直属の護衛として、バルカスとドランを回復次第、専属で配属する。彼らは君に直接仕え、常に傍で守ることになるだろう。君への恩義もある、信頼できる者たちだ」
ダリウスは一度言葉を切り、慎重に言葉を選びながら続けた。
「だが、それだけでは万全とは言えん。君の持つ『力』、特に回復魔法の適性については、絶対に外部に漏れてはならない極秘事項だ。そこで、追加の警護体制を敷かせてもらう」
彼はユートの目をしっかりと見据えた。
「君が滞在するこの制作部の建物には、我が商会の護衛部の者を数名、常に常駐させる。彼らは建物の警備にあたり、不審者の侵入を防ぐ。そして、君が外出する際には、必ず護衛部の者が1名、付き添うことになる」
ダリウスは声を潜めた。
「ただし、この護衛部の者たちには、君が回復魔法を使えることは伏せてある。彼らが知っているのは、君が攻撃魔法の適性を持っているということだけだ。商会の他の者たちや外部に対しても同様に説明する。『ユート殿はハーネット商会の恩人であり、稀有な魔法の才能を持っている。そのため、商会として特別に保護し、護衛をつけることになった』とな。少々窮屈に感じるかもしれんが、これも君の安全と、情報の秘匿のためだ。理解してほしい」
ダリウスは真剣な眼差しでユートを見た。
「君の才能は、まだ未知数な部分が多い。だからこそ、まずはエレナの元で学び、その力を正しく扱えるようになることが重要だ。そして、君の安全を守るためにも、これらの体制をとらせてもらう」
「これは、君を縛るためではない。君を守り、そして君の才能を育むための最善策だと、我々は判断した。ついては、君にはハーネット商会の従業員として、正式に働いてもらうことになる。もちろん、相応の給金も支払う。この提案、受けてくれるだろうか?」
ダリウスからの打診。
それは、単なる保護ではなく、商会の一員として迎え入れるという意思表示であり、同時に厳重な警護と情報統制を敷くという覚悟の表れでもあった。
回復魔法の件を隠す必要性、そしてそのための厳重な体制に、事の重大さを改めて認識させられた。不安はまだ残るものの、自分を守り、導こうとしてくれる彼らの申し出を断る理由はなかった。
「……はい。快くお受けします」
悠斗は、まっすぐにダリウスの目を見て答えた。「俺にできることがあるなら、精一杯やらせていただきます。よろしくお願いします。事情も……理解しました」
「うむ、それでこそだ」
ダリウスは安堵の表情を浮かべ、隣のエレナも「話が早くて助かるよ」と頷いた。
こうして、佐藤悠斗――改めユートは、ハーネット商会の一員として、異世界での新たな一歩を踏み出すことになった。
それは、厳重な保護と秘密を抱えながらも、未知の可能性に満ちた道のりの始まりだった。