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151話


 仲間たちの温かい、しかし期待に満ちた視線が、ユートとセーラの一点に集中する。



 ドランの「いつになるんですかい?」という問いかけは、ここにいる誰もが、心のどこかで思っていたことだったのだろう。



 セーラは顔を真っ赤にして俯き、ユートも照れ笑いを浮かべるしかない。



 しかし、ユートは隣で恥ずかしそうにしながらも、どこか嬉しそうにしているセーラの横顔を見つめ、そして、幸せそうに笑う仲間たちの顔を見渡し……覚悟を決めた。



「皆さん」


 ユートが、静かに、しかし凛とした声で切り出した。



 その場の喧騒が、すっと静まる。


「今日は、バルカスさん、エルザさん、ドランさん、エマさん。四人の、素晴らしい門出の日です。そんな日に、俺個人の話をするのは、本当に申し訳ないと思っているのですが……」



 ユートは一度言葉を切り、皆の前で、セーラに向き直った。



 彼の脳裏に、この世界に来てからの、彼女と共に過ごした日々が駆け巡る。



(初めて会った時から、セーラはいつも俺のそばにいてくれた。ゴブリンに襲われたあの夜の恐怖も、ミストヴェイルで俺が魅了された時の絶望も、そしてボルガナで心が壊れそうになった時の痛みも……彼女は、いつも乗り越えて、俺を支え続けてくれた。俺がこの世界で得た、最初の、そして最大の宝物だ)



 込み上げる万感の想いを胸に、ユートはセーラの潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめた。



「セーラ」


 ユートは、彼女を敬称も役職もつけずに呼んだ。



 セーラの肩が、小さく震える。



「ごめん。ずっと、待たせてしまったな」

 ユートは、皆が見守る中で、静かに片膝をついた。



 そして、インベントリから、いつかこの日のためにと用意していた、小さな箱を取り出す。



「俺は、君がいない未来を、もう考えることはできない。これからも、ずっと、俺の隣で笑っていてほしい。セーラ……俺と、結婚してください」



 箱を開けると、中には仲間たちと一緒に選んだアクアマリンが、控えめながらも美しい銀の指輪に設えられて輝いていた。



 セーラの大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ落ちる。


 彼女は、嗚咽を漏らしながらも、震える声で、しかしはっきりと答えた。



「……はい……! はい、ユート様……!」

 その答えを聞いた瞬間、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。




 仲間たちが、まるで自分のことのように、二人の婚約を祝福している。


 ユートは立ち上がり、セーラの指にそっと指輪をはめ、そして、涙で濡れた彼女の顔を優しく抱き寄せた。



 ひとしきりの祝福が落ち着いた後、ユートは幸せそうな顔で涙を拭うセーラの隣で、今日の主役である四人に向き直り、深々と頭を下げた。



「バルカスさん、エルザさん、ドランさん、エマさん。本当に、申し訳ありません。皆さんの大切な日に、こんな形で……」


 しかし、四人は顔を見合わせると、悪戯っぽく笑った。



「ユート様、謝らないでください」


「実は……これも、私たちの計画だったんですから」



 エマとエルザの言葉に、ユートは目を丸くした。


「正直、進展のないお二人に、やきもきしていたんです。セーラさんにも、申し訳なくて……」


「ええ。だから、私たちが最高の舞台を用意して差し上げよう、とね」



 バルカスとドランも、ニヤニヤしながら頷く。



「そうですよ、部長! こうでもしないと、部長はいつまで経っても、先に進めないでしょうからな!」


 どうやら、仲間たちは皆、グルだったらしい。



 その温かいお節介に、ユートは呆れながらも、心からの感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。



 式の最後に行われた、ブーケトスの時間。


 花嫁であるエルザとエマは、ブーケを後ろに投げるふりをして、くるりと振り返った。



 そして、二人はまっすぐにセーラの元へと歩み寄ると、その手に、自分たちのブーケをそっと手渡した。



「セーラ、おめでとう」


「幸せになってくださいね」


 二人の親友からの、最高の祝福。



 セーラは、二つのブーケを胸に抱きしめ、涙と笑顔で、何度も頷いた。



 仲間たちの温かい愛に包まれ、ユートとセーラの未来が、今、確かな光と共に始まった。


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